「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・逸狼抄 4
麒麟を巡る話、第14話。
峠の封鎖。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
宿を後にしてから4、5時間ほどが経ち、秋也と昂子は峠の中腹に差し掛かった。
「もうお昼くらいだよね」
懐中時計をチラチラと見つつ、そうつぶやいた昂子に、秋也はニヤ、と笑って見せる。
「なんだ、もう腹減ったのか?」
「そりゃ減るよ、朝ご飯あんなだったし」
「ま、そりゃそうか。んじゃ、この辺りで……」
と、秋也はそこで言葉を切り、峠の上方に目をやる。
「どしたの?」
「……昂子。もうちょっと、飯は待ってもらっていいか?」
「何でよ?」
「アレだよ」
秋也は少し先を指し、肩をすくめた。
「昨夜お前が言ってたコト、本気でやりやがったみたいだ」
「へ? ……教団が襲ってくるって、アレ?」
昂子も目を凝らし、上の様子を確認する。
そこには黒い点が、峠に並んでいるのが見えた。
「……アレって、教団の人?」
「この山で黒い服を着込んで威張ってる奴らなんて、他にいるか?」
「え、じゃあアレって、あたしたちを待ち構えてるってコト?」
「多分な。……参ったな」
秋也は猫耳をコリコリとかきながら、腰に佩いていた刀を抜く。
「この分じゃ、黒荘に戻っても襲われるだろうな。……となると、前に進むしかないな」
「えっ」
秋也の言葉に、昂子は顔を青くする。
「いや、無理じゃん? どう考えてもダメだって」
「なら、戻るか? 戻っても多分、同じ目に遭うぞ?」
「いや、ほら、あの、脇道にそれて、回り込んで逃げるとか」
「あのな、上からオレたちの動き見てるってのに、今さら逃げてみてどうなる? 追い掛け回されるだけだぞ」
「じゃ、じゃあさ、ごめんなさいって言って」
「それで何とかなるなら、袋叩きにするだの何だのって発想は出ないっつの」
「じゃ、ほら、あの、えー……」
戸惑っている昂子に、秋也ははあ、とため息をつく。
「お前、本当に自分の思い通りにならない状況に弱いな。逃げるか駄々こねるか、ソレばっかだよな」
「うー……、だって」
秋也は昂子に背を向け、歩き出した。
「いいよ、ソコでじっとしてな。オレが何とかしてきてやるから」
「あ、ちょ、ちょっと!」
一人きりにされるのも嫌だったのだろう――昂子は慌てて、秋也の後に付いてきた。
現れた秋也と昂子を見て、僧兵たちの先頭に立っていたウォンは居丈高に叫んだ。
「やっと来たか、焔流剣士!」
「そりゃまあ、他に道は無いし。……で、オレに何の用だ?」
尋ねた秋也に、ウォンは三節棍を向ける。
「お前ら焔流が、このままのうのうと我らが聖地、黒鳥宮の真正面を横切るなど、言語道断!
よってここで、お前ら二人を……」
と、ここで秋也が「おい」と声をかけた。
「なんだ? 命乞いか?」
「違げーよ。お前ら勘違いすんな、って話だよ。
焔流はオレ一人。こっちのエルフはただの中学生。良く見てみろよ、焔流の家紋が付いてるか、こいつの服に?」
「なに?」
そこでウォンは、秋也と昂子を交互に見る。
「……えーと」
「いくら焔流が嫌いだからって、単なる旅仲間にまでとばっちり食らわすなよ。
それでもプライドあんのかよ、お前ら? それとも誰彼構わず襲い掛かるのが、お前らの流儀か?」
「う……」
苦い顔をしたウォンに、秋也は畳み掛ける。
「そもそも、お前ら恥ずかしくないのか? いくら憎い相手だからって、そんなに何十人も押しかけて袋叩きにしようってのは、三下かチンピラ共のやるコトじゃねーのか?」
「……っ」
今度は一転し、顔を紅潮させたウォンを、秋也はもう一度、強くたしなめた。
「やるってんならお前一人でやれよ。取り巻きと一緒に嬲り者にして、ソレで黒炎のプライドが保てるって言い張るんなら、オレもハラ括るけどさ」
「……いいだろう」
ウォンは味方に背を向けたまま、こう言い放った。
「お前たちは手を出すな。僕一人で、こいつを叩きのめすッ」
「そう来なくっちゃな」
秋也も刀を構え、ウォンと対峙した。
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峠の封鎖。
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宿を後にしてから4、5時間ほどが経ち、秋也と昂子は峠の中腹に差し掛かった。
「もうお昼くらいだよね」
懐中時計をチラチラと見つつ、そうつぶやいた昂子に、秋也はニヤ、と笑って見せる。
「なんだ、もう腹減ったのか?」
「そりゃ減るよ、朝ご飯あんなだったし」
「ま、そりゃそうか。んじゃ、この辺りで……」
と、秋也はそこで言葉を切り、峠の上方に目をやる。
「どしたの?」
「……昂子。もうちょっと、飯は待ってもらっていいか?」
「何でよ?」
「アレだよ」
秋也は少し先を指し、肩をすくめた。
「昨夜お前が言ってたコト、本気でやりやがったみたいだ」
「へ? ……教団が襲ってくるって、アレ?」
昂子も目を凝らし、上の様子を確認する。
そこには黒い点が、峠に並んでいるのが見えた。
「……アレって、教団の人?」
「この山で黒い服を着込んで威張ってる奴らなんて、他にいるか?」
「え、じゃあアレって、あたしたちを待ち構えてるってコト?」
「多分な。……参ったな」
秋也は猫耳をコリコリとかきながら、腰に佩いていた刀を抜く。
「この分じゃ、黒荘に戻っても襲われるだろうな。……となると、前に進むしかないな」
「えっ」
秋也の言葉に、昂子は顔を青くする。
「いや、無理じゃん? どう考えてもダメだって」
「なら、戻るか? 戻っても多分、同じ目に遭うぞ?」
「いや、ほら、あの、脇道にそれて、回り込んで逃げるとか」
「あのな、上からオレたちの動き見てるってのに、今さら逃げてみてどうなる? 追い掛け回されるだけだぞ」
「じゃ、じゃあさ、ごめんなさいって言って」
「それで何とかなるなら、袋叩きにするだの何だのって発想は出ないっつの」
「じゃ、ほら、あの、えー……」
戸惑っている昂子に、秋也ははあ、とため息をつく。
「お前、本当に自分の思い通りにならない状況に弱いな。逃げるか駄々こねるか、ソレばっかだよな」
「うー……、だって」
秋也は昂子に背を向け、歩き出した。
「いいよ、ソコでじっとしてな。オレが何とかしてきてやるから」
「あ、ちょ、ちょっと!」
一人きりにされるのも嫌だったのだろう――昂子は慌てて、秋也の後に付いてきた。
現れた秋也と昂子を見て、僧兵たちの先頭に立っていたウォンは居丈高に叫んだ。
「やっと来たか、焔流剣士!」
「そりゃまあ、他に道は無いし。……で、オレに何の用だ?」
尋ねた秋也に、ウォンは三節棍を向ける。
「お前ら焔流が、このままのうのうと我らが聖地、黒鳥宮の真正面を横切るなど、言語道断!
よってここで、お前ら二人を……」
と、ここで秋也が「おい」と声をかけた。
「なんだ? 命乞いか?」
「違げーよ。お前ら勘違いすんな、って話だよ。
焔流はオレ一人。こっちのエルフはただの中学生。良く見てみろよ、焔流の家紋が付いてるか、こいつの服に?」
「なに?」
そこでウォンは、秋也と昂子を交互に見る。
「……えーと」
「いくら焔流が嫌いだからって、単なる旅仲間にまでとばっちり食らわすなよ。
それでもプライドあんのかよ、お前ら? それとも誰彼構わず襲い掛かるのが、お前らの流儀か?」
「う……」
苦い顔をしたウォンに、秋也は畳み掛ける。
「そもそも、お前ら恥ずかしくないのか? いくら憎い相手だからって、そんなに何十人も押しかけて袋叩きにしようってのは、三下かチンピラ共のやるコトじゃねーのか?」
「……っ」
今度は一転し、顔を紅潮させたウォンを、秋也はもう一度、強くたしなめた。
「やるってんならお前一人でやれよ。取り巻きと一緒に嬲り者にして、ソレで黒炎のプライドが保てるって言い張るんなら、オレもハラ括るけどさ」
「……いいだろう」
ウォンは味方に背を向けたまま、こう言い放った。
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