「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・橘喜抄 3
麒麟を巡る話、第8話。
央南と世界の変遷。
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3.
秋也が弧月に駆け込んでから、1週間が経った。
本来ならば、とっくに昂子を伴い、ミッドランドへと向かっているはずだったのだが、秋也にとって肝心のもの、即ち刀がまだ届いていなかったためである。
「まーだ届かないの!? 今、ドコよ!? 発注してどんだけ経ったと思ってんの!?」
小鈴が頭巾を頭に巻き、誰かに向かって怒鳴り散らしている。魔術による通信機器、「魔術頭巾」を使い、刀を頼んだ業者にクレームを入れているのだ。
「……うん、……うん、……はい? ……うん、……でもねアンタ、自分で一昨日くらいには届けるって言ってたじゃん?
じゃあ、明日には届くのね? 本当に? 間違いない? 確実に、明日ね?
……うん、……いいわ、一割引きで勘弁したげる。……は? 何? アンタ自分の立場分かってる? ……でしょ? じゃあ負けなさいよ。……うん、……よし。
じゃ、よろしく。明日、絶対、必ず、よ? じゃ、ね」
頭巾を脱ぎ、小鈴は居間で遊んでいた秋也と昂子に声をかけた。
「明日には絶対届けるって、刀」
「分かりました。でも、大分遅かったっスね?」
「向こうの言い分では、在庫の取り寄せだか何だか言ってたけどね。ま、明日届かなかったら半額にしてやるわ。
刀が届き次第、出発ね」
「はいはーい」
どことなく、面倒くさそうに手を振る昂子に、小鈴は苦い顔をする。
「アンタ、行きたくないの?」
「え? ううん、そんなコト無い無い」
「まさか、学校行きたくないから修業するとか、そんなバカなコト考えてたワケじゃないわよね?」
「まさかぁ」
しれっとそう答えては見せたが、その始終気だるそうな仕草からは、あまり意欲を感じることはできない。
「ま、いいけどね。真面目にやんなかったら、後でツケ払う羽目になるのは自分だし」
「大丈夫だいじょーぶ、ちゃんとやるから」
「まったく、お気楽なんだから……。誰に似たんだか」
(小鈴さんじゃないかなぁ)
そうは思ったが、秋也は口に出さないでおいた。
「そー言えばさ」
と、昂子が話題を変える。
「在庫切れって、そんなに売れてるの、刀って」
「ん? んー……、逆っぽい感じだったわね。最近はずーっと仕入れてなかったみたいよ」
「そうなんスか?」
「そりゃまあ、同盟ができて20年くらい経ってるし、今は平和だもん。武器を作っても、あんまり売れないし。
それにほら、銃や火器の開発もガンガン進んできてるし、刀の需要は減っていってるのよ、どっちにしても」
「……」
その話に、秋也はわだかまりを感じた。
(今の世の中、刀よりも銃、か……。だよな、央南連合軍だって、年々銃士隊を増やしてるって言うし、反対に、剣士隊はここ数年、補充されてないらしいし。
……ソレ考えると、……何かちょっと、揺らぐんだよな。オレ、このまま剣士やってて食えるのかなって)
秋也の心中を察したらしく、小鈴がこう話を続ける。
「ま、そうは言ってもまだまだ、刀の需要はあるわよ。この平和がいつ続くか、誰にも保証できないワケだし」
「何かあるの?」
「ある、っちゃあるわね。例えば、央北からの侵攻とか」
そう返した小鈴に、昂子はけらけらと笑って見せる。
「そんなの、あるワケないじゃん。だって央北って、超ビンボーなところでしょ? 攻めてきたって、蹴散らされちゃうって」
「……そうね。今はね」
小鈴はそこで、この話を切り上げた。
20年前までは権勢を見せていた央北地域も、同盟に敗北して以降、停滞・凋落の一途をたどっていた。
戦後、央北は複数の国に分裂し、個々に政治・経済を展開してはいたが、やがてその間で紛争が勃発、長期化した。長く続いた内戦は各国の溝をさらに深め、その結果、央北全体の政治力・経済力は著しく低下した。
現在、央北は世界で最も貧しい部類に入る、非常に荒れた地域であると言うのが、公然の事実となっている。
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秋也が弧月に駆け込んでから、1週間が経った。
本来ならば、とっくに昂子を伴い、ミッドランドへと向かっているはずだったのだが、秋也にとって肝心のもの、即ち刀がまだ届いていなかったためである。
「まーだ届かないの!? 今、ドコよ!? 発注してどんだけ経ったと思ってんの!?」
小鈴が頭巾を頭に巻き、誰かに向かって怒鳴り散らしている。魔術による通信機器、「魔術頭巾」を使い、刀を頼んだ業者にクレームを入れているのだ。
「……うん、……うん、……はい? ……うん、……でもねアンタ、自分で一昨日くらいには届けるって言ってたじゃん?
じゃあ、明日には届くのね? 本当に? 間違いない? 確実に、明日ね?
……うん、……いいわ、一割引きで勘弁したげる。……は? 何? アンタ自分の立場分かってる? ……でしょ? じゃあ負けなさいよ。……うん、……よし。
じゃ、よろしく。明日、絶対、必ず、よ? じゃ、ね」
頭巾を脱ぎ、小鈴は居間で遊んでいた秋也と昂子に声をかけた。
「明日には絶対届けるって、刀」
「分かりました。でも、大分遅かったっスね?」
「向こうの言い分では、在庫の取り寄せだか何だか言ってたけどね。ま、明日届かなかったら半額にしてやるわ。
刀が届き次第、出発ね」
「はいはーい」
どことなく、面倒くさそうに手を振る昂子に、小鈴は苦い顔をする。
「アンタ、行きたくないの?」
「え? ううん、そんなコト無い無い」
「まさか、学校行きたくないから修業するとか、そんなバカなコト考えてたワケじゃないわよね?」
「まさかぁ」
しれっとそう答えては見せたが、その始終気だるそうな仕草からは、あまり意欲を感じることはできない。
「ま、いいけどね。真面目にやんなかったら、後でツケ払う羽目になるのは自分だし」
「大丈夫だいじょーぶ、ちゃんとやるから」
「まったく、お気楽なんだから……。誰に似たんだか」
(小鈴さんじゃないかなぁ)
そうは思ったが、秋也は口に出さないでおいた。
「そー言えばさ」
と、昂子が話題を変える。
「在庫切れって、そんなに売れてるの、刀って」
「ん? んー……、逆っぽい感じだったわね。最近はずーっと仕入れてなかったみたいよ」
「そうなんスか?」
「そりゃまあ、同盟ができて20年くらい経ってるし、今は平和だもん。武器を作っても、あんまり売れないし。
それにほら、銃や火器の開発もガンガン進んできてるし、刀の需要は減っていってるのよ、どっちにしても」
「……」
その話に、秋也はわだかまりを感じた。
(今の世の中、刀よりも銃、か……。だよな、央南連合軍だって、年々銃士隊を増やしてるって言うし、反対に、剣士隊はここ数年、補充されてないらしいし。
……ソレ考えると、……何かちょっと、揺らぐんだよな。オレ、このまま剣士やってて食えるのかなって)
秋也の心中を察したらしく、小鈴がこう話を続ける。
「ま、そうは言ってもまだまだ、刀の需要はあるわよ。この平和がいつ続くか、誰にも保証できないワケだし」
「何かあるの?」
「ある、っちゃあるわね。例えば、央北からの侵攻とか」
そう返した小鈴に、昂子はけらけらと笑って見せる。
「そんなの、あるワケないじゃん。だって央北って、超ビンボーなところでしょ? 攻めてきたって、蹴散らされちゃうって」
「……そうね。今はね」
小鈴はそこで、この話を切り上げた。
20年前までは権勢を見せていた央北地域も、同盟に敗北して以降、停滞・凋落の一途をたどっていた。
戦後、央北は複数の国に分裂し、個々に政治・経済を展開してはいたが、やがてその間で紛争が勃発、長期化した。長く続いた内戦は各国の溝をさらに深め、その結果、央北全体の政治力・経済力は著しく低下した。
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