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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第1部

    白猫夢・旧交抄 5

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    麒麟を巡る話、第22話。
    自堕落娘。

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    5.
     赤虎亭で飲み明かした翌日。
     秋也たちの泊まっていた宿を、ウィルが訪ねてきた。
    「よぉ、シュウヤ、ウォン」
    「おー……」
    「……」
     散々飲んでいたため、秋也はひどい頭痛を覚えている。ウォンも同様らしく、ソファにぐったりともたれながら、のろのろと手を挙げてウィルに応える。
     一方、ウィルの方はまったく響いていないらしい。
    「お前ら、二日酔いか? 顔、めちゃくちゃ蒼いけど」
    「あー……、うん……、そうみたい……、だな」
    「ひょっとして下戸か?」
    「いや……、昨夜は飲み過ぎた、……っぽい」
    「おいおい、だらしねーなぁ。
     ……あれ?」
     と、ウィルは部屋に昂子の姿が無いことに気付く。
    「あいつは?」
    「昂子か? まだ寝てる」
    「そっか。……あんまりさ、こんなこと言いたくないけど」
     ウィルは眉をひそめ、秋也たちに小声で謗る。
    「あいつ、何なんだ? 口を開けば『めんどくさい』だの『ウザい』だの『どーでもいい』だの、俺たちの話に一々突っかかって全否定してくるとか、バカにし過ぎだろ。
     昨夜は酒が入ってたから笑って許してたけどさ、なんかさ、素面になってよくよく考えてみたら、段々ムカっとして来たからさ」
    「あー、……ソレはマジで悪かった。あいつ、『お嬢様』だからさ。他人のコトなんか、ソレこそ『どーでもいい』で返してくるんだよ」
    「それが何かなぁ……。やる気無い癖して、他人のやること成すことに一々、ケチ付けてくんのがイラっと来るんだよな。
     本人が無気力なのはそいつの勝手だけどさ、俺たちの頑張りまでそいつの物差しで測られて無意味だって断言されるのは、あんまり気分いいもんじゃないぜ」
    「オレもなぁ……、事あるごとに注意してはいるんだけど、あいつ耳が長いクセして、ぜーんぜん聞く耳持ってないんだよな。正直、ちょっと持て余してるってのはある」
    「僕も同感だ。あいつ、これからミッドランドのテンコ様のところで修業を積むと言っていたが、10日くらいで逃げるんじゃないか? あんな無気力人間にまともな修行ができるとは、まったく思えない」
     そう言ってきたウォンに、秋也は反論する。
    「いや、そりゃ確かにさ、あいつは無気力で怠け者でワガママだけど、ソレでも将来のコトは、ちゃんと考えてるんだ。
     オレはちゃんとやり遂げるって信じてる」
    「そうだといいけどなぁ。
     ……あ、そうそう。こんな話をしに来たんじゃないんだ」
     ウィルはウォンの方に顔を向け、本題を切り出した。
    「ウォン、昨夜言ってた仕事の話だけど、どうする? 社長に会ってみるか?」
    「社長?」
    「ああ。こっちに来る前に寄ってみたんだけど、『会って話を聞いてみよう』ってさ」
    「そうか。……そうだな、会いたい」
    「よし、じゃあ早速……」
     そう言いかけて、ウィルは黙り込んだ。
    「どうした?」
    「……その前に、だ。
     お前ら、やっぱり酒臭いぜ。朝からやってる銭湯あるからさ、そっち寄ってからにしよう」
    「……あ、うん」

     風呂に入ってさっぱりした三人は、改めてウィルの職場に向かうことにした。
    「そう言やさ、ウィル」
    「ん?」
    「仕事って、孤児院の手伝いもやってたんじゃないのか?」
    「ああ、そっちは弟や妹も大きくなって、人手が足りてるからな。細かい仕事は、全部みんなに任せてる」
    「そっか。シルビアさんもいるしな」
    「つーか、逆に言うと」
     ウィルは肩をすくめ、冗談めかしてこううそぶく。
    「人が居すぎて俺の仕事が全部取られた、って感じだな。
     そんで、暇してたところで、闘技場関係でお世話になってた社長から、スカウトされたってわけだ」
    「へぇ。仕事って、具体的にはどんなコトやってるんだ?」
    「簡単に言うと、闘技場関係の資料集めと編集だ。大会の歴史も結構長いから、まとめて本にしようってさ」
    「面白そうだな、ソレ」
     話をしているうちに、三人はウィルの勤め先――チェイサー商会に到着した。

    「おはようございます、プレアさん」
     ウィルは秋也たちを社長室に案内し、中にいた社長、狼獣人のプレア・チェイサーに挨拶した。
    「おはよう、ウィルくん。……あら、シュウヤくんじゃない」
    「ども、お久しぶりです」
    「で、そちらの黒い『狼』くんが、働きたいって言ってる子?」
    「ええ。……ほら、ウォン」
     ウィルに促され、ウォンは黒炎教団式の挨拶、合掌を取って名乗る。
    「お初にお目にかかる。ウォーナード・ウィルソンだ」
    「ウィルソン? あら、もしかしてあなた、黒炎教団のウィルソン家?」
    「あ、ああ」
     それを聞いて、プレアはウォンの側に寄ってきた。
    「ウィルソン家は皆、イニシャルが同じと聞いたけど、あなたもW・Wなのね」
    「ええ、まあ」
    「あと、ウィルソン家の人は皆、僧兵を経験してると聞いたけど、あなたも?」
    「はい」
    「そう。……うーん」
     と、プレアは一転して、困ったような顔をした。
    「残念だけど」
    「え?」
    「あなたでは、角が立ちそうね。うちで採用するのは、難しいところだわ」
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    「未成年の飲酒がダメ」という認識は、
    概ね日本では健康上の理由から、法律によって禁じられているからで。

    こっちはファンタジー世界。
    健康うんぬんも知らなければ、そんな法も存在しません。

    ただし赤虎亭では一応、酒を出す前に「子供は飲んじゃダメ」と言ってました。
    それをウォンは、こっそり飲んでました。そしてこのザマ。

    NoTitle 

    この子達成人してたんだv-307

    NoTitle 

    社史ではなく、言うなればスポーツ史やスポーツ名鑑の編集ですね。
    落ちたのは彼自身の問題です。理由は次話にて。

    NoTitle 

    応募した先がいきなり「社史編纂室」で、そのうえそこにもはねられたウォンくんは、まるで現代社会の縮図みたいであります。気の毒……。
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    麒麟を巡る話、第22話。自堕落娘。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 赤虎亭で飲み明かした翌日。 秋也たちの泊まっていた宿を、ウィルが訪ねてきた。「よぉ、シュウヤ、ウォン」「おー……」「……」 散々飲んでいたため、秋也はひどい頭痛を覚えている。?...
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