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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第1部

    白猫夢・秋分抄 1

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    麒麟を巡る話、第1話。
    大剣豪の息子。

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    1.
     とある、教会の中。
    「母さん?」
     白地に茶色と言う毛並みをした、黒髪の猫獣人の男の子が、不意にうずくまった三毛耳の母親を見て驚く。
    「どうしたの?」
    「……あ、……いや」
     普段から気丈に振る舞い、凛々しい姿を見せるこの母が、こんな青ざめた顔を見せるとは思わず、少年は戸惑った。
    「顔色、わるいよ? 大丈夫?」
     が、顔色とは裏腹に、その声はいつも通りにはっきりと、芯の通った音を放っている。
    「心配無用、……だ。疲れが溜まっていたのかも知れぬ。少し、休むとしよう」
    「あ、うん。……はい」
     少年は母の手を引き、近くの椅子に腰かけさせた。
    「ダメだよ、無理しちゃ」
    「はは……」
     母親は少年の頭を優しく撫でながら、こんな風に返してきた。
    「いや、久しぶりの旅行で、多少はしゃいでしまったようだ。
     ……思い出すよ、昔、私がこの辺りを旅していた時のことを」
    「ここ、前にも来たことあるの?」
    「ああ」
     少年も母の横に座り、続いて質問する。
    「いつ?」
    「いつだったかな、えーと……、そう、12、3年ほど昔かな」
    「その頃、何をやってたの? どんな旅だったの?」
     母親は肩をすくめ、こう返す。
    「今とそれほど、変わらない。その時も私は、剣士だった。旅は、その関係でやっていた」
    「へぇ」
     彼女の言う通り、その腰には、見事な刀が佩かれていた。
     少年は母親の活躍を、もっと小さな時から聞き及んでいたし、その旅がどれほど波瀾万丈に満ちたものであったか、想像を膨らませていた。
    「むしゃしゅぎょー、ってやつ?」
     が、この問いには若干、母親は口ごもる。
    「いや、その」
     彼女ははにかみ、答えを濁してしまった。
    「……まあ、そうしておいてくれ」
     しかし少年にとっては、その答えは彼女を剣士として尊敬するに、値するものだった。
    「すごいね、母さん」
    「……ふふっ」
     やがて胸中に生じたそのときめきは、彼にこんなことを言わせた。
    「ねえ、母さん」
    「うん?」
    「オレもいつか、むしゃしゅぎょーに出てみたい」
     その言葉に、母親はにっこりと笑って見せた。
    「はは、それはいい。剣士を目指すなら、やってみろ」
    「うん」
     少年も、満面の笑顔で応えてみせる。
    「期待しているぞ」
     母親はもう一度、少年の頭を優しく撫でつけた。
    「秋也」



    「秋也くん」
    「……んあ……」
    「秋也くーん」
    「……んにゅ……」
    「しゅ、う、や、くーん」
     三度も名前を呼ばれ、トントンと頭を叩かれたところで、秋也は飛び起きた。
    「ふあっ!? ……おっ、おはようございます、藤川の姉(あね)さん!」
    「もお、秋くん遅いよー。もしあたしが君を狙いに来た刺客だったら君、とっくに額に穴開けられて死んじゃってるわよ?」
     そう言ってクスクス笑う大先輩の短耳、藤川霙子に、秋也はぺこぺこと頭を下げた。
    「すみません、精進します」
    「ま、今日くらいは目一杯寝といた方がいいかも知れないけどね」
    「えっ?」
     聞き返した秋也に、霙子は「あ」と返した。
    「ごめーん、今のは内緒。聞かなかったことにしといて」
    「え、あ、はい……?」
     きょとんとする秋也に背を向け、霙子は身支度するよう促した。
    「顔、洗ってらっしゃい。シャキっとしとかないと、今日の試験、通らないわよ」
    「はい、ありがとうございま……」
     秋也はもう一度、ぺこりと頭を下げる。
    「……早えぇー」
     顔を挙げた時には、霙子は既に、寝室の戸を閉めた後だった。



     彼の名は、黄秋也。「縛返し」「蒼天剣」の異名を持つかの大剣豪、黄晴奈の息子である。
     この日は彼の、焔流剣士としての真価を問う日――免許皆伝試験の実施日となる。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    皆様、大変お待たせいたしました。
    ここからが本編の始まりです。
    よろしくお付き合いくださいませ。

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    2014.7.13 修正
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    NoTitle 

    どもども、始まりました。
    しかし今回、ほとんど名前しか出ない人です。

    NoTitle 

    おっ、さっそくあの人の名前が。

    待ってましたっ!(^^)
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