「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・秋分抄 3
麒麟を巡る話、第3話。
鬼より怖い母。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
その瞬間、空気が変わったのを、秋也は感じた。
(……熱っつ……?)
不意にやってきた熱気に、秋也は曲がった刀をつかんで飛び上がった。
そこにいたのは、自分と同じくらいの歳に見える三毛耳の、猫獣人の少女だった。
(母さん!? ……じゃない)
自分が知るより大分若い彼女の姿に、秋也はそれが、母本人ではないとすぐに気付く。
しかし、この期に及んでもまだ、彼は試験の本意に気付いていない。
「なんだよ、まったく……。鬼の次は、鬼より怖えぇお袋かよ。しかも若い頃の、か?」
「……」
秋也の言葉に一切反応することなく、彼女は刀を振り上げ、襲い掛かってきた。
「よ、っと!」
彼女の初太刀をかわし、秋也は反撃に出ようとする。
「……」
だが彼女は両手で振り下ろした刀をくい、と返し、左手を離して、右手一本で薙いできた。
「おわぁ!?」
とっさに上半身を反らし、二の太刀もかわす。
だがそこで、彼女はもう一度両手で刀を握り、再度斬りつけてきた。
「うぐ、……っ、らああああッ!」
三の太刀はかわし損ね、秋也の左肩にわずかながら痛みが走る。
それでも秋也は「彼女」の足を蹴り、その反動で間合いから大きく外れた。
「はっ、はっ……、くそ、三つ目が本命の太刀筋だったか」
蹴られたため「彼女」も体勢を崩し、うずくまっている。
しかし秋也が構え直すと同時に、「彼女」も構えてくる。秋也の蹴りによる痛みは、全く感じていないようだった。
(まっずいなぁ。勝てる気がしねー)
仕方なく構えてはいるが、まっすぐに敵の喉元を狙うべき刃先はぐにゃりと曲がり、「彼女」の背後にある、がっちりと塞がれた木戸を指している。
秋也自身も疲労の色が濃く、少しでも気を緩めれば、刀を落としてしまいそうなほど、その両手は震えていた。
「……あんまりこんなコト、……あんたに言えねーけど」
「……」
「あえて、言ってやんよ。
来いよ、……お袋」
その言葉に応えるように、「彼女」は刀を振り上げ、再び襲い掛かってきた。
秋也は一度だけ、母親を本気で怒らせたことがある。
勿論、親子であるから、叱責を受けることは多々あるし、小言を言われたことも少なくない。
だがその時は、親子としての範疇を超えるくらいの、滅茶苦茶な怒りをぶつけられた。
母親、黄晴奈が「蒼天剣」の異名を持つ所以は、彼女の持つ唯一無二の名刀、「晴空刀 蒼天」の別名から来ている。
その「蒼天剣」は、今は彼女が黄海に構える焔流剣術道場に、大切に飾られているのだが、それを何年か前に、秋也がふざけて持ち出し、友人らに見せびらかしたことがある。
これが発覚し、秋也は母親に怒られた。だがその叱り方は尋常なものではなく、秋也は頭に3針縫うほど滅多やたらに打たれ、「自分はやってはいけないことをしたのだ」と猛省した。
勿論、現在の秋也はその理由を、良く理解している。
とある教団の現人神から直々に賜った刀であるし、その希少性は計り知れない。それに道場のシンボル、一種の「御神体」とも言える逸品を、例え自分の息子であるとしても、子供がそう簡単に持ち出したり、盗んだりしていいものではないからだ。
それ以上に、あの刀が恐ろしい力を秘めた、一種の「兵器」じみたものであると言うことを、秋也は持ち出し、周囲に見せびらかそうとしたその時に、深く理解させられた。
(鞘から抜いて、刀身が見えた途端、オレも友達も、一斉に吐いたり漏らしたりしてたからなぁ……。アレは何て言ったらいいか分かんねーけど、……とにかく、怖かった。
そりゃ、お袋もマジギレするよなぁ)
その時に散々浴びせられた拳の痛みを、秋也は思い出していた。
(……勝てないだろうなぁ……)
秋也の頭には、どう考えを巡らせても、自分が母親を下す風景は、浮かんでは来なかった。
「秋也」
声に気付き、秋也は目を覚ます。
「……あ……」
目を開けると、無表情の小雪と目が合った。
「……その……いやさ……」
「……」
「……だって……あんなの……」
「……秋也」
倒れたままの秋也に、小雪は冷たい声で問いかける。
「問題は解けた?」
「……え? 問題? 問題って、……なんだ?」
「解けなかったのね」
小雪は秋也に背を向け、入口に向かう。
そして堂を出たところで、秋也に目を合わせず、こう告げた。
「不合格よ」
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鬼より怖い母。
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3.
その瞬間、空気が変わったのを、秋也は感じた。
(……熱っつ……?)
不意にやってきた熱気に、秋也は曲がった刀をつかんで飛び上がった。
そこにいたのは、自分と同じくらいの歳に見える三毛耳の、猫獣人の少女だった。
(母さん!? ……じゃない)
自分が知るより大分若い彼女の姿に、秋也はそれが、母本人ではないとすぐに気付く。
しかし、この期に及んでもまだ、彼は試験の本意に気付いていない。
「なんだよ、まったく……。鬼の次は、鬼より怖えぇお袋かよ。しかも若い頃の、か?」
「……」
秋也の言葉に一切反応することなく、彼女は刀を振り上げ、襲い掛かってきた。
「よ、っと!」
彼女の初太刀をかわし、秋也は反撃に出ようとする。
「……」
だが彼女は両手で振り下ろした刀をくい、と返し、左手を離して、右手一本で薙いできた。
「おわぁ!?」
とっさに上半身を反らし、二の太刀もかわす。
だがそこで、彼女はもう一度両手で刀を握り、再度斬りつけてきた。
「うぐ、……っ、らああああッ!」
三の太刀はかわし損ね、秋也の左肩にわずかながら痛みが走る。
それでも秋也は「彼女」の足を蹴り、その反動で間合いから大きく外れた。
「はっ、はっ……、くそ、三つ目が本命の太刀筋だったか」
蹴られたため「彼女」も体勢を崩し、うずくまっている。
しかし秋也が構え直すと同時に、「彼女」も構えてくる。秋也の蹴りによる痛みは、全く感じていないようだった。
(まっずいなぁ。勝てる気がしねー)
仕方なく構えてはいるが、まっすぐに敵の喉元を狙うべき刃先はぐにゃりと曲がり、「彼女」の背後にある、がっちりと塞がれた木戸を指している。
秋也自身も疲労の色が濃く、少しでも気を緩めれば、刀を落としてしまいそうなほど、その両手は震えていた。
「……あんまりこんなコト、……あんたに言えねーけど」
「……」
「あえて、言ってやんよ。
来いよ、……お袋」
その言葉に応えるように、「彼女」は刀を振り上げ、再び襲い掛かってきた。
秋也は一度だけ、母親を本気で怒らせたことがある。
勿論、親子であるから、叱責を受けることは多々あるし、小言を言われたことも少なくない。
だがその時は、親子としての範疇を超えるくらいの、滅茶苦茶な怒りをぶつけられた。
母親、黄晴奈が「蒼天剣」の異名を持つ所以は、彼女の持つ唯一無二の名刀、「晴空刀 蒼天」の別名から来ている。
その「蒼天剣」は、今は彼女が黄海に構える焔流剣術道場に、大切に飾られているのだが、それを何年か前に、秋也がふざけて持ち出し、友人らに見せびらかしたことがある。
これが発覚し、秋也は母親に怒られた。だがその叱り方は尋常なものではなく、秋也は頭に3針縫うほど滅多やたらに打たれ、「自分はやってはいけないことをしたのだ」と猛省した。
勿論、現在の秋也はその理由を、良く理解している。
とある教団の現人神から直々に賜った刀であるし、その希少性は計り知れない。それに道場のシンボル、一種の「御神体」とも言える逸品を、例え自分の息子であるとしても、子供がそう簡単に持ち出したり、盗んだりしていいものではないからだ。
それ以上に、あの刀が恐ろしい力を秘めた、一種の「兵器」じみたものであると言うことを、秋也は持ち出し、周囲に見せびらかそうとしたその時に、深く理解させられた。
(鞘から抜いて、刀身が見えた途端、オレも友達も、一斉に吐いたり漏らしたりしてたからなぁ……。アレは何て言ったらいいか分かんねーけど、……とにかく、怖かった。
そりゃ、お袋もマジギレするよなぁ)
その時に散々浴びせられた拳の痛みを、秋也は思い出していた。
(……勝てないだろうなぁ……)
秋也の頭には、どう考えを巡らせても、自分が母親を下す風景は、浮かんでは来なかった。
「秋也」
声に気付き、秋也は目を覚ます。
「……あ……」
目を開けると、無表情の小雪と目が合った。
「……その……いやさ……」
「……」
「……だって……あんなの……」
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~ Comment ~
NoTitle
うわー、これはグレたとしてもおかしくないなあ秋也くん。
グレ道一直線だなあ。
「親の顔が見たい(笑)」
グレ道一直線だなあ。
「親の顔が見たい(笑)」
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NoTitle
普通なら、これでグレて社会から外れてもおかしくないですが、
そこは「親」の教育がちゃんとしてる、……はずですから。