「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・橘喜抄 4
麒麟を巡る話、第9話。
本音と言い訳の衝突。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
翌日になり、ようやく橘邸に刀が届けられた。
「お待たせ、秋也君。コレで準備、万端ね」
「ありがとうございます、小鈴さん」
喜ぶ秋也の陰で、昂子がやはりどことなく、面倒くさそうな顔をしている。
「さーて、昂子」
「なに?」
「いい加減、肚決めなさいよ。アンタ自分で、『行く』っつったんだから」
「分かってるって、行くよ、行くって」
そんな昂子を心配してか、小鈴の横にいたエルスが優しく声をかける。
「昂子、どうしても行きたくなかったら、今からでも学校……」「ヤだ。行くって言ってるじゃん」「……うん、そうだね」
昂子はくるりと秋也に向き直り、その手をぐいっとつかむ。
「行こう、秋也兄ちゃん」
「あ、うん。……それじゃ、小鈴さん、エルスさん。お世話になりました」
「うん、またね、シュウヤ君」
「またなんかあったら、いつでも来なさいよ」
「はい。……行ってきます」
「行ってきまーす!」
ようやく秋也と昂子は、ミッドランドへの旅を始めた。
弧月を後にし、街道をしばらく進んだところで――。
「……はー」
「どうした?」
「やっ、……っと!」
昂子は突然、大声を挙げた。
「やーっと、自由だーっ!」
「……やっぱりお前、学校行きたくなかっただけか」
「当たり前じゃん。毎日毎日、何言ってるか分かんない授業ばーっかりでさ、先生もあれダメ、これダメってうるさいし」
ピコピコと長い耳を震わせながら愚痴をこぼす昂子に、秋也は苦い顔を向けるしかない。
「お前なぁ……」
「おーっと、説教なんかさせないわよ?
兄ちゃんだって、試験から逃げたクセに」
「……っ」
ようやく薄まってきていた落第による痛みが、この一言でずき、と蘇った。
「……お前」
「ん? なに? 何か……」
次の瞬間、秋也はばし、と昂子の頬を叩いていた。
「きゃっ……」
「言っていいコトと悪いコトがあるだろッ……!? オレが試験に落ちたのが、そんなにおかしいか!?」
「……あ、……あの、兄ちゃん?」
「いい加減にしろよ、昂子!」
秋也は怒りを無理矢理抑えつつ、昂子の腕をつかむ。
「痛っ、……ちょ、待ってよ! 冗談じゃん、じょーだ……」「ふざけんなッ!」
秋也はぐい、と昂子の腕を引き上げ、昂子を半ば宙吊りにする。
「やめてよ、痛いってば……」
「お前、自分のコトばっかりだよな!? ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、『めんどくさい』だの『じょーだん』だの、自分の都合で話しやがって!
ちょっとは周りのコト、考えたらどうなんだ!? 親父さん、悲しんでたんだぞ!」
「どーでもいいよ、そんなの。口開けば、『胃が痛い』だの『昔はねぇ』だのしか言わないグータラ親父だし」
「……てめっ……」
「ソレにさ、魔術修行だって冗談のつもりだったんだよ。ソレをさ母さん、真に受けちゃってオオゴトにしちゃうし」
「ソレも、お前のためを思ってやったコトじゃねーか! お前、何でソレが分からないんだ!?」
「二人が勝手にやってんじゃん、学校のコトも修業のコトも」
「……そんなんでよく、オレに『試験に落ちて逃げた』なんて抜かせるな!?」
秋也は勢いよく、昂子の腕を振り払う。
当然、昂子は道にべちゃ、と尻餅を着いた。
「いった、あ……」
「オレは逃げたんじゃない、やり直すんだ! ソレも、自分のためだけじゃない! オレを育てて、鍛えてくれたお袋のためでもあるんだ!
自分の都合でのらりくらり逃げようとするお前なんかと、一緒にするなッ!」
「……ふん」
昂子は立ち上がり、尻を軽くはたいてから、秋也に向き直り――。
「説教すんなって言っただろ、このッ!」
秋也の脚を、思いっ切り蹴っ飛ばした。
「うっぐ、……てめっ、何すんだ!?」
「あーだこーだ抜かして、結局逃げてんのはアンタもじゃん!? 逃げてないって言うなら、今すぐあたしを放っぽって、紅蓮塞に戻ればいいじゃんよ?」
「できるかよ!? オレはエルスさんと小鈴さんにお前を任されて……」
「ソレ! ソレが一番、ムカってくる! 逃げの口実に、あたしを使ってる! できるだけ先延ばしにしようとしてんじゃんよ、試験受けんのをさ!?
学校が嫌で適当言いまくってたあたしと、何が違うってのよ!?」
「っ……」
反論できず、秋也は黙るしかなかった。
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本音と言い訳の衝突。
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4.
翌日になり、ようやく橘邸に刀が届けられた。
「お待たせ、秋也君。コレで準備、万端ね」
「ありがとうございます、小鈴さん」
喜ぶ秋也の陰で、昂子がやはりどことなく、面倒くさそうな顔をしている。
「さーて、昂子」
「なに?」
「いい加減、肚決めなさいよ。アンタ自分で、『行く』っつったんだから」
「分かってるって、行くよ、行くって」
そんな昂子を心配してか、小鈴の横にいたエルスが優しく声をかける。
「昂子、どうしても行きたくなかったら、今からでも学校……」「ヤだ。行くって言ってるじゃん」「……うん、そうだね」
昂子はくるりと秋也に向き直り、その手をぐいっとつかむ。
「行こう、秋也兄ちゃん」
「あ、うん。……それじゃ、小鈴さん、エルスさん。お世話になりました」
「うん、またね、シュウヤ君」
「またなんかあったら、いつでも来なさいよ」
「はい。……行ってきます」
「行ってきまーす!」
ようやく秋也と昂子は、ミッドランドへの旅を始めた。
弧月を後にし、街道をしばらく進んだところで――。
「……はー」
「どうした?」
「やっ、……っと!」
昂子は突然、大声を挙げた。
「やーっと、自由だーっ!」
「……やっぱりお前、学校行きたくなかっただけか」
「当たり前じゃん。毎日毎日、何言ってるか分かんない授業ばーっかりでさ、先生もあれダメ、これダメってうるさいし」
ピコピコと長い耳を震わせながら愚痴をこぼす昂子に、秋也は苦い顔を向けるしかない。
「お前なぁ……」
「おーっと、説教なんかさせないわよ?
兄ちゃんだって、試験から逃げたクセに」
「……っ」
ようやく薄まってきていた落第による痛みが、この一言でずき、と蘇った。
「……お前」
「ん? なに? 何か……」
次の瞬間、秋也はばし、と昂子の頬を叩いていた。
「きゃっ……」
「言っていいコトと悪いコトがあるだろッ……!? オレが試験に落ちたのが、そんなにおかしいか!?」
「……あ、……あの、兄ちゃん?」
「いい加減にしろよ、昂子!」
秋也は怒りを無理矢理抑えつつ、昂子の腕をつかむ。
「痛っ、……ちょ、待ってよ! 冗談じゃん、じょーだ……」「ふざけんなッ!」
秋也はぐい、と昂子の腕を引き上げ、昂子を半ば宙吊りにする。
「やめてよ、痛いってば……」
「お前、自分のコトばっかりだよな!? ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、『めんどくさい』だの『じょーだん』だの、自分の都合で話しやがって!
ちょっとは周りのコト、考えたらどうなんだ!? 親父さん、悲しんでたんだぞ!」
「どーでもいいよ、そんなの。口開けば、『胃が痛い』だの『昔はねぇ』だのしか言わないグータラ親父だし」
「……てめっ……」
「ソレにさ、魔術修行だって冗談のつもりだったんだよ。ソレをさ母さん、真に受けちゃってオオゴトにしちゃうし」
「ソレも、お前のためを思ってやったコトじゃねーか! お前、何でソレが分からないんだ!?」
「二人が勝手にやってんじゃん、学校のコトも修業のコトも」
「……そんなんでよく、オレに『試験に落ちて逃げた』なんて抜かせるな!?」
秋也は勢いよく、昂子の腕を振り払う。
当然、昂子は道にべちゃ、と尻餅を着いた。
「いった、あ……」
「オレは逃げたんじゃない、やり直すんだ! ソレも、自分のためだけじゃない! オレを育てて、鍛えてくれたお袋のためでもあるんだ!
自分の都合でのらりくらり逃げようとするお前なんかと、一緒にするなッ!」
「……ふん」
昂子は立ち上がり、尻を軽くはたいてから、秋也に向き直り――。
「説教すんなって言っただろ、このッ!」
秋也の脚を、思いっ切り蹴っ飛ばした。
「うっぐ、……てめっ、何すんだ!?」
「あーだこーだ抜かして、結局逃げてんのはアンタもじゃん!? 逃げてないって言うなら、今すぐあたしを放っぽって、紅蓮塞に戻ればいいじゃんよ?」
「できるかよ!? オレはエルスさんと小鈴さんにお前を任されて……」
「ソレ! ソレが一番、ムカってくる! 逃げの口実に、あたしを使ってる! できるだけ先延ばしにしようとしてんじゃんよ、試験受けんのをさ!?
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「っ……」
反論できず、秋也は黙るしかなかった。
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衝突もしますし、ちゃんと仲直りも。