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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第1部

    白猫夢・秋分抄 2

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    麒麟を巡る話、第2話。
    幼馴染は家元。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「おはよう、秋也」
     家元の間に通された秋也は、ぴし、と背筋をただした。
    「おはようございます、こゆ、……家元」
     上座に座っていた、まだどこか幼さの残る長耳は、にこりと笑って立ち上がった。
    「『小雪お姉ちゃん』でも構わないけれど?」
    「い、いえ」
    「まあ、そう呼ぶような歳でも無いわよね。何だかんだ言って、わたしももう25だし、あなたも18になるし」
    「19です」
    「ああ、ごめんね。……と、コホン」
     現焔流剣術家元、焔小雪は空咳をし、場の空気を改める。
    「本日、あなたには焔流剣術の、免許皆伝試験を受けてもらいます。
     試験については、何か聞いてる?」
    「いえ」
    「なら、いいわ。付いてきなさい」
     秋也を伴い、小雪は試験場へと向かう。
    「試験の内容は、至って簡単。丸一日、つまり24時間、試験場内で眠らずに過ごすことよ」
    「あ、だから藤川の姉さん……」「ん?」「あ、いえ、何でも」
     10分ほどで秋也たちは試験の場、伏鬼心克堂に到着した。
    「入門時、あなたはここで何か、見た?」
     小雪の問いに、秋也はクスクスと笑う。
    「ええ、鬼を」
    「それなら分かると思うけれど、ここは自分の心の中で思ったことが、その場に現れるところ。
     24時間ずっと、無心ではいられないでしょうし――そんなことしてたら寝ちゃうわね――何が起ころうと、意識を途切れさせないようにね」
    「はい」
     刀と防具を装備させられた状態で、秋也は堂の中央に残された。
    「それじゃ今から、試験開始よ。24時間後、起きてる状態でわたしと問答を交わせたら、試験は合格。
     それじゃ、頑張ってね」
     そう言って小雪は、すとんと堂の扉を閉ざした。

     一人残った秋也は、入門した時のことを思い出していた。
    (朝見た夢……、アレって確か、オレが9歳か、10歳かくらいの時だよな。
     央中の、ゴールドコースト市国。あそこにある、ウィルんちの教会で、……そう、オレはあの時初めて、母さんに、『剣士になりたい』って言ったんだ。
     それから央南に戻った後、いきなり『紅蓮塞へ行くぞ』って言われて、で、このお堂で……)
     そこまで想起したところで、秋也の目の前に、入門した時に見たものと同じものが現れた。
    「……よお、久しぶり」
     現れたのは、筋骨隆々とした肉体に襤褸(ぼろ)を纏い、己の腿ほどもある金棒を担ぎ、頭に猛牛を思わせる角を一対生やした、幻想の益荒男――鬼だった。
     鬼は一言も発さず、秋也に襲い掛かってきた。
    「うお、っと!」
     秋也はひらりと初弾をかわし、刀を抜く。
    「やる気ってんなら、オレも本気出すぜ!」
     秋也の構えた刀に、火がすうっと走る。
    「『火刃』ッ!」
     秋也が10年修業した焔流剣術の神髄、「燃える刀」である。
    「さあ来いよ、筋肉デブ!」
    「グオオオオ!」
     鬼は咆哮を挙げ、秋也の頭めがけて棍棒を振り下ろす。
     それをトン、と一歩退いてかわし、すぐにまた、一歩、二歩と踏み込む。
    「りゃあああッ!」
     猛々しく燃える太刀が、鬼の額をざくりと割った。
    「ゴッ、ゥオオオオ……」
     鬼は悲鳴に近い咆哮を漏らし、ごとんと音を立て、仰向けに倒れた。
    「お、っとと」
     その振動で一瞬、秋也の体は浮き上がったが――。
    「……へへ、どんなもんだ」
     秋也はすとんと床に降り立ち、勝ち誇った。
    「コレで試験、修了か? だとすると、あんまりにも味気無さ過ぎるけど……?」
     と、自慢げに鼻を鳴らしつつ、そうつぶやいたところで――。
    「ま、そりゃそうか。コレで終わりじゃ、なぁ?」
     秋也は振り向き、いつの間にか現れた新たな鬼と対峙した。



     それから、半日後。
    「……いい加減に終われよぉ……」
     試験開始からこの時点まで、秋也は計、18匹の鬼を斬り伏せた。
     初めはひらりとかわし、さくりと斬って、それで終わっていた調伏だったが、敵は次第に、強く、速く、そしてしぶとくなっていった。
     今倒した18匹目に至っては、刀の刃がまともに通らなかった。そのため全体重をかけて突き入れるしかなく、結果――。
    「くっそ、……曲がった」
     秋也は鞘に納められなくなった刀を乱暴に投げ捨て、その場で大の字に寝転んだ。
    「もういいだろ、……もう充分だろって」
     ゼェゼェとした荒い息を鎮めながら、秋也は辺りの気配を伺う。
    (もー出んな、もー出んなよー……)
     この時秋也は、この堂が、己が心に思い浮かべたものが現れる場所であると言うことを忘れていた。
     そのため鬼が出てこない理由を、「自分が『出てくるな』と念じているから」とは理解しておらず、単に量か運の問題だと思っていた。
    (もう打ち止めなのか、それとも出るのに手間取ってんのか。
     つーか、皆こんなコト、よくやるよなぁ。どーやって24時間も戦えってんだ)
     ちなみに――彼の母、黄晴奈はこの免許皆伝試験の「設問」を理解し、見事に解いて見せたが、この時点で秋也は、まだ「設問」に気付きもしていない。
    (母さんもやったんだよなぁ、コレ。……そりゃコレ通ってたら、剣豪って呼ばれるよなぁ)
     そのため、彼はある意味、最も困難な敵を呼び出してしまった。

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    2014.7.13 修正
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    そして第3話のザマです。
    大体秋也のせい。

    NoTitle 

    うわー、晴奈さんと剣を交えるわけ?(^^;)

    こんな未熟者が?

    試練にはちと早すぎたんじゃないかい焔流(^^;)

    下手したらフォースの暗黒面に堕ちちまうような(^^;)
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    麒麟を巡る話、第2話。幼馴染は家元。--------------------2.「おはよう、秋也」家元の間に通された秋也は、ぴし、と背筋をただした。「おはようございます、こゆ、……家元」上座に座っていた、まだどこか幼さの残る長耳は、にこりと笑って立ち上がった。「『小雪お姉ち...
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