「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・旧交抄 3
麒麟を巡る話、第20話。
旧友との再会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
ウィルたちが来るまでの間、秋也たち三人は、カウンターの向こうで作られている料理に釘付けになっていた。
「ソレ、何です?」
「ん? ああ、トビウオだ。今が旬だからな、脂が乗っててうまいぞ。今朝上がったばっかりだから刺身には持って来いだし、後は天ぷらだな」
「うはぁ……、うまそう」
朱海の魚捌きに秋也が食い付いている横で、昂子とウォンがコロラのつかんでいる、小豆色の触手について、恐る恐る尋ねている。
「そっちは……、タコ?」
「うん、そう」
山育ちのせいか、どうやらウォンは、初めてタコを見たらしい。
「そんなの、食えるのか? まだ……、その、ウネウネしているようだが」
「さっき切ったばかりだから。刺身にするとプリプリして美味しい。それと、こっちの大根と合わせて、煮物にする。こっちもすごく美味しい」
まだ彼女の掌中でうごめくタコの脚を、ウォンは青い顔で見つめている。
「う、ん。……見た目は、あの、何だな。……グロい」
「見た目はね。でも味はいい」
と、昂子も苦い顔でこうつぶやく。
「ごめん、あたしもタコ、あんまり好きじゃ……」
「そう?」
二人の反応に、コロラはしゅんとした顔になる。
「美味しいのに」
それを横目で見ていた秋也が、昂子たちをたしなめる。
「好き嫌い言うなよ。うまいぞ、タコ」
「いや、ホント駄目なのよ。見た目が、……どうしても」
口ごもる昂子に、朱海も口をとがらせた。
「おいおい、食わず嫌いか? ちゃんと食べてくれよー、折角用意したんだから」
「が、頑張る」
「ぼ、僕も挑戦する。敵前逃亡など、も、もっての外だからな」
顔をこわばらせている二人に、秋也は呆れた声を出した。
「ソコまで気合入れなくてもいーだろ……」
「ま、それにだ。弧月は内陸だし、そっちの狼坊主くん……、えーと」
「ウォーナード……、ウォンだ」
「ウォンくんか。君もその格好からして、山の子だろ? 海産物となると縁遠いだろうな、二人とも。
だけどもここは港町だ。海の物に関して、まずいってことはまず、無い。あるとすりゃ、料理人の腕のせいになるが、それもこの店に関して言えば、まったく問題なしだ。
自分で言うのも何だが、アタシの腕は確かだし、コロラもアタシがみっちり教え込んでるからな。この店でまずい物は、絶対食わせないよ。期待しててくれ」
そう朱海が宣言したところで、入口の戸がカラカラと音を立てて開いた。
「アケミさん、どうもー」
「どもどもー」
軽い挨拶と共に、背の高い、筋肉質の男女が店に入ってくる。
「……おっ」
狼獣人の青年の方が、秋也を見て手を挙げる。
「シュウヤ、久しぶり!」
「お、ウィル!」
秋也は立ち上がり、狼獣人に会釈した。
「久しぶりだな! ……つってもまあ、1ヶ月半くらいか?」
「そうだな、確か。でもすげー久々って感じだ。色々あったからかな」
「色々?」
と、今度は虎獣人の女性が手を挙げる。
「ウチの弟がなー、ウィルんとこの妹さんと結婚するー、て言いだしてん。
母やんも父やんも、シルビアさんも目ぇ丸うするわ、ウィルが半ギレするわで、てんてんわんわん? やってん」
「それを言うなら、『てんやわんや』だっつの。
……まあ、そんなワケでさ。この1ヶ月、すげー揉めたんだよ、クイントの奴と」
「クイント、ってのがシルキスの弟か。何番目の?」
「すぐ下のん。て言うか、歳考えたらギリギリやん。クイント、17やし」
「あ、そっか」
シルキスはふう、と鼻からため息を吹き、肩をすくめる。
「ホンマになぁ、おマセっちゅう限度をブッちぎっとるで」
「その上、手前勝手に話をブン回してくるしな」
「せやなぁ。いきなり『シルフィと結婚するわー』とか、アホかっちゅうの。ほんで、どーにか話がまとまったん、一昨日やしな」
そこで、秋也はそれとなく状況を伺ってみる。
「まとまった、……ってコトなら、おめでとう、でいいのかな」
「……まあ、うん。まだちょっと、くすぶり気味だけどな」
「せやねん。そもそもからな、まだ自分一人でまともに金も稼げへん、甲斐性なしのクセしよって……」「だからさ、お前ら」
と、朱海がカウンターへ身を乗り出し、しかめっ面をウィルたちに向ける。
「今日は風が強いんだ。戸、開けっ放しにされちゃ困る。話は中に入ってからにしてくれよ」
「あ、すんませーん」
ウィルとシルキスは揃ってぺこりと頭を下げ、それから後ろ手に戸を閉めた。
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ウィルたちが来るまでの間、秋也たち三人は、カウンターの向こうで作られている料理に釘付けになっていた。
「ソレ、何です?」
「ん? ああ、トビウオだ。今が旬だからな、脂が乗っててうまいぞ。今朝上がったばっかりだから刺身には持って来いだし、後は天ぷらだな」
「うはぁ……、うまそう」
朱海の魚捌きに秋也が食い付いている横で、昂子とウォンがコロラのつかんでいる、小豆色の触手について、恐る恐る尋ねている。
「そっちは……、タコ?」
「うん、そう」
山育ちのせいか、どうやらウォンは、初めてタコを見たらしい。
「そんなの、食えるのか? まだ……、その、ウネウネしているようだが」
「さっき切ったばかりだから。刺身にするとプリプリして美味しい。それと、こっちの大根と合わせて、煮物にする。こっちもすごく美味しい」
まだ彼女の掌中でうごめくタコの脚を、ウォンは青い顔で見つめている。
「う、ん。……見た目は、あの、何だな。……グロい」
「見た目はね。でも味はいい」
と、昂子も苦い顔でこうつぶやく。
「ごめん、あたしもタコ、あんまり好きじゃ……」
「そう?」
二人の反応に、コロラはしゅんとした顔になる。
「美味しいのに」
それを横目で見ていた秋也が、昂子たちをたしなめる。
「好き嫌い言うなよ。うまいぞ、タコ」
「いや、ホント駄目なのよ。見た目が、……どうしても」
口ごもる昂子に、朱海も口をとがらせた。
「おいおい、食わず嫌いか? ちゃんと食べてくれよー、折角用意したんだから」
「が、頑張る」
「ぼ、僕も挑戦する。敵前逃亡など、も、もっての外だからな」
顔をこわばらせている二人に、秋也は呆れた声を出した。
「ソコまで気合入れなくてもいーだろ……」
「ま、それにだ。弧月は内陸だし、そっちの狼坊主くん……、えーと」
「ウォーナード……、ウォンだ」
「ウォンくんか。君もその格好からして、山の子だろ? 海産物となると縁遠いだろうな、二人とも。
だけどもここは港町だ。海の物に関して、まずいってことはまず、無い。あるとすりゃ、料理人の腕のせいになるが、それもこの店に関して言えば、まったく問題なしだ。
自分で言うのも何だが、アタシの腕は確かだし、コロラもアタシがみっちり教え込んでるからな。この店でまずい物は、絶対食わせないよ。期待しててくれ」
そう朱海が宣言したところで、入口の戸がカラカラと音を立てて開いた。
「アケミさん、どうもー」
「どもどもー」
軽い挨拶と共に、背の高い、筋肉質の男女が店に入ってくる。
「……おっ」
狼獣人の青年の方が、秋也を見て手を挙げる。
「シュウヤ、久しぶり!」
「お、ウィル!」
秋也は立ち上がり、狼獣人に会釈した。
「久しぶりだな! ……つってもまあ、1ヶ月半くらいか?」
「そうだな、確か。でもすげー久々って感じだ。色々あったからかな」
「色々?」
と、今度は虎獣人の女性が手を挙げる。
「ウチの弟がなー、ウィルんとこの妹さんと結婚するー、て言いだしてん。
母やんも父やんも、シルビアさんも目ぇ丸うするわ、ウィルが半ギレするわで、てんてんわんわん? やってん」
「それを言うなら、『てんやわんや』だっつの。
……まあ、そんなワケでさ。この1ヶ月、すげー揉めたんだよ、クイントの奴と」
「クイント、ってのがシルキスの弟か。何番目の?」
「すぐ下のん。て言うか、歳考えたらギリギリやん。クイント、17やし」
「あ、そっか」
シルキスはふう、と鼻からため息を吹き、肩をすくめる。
「ホンマになぁ、おマセっちゅう限度をブッちぎっとるで」
「その上、手前勝手に話をブン回してくるしな」
「せやなぁ。いきなり『シルフィと結婚するわー』とか、アホかっちゅうの。ほんで、どーにか話がまとまったん、一昨日やしな」
そこで、秋也はそれとなく状況を伺ってみる。
「まとまった、……ってコトなら、おめでとう、でいいのかな」
「……まあ、うん。まだちょっと、くすぶり気味だけどな」
「せやねん。そもそもからな、まだ自分一人でまともに金も稼げへん、甲斐性なしのクセしよって……」「だからさ、お前ら」
と、朱海がカウンターへ身を乗り出し、しかめっ面をウィルたちに向ける。
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麒麟を巡る話、第20話。旧友との再会。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. ウィルたちが来るまでの間、秋也たち三人は、カウンターの向こうで作られている料理に釘付けになっていた。「ソレ、何です?」「ん? ああ、トビウオだ。今が旬だからな、脂が乗って?...
- from まとめwoネタ速neo
- at 2012.05.25 03:59
NoTitle
はっきり言ってしまうと僕があまり得手としないタイプの方です。