「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・旧交抄 2
麒麟を巡る話、第19話。
懐かしいあの店に。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
夕暮れを迎えるよりも少し前辺りには、三人は央中の中心地、そして世界最大の都市であるゴールドコーストに到着した。
「確かに大きな街だ。黒鳥宮も相当に広いと思っていたが、比較にならないな」
きょろきょろと辺りを見回すウォンに対し、昂子はフン、と鼻を鳴らして見せる。
「アンタ、まるで田舎者ね。ちょっとは落ち着いたら?」
「お、お前こそはしゃいでいるだろう!? 僕と同様に、首を動かしているのを見ていたぞ!?」
「ち、違うわよ! コレは首が凝ったなーってアレよ!」
「13歳やそこらで首が凝るものか!」
「凝るもーんだ」
騒ぐ二人を見かねて、秋也はパン、と手を打つ。
「その辺で止めとけって、お前ら。ソレよりも腹減ったし、疲れもあるだろ?」
「……まあ、そうだな」
「減ったし疲れた」
二人が大人しくなったところで、秋也が提案する。
「騒ぐより、今は宿を探すのが先だ。オレも腹減ってるし、布団に飛び込みたい」
「さんせーい」
「隣に同じ」
「よし。んじゃどこか、泊まる場所探すか」
「あ、じゃあさ」
と、昂子が手を挙げる。
「晩御飯はさ、別のトコで食べない?」
「ん?」
「お母さんの従姉妹がやってる店ってのが、ココにあるらしいのよ。いっぺん、行ってみたいなーって」
「なーるほど。……あ、ソレならオレも聞いた覚えがある。昔、お袋もお世話になったって言ってた店だな、多分。
何だっけ、『赤虎亭』だろ?」
「そーそー、ソレソレ」
宿を決めた後、三人はその店を、親から聞いた記憶と、宿の主人から聞いた情報とを頼りに――役に立ったのは結局、後者だけだったが――探し当てた。
「……どもー」
何となく気恥ずかしくもあり、秋也は恐る恐る戸を開け、中の様子を窺った。
「いらっしゃい」
普通に声をかけられたが、秋也はまたも、恐る恐る尋ねる。
「あの、橘朱海さん、ですか?」
「違うよ」
そう返され、秋也は「あっ」と声を挙げた。
「すみません、間違え……」「間違ってない。ここは赤虎亭。店番が違うだけ」
「へ?」
戸惑っているうちに、店の奥から三角布を被った黒髪の、女性の猫獣人が出てきた。
「アケミさんは支店の見回りと買い出しに行ってる。御用なら聞くけど? ご飯?」
「あ、いや。ソレもなんだけど、オレたちは……」
と、猫獣人が秋也の背後に声をかけた。
「お帰りなさい、アケミさん」
秋也たちが振り向くと、そこには初老の、虎獣人の女性が立っていた。
「ああ、ただいま。秋也くん、昂子ちゃん、……と、後は誰か分からんが、とりあえず中にお入り」
そう促されたが、秋也たちは目を丸くするばかりだった。
「え、あの」
「何で分かった、って顔をしてるな。
小鈴から連絡があったんだよ。『昂子と秋也くんがこっちに来る』ってな。で、弧月からココまでの距離と日数考えたら、昨日か今日、遅くとも明日くらいには着くだろうと見当は立ててたんだ。
それくらいのタイミングでここに来る、央南人で『猫』とエルフって組み合わせなら、十中八九お前らだろうし、それに秋也くんは顔、覚えてたしな。だから分かった」
朱海は店に入り、猫獣人の肩をトン、と叩く。
「コロラ、手伝ってくれ。今日はこいつらの貸切にする。ご馳走、食べさせてやろうかってな」
「はーい」
コロラと呼ばれた猫獣人と一緒に店の奥へ進み、厨房に入ったところで、朱海は秋也たちにもう一度、声をかけた。
「ああ、そうそう。ウィルたちにも声、かけといた。もうちょっとしたら来るよ」
それを聞いて、秋也の顔から笑みがこぼれる。
「そうなんですか?」
「おう。あいつらも喜んでたよ、また会えるってな」
朱海は三角布を頭に巻きながら、にっこりと笑い返した。
「とりあえず、座ってくれ。夏とは言え、あんまり風通しが良過ぎても困る。砂埃なんかが入っちまうからな。早いとこ、戸を閉めてほしいんだ」
「あ、はい」
秋也たちはきちんと戸を閉めてから、席に着いた。
@au_ringさんをフォロー
懐かしいあの店に。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
夕暮れを迎えるよりも少し前辺りには、三人は央中の中心地、そして世界最大の都市であるゴールドコーストに到着した。
「確かに大きな街だ。黒鳥宮も相当に広いと思っていたが、比較にならないな」
きょろきょろと辺りを見回すウォンに対し、昂子はフン、と鼻を鳴らして見せる。
「アンタ、まるで田舎者ね。ちょっとは落ち着いたら?」
「お、お前こそはしゃいでいるだろう!? 僕と同様に、首を動かしているのを見ていたぞ!?」
「ち、違うわよ! コレは首が凝ったなーってアレよ!」
「13歳やそこらで首が凝るものか!」
「凝るもーんだ」
騒ぐ二人を見かねて、秋也はパン、と手を打つ。
「その辺で止めとけって、お前ら。ソレよりも腹減ったし、疲れもあるだろ?」
「……まあ、そうだな」
「減ったし疲れた」
二人が大人しくなったところで、秋也が提案する。
「騒ぐより、今は宿を探すのが先だ。オレも腹減ってるし、布団に飛び込みたい」
「さんせーい」
「隣に同じ」
「よし。んじゃどこか、泊まる場所探すか」
「あ、じゃあさ」
と、昂子が手を挙げる。
「晩御飯はさ、別のトコで食べない?」
「ん?」
「お母さんの従姉妹がやってる店ってのが、ココにあるらしいのよ。いっぺん、行ってみたいなーって」
「なーるほど。……あ、ソレならオレも聞いた覚えがある。昔、お袋もお世話になったって言ってた店だな、多分。
何だっけ、『赤虎亭』だろ?」
「そーそー、ソレソレ」
宿を決めた後、三人はその店を、親から聞いた記憶と、宿の主人から聞いた情報とを頼りに――役に立ったのは結局、後者だけだったが――探し当てた。
「……どもー」
何となく気恥ずかしくもあり、秋也は恐る恐る戸を開け、中の様子を窺った。
「いらっしゃい」
普通に声をかけられたが、秋也はまたも、恐る恐る尋ねる。
「あの、橘朱海さん、ですか?」
「違うよ」
そう返され、秋也は「あっ」と声を挙げた。
「すみません、間違え……」「間違ってない。ここは赤虎亭。店番が違うだけ」
「へ?」
戸惑っているうちに、店の奥から三角布を被った黒髪の、女性の猫獣人が出てきた。
「アケミさんは支店の見回りと買い出しに行ってる。御用なら聞くけど? ご飯?」
「あ、いや。ソレもなんだけど、オレたちは……」
と、猫獣人が秋也の背後に声をかけた。
「お帰りなさい、アケミさん」
秋也たちが振り向くと、そこには初老の、虎獣人の女性が立っていた。
「ああ、ただいま。秋也くん、昂子ちゃん、……と、後は誰か分からんが、とりあえず中にお入り」
そう促されたが、秋也たちは目を丸くするばかりだった。
「え、あの」
「何で分かった、って顔をしてるな。
小鈴から連絡があったんだよ。『昂子と秋也くんがこっちに来る』ってな。で、弧月からココまでの距離と日数考えたら、昨日か今日、遅くとも明日くらいには着くだろうと見当は立ててたんだ。
それくらいのタイミングでここに来る、央南人で『猫』とエルフって組み合わせなら、十中八九お前らだろうし、それに秋也くんは顔、覚えてたしな。だから分かった」
朱海は店に入り、猫獣人の肩をトン、と叩く。
「コロラ、手伝ってくれ。今日はこいつらの貸切にする。ご馳走、食べさせてやろうかってな」
「はーい」
コロラと呼ばれた猫獣人と一緒に店の奥へ進み、厨房に入ったところで、朱海は秋也たちにもう一度、声をかけた。
「ああ、そうそう。ウィルたちにも声、かけといた。もうちょっとしたら来るよ」
それを聞いて、秋也の顔から笑みがこぼれる。
「そうなんですか?」
「おう。あいつらも喜んでたよ、また会えるってな」
朱海は三角布を頭に巻きながら、にっこりと笑い返した。
「とりあえず、座ってくれ。夏とは言え、あんまり風通しが良過ぎても困る。砂埃なんかが入っちまうからな。早いとこ、戸を閉めてほしいんだ」
「あ、はい」
秋也たちはきちんと戸を閉めてから、席に着いた。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Comment ~
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
まとめtyaiました【白猫夢・旧交抄 2】
麒麟を巡る話、第19話。懐かしいあの店に。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. 夕暮れを迎えるよりも少し前辺りには、三人は央中の中心地、そして世界最大の都市であるゴールドコーストに到着した。「確かに大きな街だ。黒鳥宮も相当に広いと思っていたが、比?...
- from まとめwoネタ速neo
- at 2012.05.23 22:07
NoTitle
「蒼天剣」では4部からの登場です。