「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・秋分抄 4
麒麟を巡る話、第4話。
落第。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
秋也が堂を出たところで、小雪はようやく顔を向けてきた。
「……」
だがその顔には、温かさは微塵も感じられない。昨日までのニコニコと笑う彼女の姿は、そこには無かった。
「あの、こ、こゆ、……家元……」
「残念ね」
「う……」
小雪は冷たいまなざしを向け、続いてこうなじる。
「あなたはもっと、剣士として修業を積むべきね。ちょっと大きな大会で優勝して、慢心が過ぎたんじゃない?
繰り返すわ。あなたは、落第よ。焔流剣士などとは到底呼べない半端者、未熟者。
あなたは落伍者よ、黄秋也」
「……っ」
秋也は何も言えず、その場から逃げ去った。
気が付くと、秋也は紅蓮塞からも離れ、街道からも大きく外れた、薄暗い林の中にいた。
「はっ……、はっ……」
息がひどく荒い。逃げた疲れに加え、十中八九通ると確信していた試験にも落第し、その結果を呑みこめないでいたからだ。
「……ウソだろ、こんなの……」
思わず、そんな言葉が出る。
「オレが、……オレだぞ? 黄晴奈の息子の、黄秋也だぞ? そのオレが、なんで、……なんで、不合格に……っ」
だが、現実逃避しようと、否定しようとも、心のどこかでは、泣く泣く理解している自分もいる。
「……なんでだよっ……!」
思わず、側にあった木を殴りつける。
ミシ、と音を立て、秋也の胴くらいに太いその木の幹に、拳の跡が付いた。
「ふざけんな、ふざけんなっ……! オレが失格だとおおぉぉッ……!?」
秋也は落第した羞恥心と、湧き上がってきた怒りとを、続けざまに木へとぶつける。
何度も殴りつけるうち、木はベキベキと折れ、地面へと横倒しになった。
「……はあっ、はあっ、……はあ……っ」
秋也の方もこらえ切れず、その場に倒れ込んだ。
「……問題ってなんだよ、問題って? ……鬼、倒すだけじゃねーのかよ? そりゃ確かに、お袋は倒せなかったけど、でも、……倒せるワケ、ねーだろぉ?」
怒りから戸惑い、諦観と、秋也の心の中は大きくうねり、ざわめき、そして絶望感が押し寄せてくる。
「……帰れねえ……」
秋也はこのまま実家に戻った後、皆がどう自分を責め立てるか考えずにはいられなかった。
(母さんは……、きっと、オレに失望するだろう。あれだけ、『お前ならできる』って言ってもらったのに。父さんや兄貴も、がっかりするだろう。月乃も散々、オレを馬鹿にするだろうな。
……このまま帰ったら、オレは一家の笑い者だ。オレのせいで黄家の名に泥を塗るなんて、……そんなコト、できるかよ)
秋也は自分が折った木に座り、考えをまとめ直す。
(……もう実家には戻れない。少なくともちゃんと、試験を修了するまではダメだ。……でも、どうやってお袋を倒せって言うんだ?
……いや、でも、……待てよ? まさかオレ以外の、他に試験を受けてた奴も、お袋を相手にしたのか?
確かにお袋は英雄って呼ばれた人だけど、ソコまでか? そんな、長年続いた試験の内容を変えさせるほど、すごいのか? 当たり前の話だけど、お袋が試験を受ける前は、お袋が試験に出るなんてコト、あるワケないし。
じゃあお袋が、小雪さんに『自分を出すように』ってねじ込んだか? ……いくらなんでもそこまでさせるワケが無い。第一、お袋はそーゆーコトするのも、されるのも嫌いな性格だし。
じゃあ、……アレって、……一体なんでなんだ? 何であのお堂で、オレはお袋と戦わされたんだ?)
そのうちに、秋也にこんな考えが浮かぶ。
(……聞いてみたいな。他の、『ちゃんとした』焔流剣士に、あの試験はどう言うものだったんだ、何を問われてたんだ、ってコトを)
とは言え、率直にそんなことを聞いても、相手にされるわけが無い。
(試験に落ちたオレが、『試験の答え方教えてくれ』なんて聞いたら、それじゃただのカンニングだ。教えてくれるワケが無い。
だから、……まずは、オレのコトを知らない奴を捕まえて、……それとなく聞き出す、……しかないか。
……となると、ゴールドコーストとか、そーゆーのが集まるところに行かないとな。……っつっても、オレ今、金も刀も持ってないし、山越えなんてできない。
あいつのところ、行ってみるか。あいつなら、……まあ、散々言われるだろうけど、助けてくれるだろ)
秋也は立ち上がり、「あいつ」――弧月の若い富豪、橘喜新聞社の令嬢、橘飛鳥を訪ねることにした。
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落第。
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秋也が堂を出たところで、小雪はようやく顔を向けてきた。
「……」
だがその顔には、温かさは微塵も感じられない。昨日までのニコニコと笑う彼女の姿は、そこには無かった。
「あの、こ、こゆ、……家元……」
「残念ね」
「う……」
小雪は冷たいまなざしを向け、続いてこうなじる。
「あなたはもっと、剣士として修業を積むべきね。ちょっと大きな大会で優勝して、慢心が過ぎたんじゃない?
繰り返すわ。あなたは、落第よ。焔流剣士などとは到底呼べない半端者、未熟者。
あなたは落伍者よ、黄秋也」
「……っ」
秋也は何も言えず、その場から逃げ去った。
気が付くと、秋也は紅蓮塞からも離れ、街道からも大きく外れた、薄暗い林の中にいた。
「はっ……、はっ……」
息がひどく荒い。逃げた疲れに加え、十中八九通ると確信していた試験にも落第し、その結果を呑みこめないでいたからだ。
「……ウソだろ、こんなの……」
思わず、そんな言葉が出る。
「オレが、……オレだぞ? 黄晴奈の息子の、黄秋也だぞ? そのオレが、なんで、……なんで、不合格に……っ」
だが、現実逃避しようと、否定しようとも、心のどこかでは、泣く泣く理解している自分もいる。
「……なんでだよっ……!」
思わず、側にあった木を殴りつける。
ミシ、と音を立て、秋也の胴くらいに太いその木の幹に、拳の跡が付いた。
「ふざけんな、ふざけんなっ……! オレが失格だとおおぉぉッ……!?」
秋也は落第した羞恥心と、湧き上がってきた怒りとを、続けざまに木へとぶつける。
何度も殴りつけるうち、木はベキベキと折れ、地面へと横倒しになった。
「……はあっ、はあっ、……はあ……っ」
秋也の方もこらえ切れず、その場に倒れ込んだ。
「……問題ってなんだよ、問題って? ……鬼、倒すだけじゃねーのかよ? そりゃ確かに、お袋は倒せなかったけど、でも、……倒せるワケ、ねーだろぉ?」
怒りから戸惑い、諦観と、秋也の心の中は大きくうねり、ざわめき、そして絶望感が押し寄せてくる。
「……帰れねえ……」
秋也はこのまま実家に戻った後、皆がどう自分を責め立てるか考えずにはいられなかった。
(母さんは……、きっと、オレに失望するだろう。あれだけ、『お前ならできる』って言ってもらったのに。父さんや兄貴も、がっかりするだろう。月乃も散々、オレを馬鹿にするだろうな。
……このまま帰ったら、オレは一家の笑い者だ。オレのせいで黄家の名に泥を塗るなんて、……そんなコト、できるかよ)
秋也は自分が折った木に座り、考えをまとめ直す。
(……もう実家には戻れない。少なくともちゃんと、試験を修了するまではダメだ。……でも、どうやってお袋を倒せって言うんだ?
……いや、でも、……待てよ? まさかオレ以外の、他に試験を受けてた奴も、お袋を相手にしたのか?
確かにお袋は英雄って呼ばれた人だけど、ソコまでか? そんな、長年続いた試験の内容を変えさせるほど、すごいのか? 当たり前の話だけど、お袋が試験を受ける前は、お袋が試験に出るなんてコト、あるワケないし。
じゃあお袋が、小雪さんに『自分を出すように』ってねじ込んだか? ……いくらなんでもそこまでさせるワケが無い。第一、お袋はそーゆーコトするのも、されるのも嫌いな性格だし。
じゃあ、……アレって、……一体なんでなんだ? 何であのお堂で、オレはお袋と戦わされたんだ?)
そのうちに、秋也にこんな考えが浮かぶ。
(……聞いてみたいな。他の、『ちゃんとした』焔流剣士に、あの試験はどう言うものだったんだ、何を問われてたんだ、ってコトを)
とは言え、率直にそんなことを聞いても、相手にされるわけが無い。
(試験に落ちたオレが、『試験の答え方教えてくれ』なんて聞いたら、それじゃただのカンニングだ。教えてくれるワケが無い。
だから、……まずは、オレのコトを知らない奴を捕まえて、……それとなく聞き出す、……しかないか。
……となると、ゴールドコーストとか、そーゆーのが集まるところに行かないとな。……っつっても、オレ今、金も刀も持ってないし、山越えなんてできない。
あいつのところ、行ってみるか。あいつなら、……まあ、散々言われるだろうけど、助けてくれるだろ)
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