「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・旧交抄 1
麒麟を巡る話、第18話。
今後の相談。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
屏風山脈を西へ下り、三人はいよいよ央中地域に入った。
山道を抜けた直後の、その道中――。
「でさ、確かに香りはいいなーとは思ったんだけど、あんまり……、何だっけ、コーヒー? って飲まないからさ、味はあんまり……」
「だよねー。ま、あたしは好きかもって思ったけど。
ねえ、ウォンはコーヒー好きな方?」
「……」
秋也と昂子は山道でも何度か、ウォンに世間話を振っていたが、彼は秋也から借りた帽子を深く被ったまま、応えようとしない。
「ねえ、ウォンってば」
たまりかねた昂子が、ウォンの手を引っ張る。
「なっ、……何だ?」
ようやく、ウォンは顔を挙げる。
「ヒトが何度も何度も声かけてんのにさー、ちょっとは反応しなさいよっての」
「あ、ああ。悪い。……えーと、何の話をしていたんだ?」
「いーよ、もうっ」
昂子はウォンから手を離し、ぷい、とそっぽを向いた。
「なんなんだ、まったく……」
「ソレはどっちかって言うと」
秋也も呆れ気味に、ウォンに顔を向けた。
「オレたちの台詞だな。
あのさ、ウォン。何か、気になるコトでもあんのか?」
「……と、言うと?」
「さっきからさ、オレや昂子が声かけても、返事もしねーし顔も向けねーし。何か考え事でもしてたのか?」
「いや、そう言うわけじゃ……」
「じゃ、どうしたんだよ? それともさ、まだ『焔流の人間とは話なんかできない』とか思って……」「いや、そう言うわけじゃない。ないんだが、……その」
ウォンは帽子を挙げ、秋也にこんなことを尋ねてきた。
「僕は、……その、これから、どうしたらいいんだろうかって」
「……そう言や、ちゃんと話してなかったな」
歩き疲れていたこともあり、三人は街道の脇に逸れて休憩しつつ、ウォンの今後を話し合うことにした。
「でさ、ちょっと聞きたいんだけど」
まず、秋也が確認する。
「お前、何かしたいコトとかあんのか?」
「したい、こと……。うーん」
問われたウォンは、困った顔になる。
「……分からない。……自慢じゃないが、産まれてこの方、修業と鍛錬以外はほとんど何も、したことが無いんだ。
だから放り出されても、何をしたらいいのか」
「だよなぁ」
「あたしには信じらんない世界ね。ずーっと勉強ばっかりとか、ないわー」
「お前じゃそうだろうな」
ウォンにそう返され、昂子は膨れっ面になる。
「ふん、だ」
(こいつら足して2で割りゃ、丁度いいだろうになー)
ぼんやりそんなことを考えつつ、秋也は続いて質問した。
「じゃあさ、趣味とかも無し?」
「無い。……強いて言えば、修業になる」
「わー、修業バカだ」
「うるさい」
昂子にからかわれ、今度はウォンが顔をしかめた。
「んじゃ、まあ。……これから行く街なら、そーゆー奴でも構ってくれるところは一杯あるし、とりあえずは何とかできるかな」
「ってゆーと?」
尋ねた昂子に、秋也はにやっと笑って見せた。
「闘技場だよ。あそこなら賞金も出るし、ボーっとしてても当面は、何とかなるさ」
「闘技場、……か。そうだな、それなら」
不安げだったウォンの表情に、ここでようやく安堵の色が浮かんできた。
「ほっとしたみたいだな。……じゃ、そろそろ行くか」
「しゅっぱーつ!」
揃って立ち上がった秋也と昂子に続く形で、ウォンも立ち上がった。
「ああ、……行こう」
と、昂子がここで、ウォンにビシ、と人差し指を突きつけた。
「アンタ、堅い」
「えっ?」
「話し方。もうちょい柔っこくできない?」
「と、言われても」
また困った顔になるウォンに、昂子ははぁ、とため息をついて見せた。
「ま、いーわ。一緒に居れば、そのうち柔くなるでしょ」
(どーかなぁ。それよりオレとしては、お前にもーちょっとくらい、しっかりしてほしいトコなんだけどな。
本当にもう、こんだけ両極端なのが揃うとはなぁ)
秋也はそんなことを考えながら、二人には分からないように苦笑していた。
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屏風山脈を西へ下り、三人はいよいよ央中地域に入った。
山道を抜けた直後の、その道中――。
「でさ、確かに香りはいいなーとは思ったんだけど、あんまり……、何だっけ、コーヒー? って飲まないからさ、味はあんまり……」
「だよねー。ま、あたしは好きかもって思ったけど。
ねえ、ウォンはコーヒー好きな方?」
「……」
秋也と昂子は山道でも何度か、ウォンに世間話を振っていたが、彼は秋也から借りた帽子を深く被ったまま、応えようとしない。
「ねえ、ウォンってば」
たまりかねた昂子が、ウォンの手を引っ張る。
「なっ、……何だ?」
ようやく、ウォンは顔を挙げる。
「ヒトが何度も何度も声かけてんのにさー、ちょっとは反応しなさいよっての」
「あ、ああ。悪い。……えーと、何の話をしていたんだ?」
「いーよ、もうっ」
昂子はウォンから手を離し、ぷい、とそっぽを向いた。
「なんなんだ、まったく……」
「ソレはどっちかって言うと」
秋也も呆れ気味に、ウォンに顔を向けた。
「オレたちの台詞だな。
あのさ、ウォン。何か、気になるコトでもあんのか?」
「……と、言うと?」
「さっきからさ、オレや昂子が声かけても、返事もしねーし顔も向けねーし。何か考え事でもしてたのか?」
「いや、そう言うわけじゃ……」
「じゃ、どうしたんだよ? それともさ、まだ『焔流の人間とは話なんかできない』とか思って……」「いや、そう言うわけじゃない。ないんだが、……その」
ウォンは帽子を挙げ、秋也にこんなことを尋ねてきた。
「僕は、……その、これから、どうしたらいいんだろうかって」
「……そう言や、ちゃんと話してなかったな」
歩き疲れていたこともあり、三人は街道の脇に逸れて休憩しつつ、ウォンの今後を話し合うことにした。
「でさ、ちょっと聞きたいんだけど」
まず、秋也が確認する。
「お前、何かしたいコトとかあんのか?」
「したい、こと……。うーん」
問われたウォンは、困った顔になる。
「……分からない。……自慢じゃないが、産まれてこの方、修業と鍛錬以外はほとんど何も、したことが無いんだ。
だから放り出されても、何をしたらいいのか」
「だよなぁ」
「あたしには信じらんない世界ね。ずーっと勉強ばっかりとか、ないわー」
「お前じゃそうだろうな」
ウォンにそう返され、昂子は膨れっ面になる。
「ふん、だ」
(こいつら足して2で割りゃ、丁度いいだろうになー)
ぼんやりそんなことを考えつつ、秋也は続いて質問した。
「じゃあさ、趣味とかも無し?」
「無い。……強いて言えば、修業になる」
「わー、修業バカだ」
「うるさい」
昂子にからかわれ、今度はウォンが顔をしかめた。
「んじゃ、まあ。……これから行く街なら、そーゆー奴でも構ってくれるところは一杯あるし、とりあえずは何とかできるかな」
「ってゆーと?」
尋ねた昂子に、秋也はにやっと笑って見せた。
「闘技場だよ。あそこなら賞金も出るし、ボーっとしてても当面は、何とかなるさ」
「闘技場、……か。そうだな、それなら」
不安げだったウォンの表情に、ここでようやく安堵の色が浮かんできた。
「ほっとしたみたいだな。……じゃ、そろそろ行くか」
「しゅっぱーつ!」
揃って立ち上がった秋也と昂子に続く形で、ウォンも立ち上がった。
「ああ、……行こう」
と、昂子がここで、ウォンにビシ、と人差し指を突きつけた。
「アンタ、堅い」
「えっ?」
「話し方。もうちょい柔っこくできない?」
「と、言われても」
また困った顔になるウォンに、昂子ははぁ、とため息をついて見せた。
「ま、いーわ。一緒に居れば、そのうち柔くなるでしょ」
(どーかなぁ。それよりオレとしては、お前にもーちょっとくらい、しっかりしてほしいトコなんだけどな。
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- from まとめwoネタ速neo
- at 2012.05.23 07:43
NoTitle
こんなワガママしか言わない子。