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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第1部

    白猫夢・旧交抄 7

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    麒麟を巡る話、第24話。
    見方、聞き方を広げるために。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    7.
     公園で一休みしたところで、秋也たちはウィルと別れ、宿へと戻って来た。
    「ただいまー」
    「おかえり。ドコ行ってたの?」
     出迎えた昂子に、秋也は公園で買ったサンドイッチを渡す。
    「ウィルの仕事先。ウォンを雇ってもらえないかって」
    「ふーん」
     昂子はサンドイッチの包みを開きながら、ウォンに尋ねる。
    「行けそうなの?」
    「いや、駄目だった。……だからもうしばらく、お前たちと一緒に行動しようと思っている」
    「あ、そ。……あ、コレってアボカド?」
    「ああ。嫌いだったか?」
     昂子は顔をしかめ、秋也の問いにうなずく。
    「うん、無理。……こっちの、ソーセージのだけもらうね」
    「失礼な奴だな」
     と、ウォンが呆れた声を漏らす。
    「買ってきてやったものを『食べたくない』とは。家でどんな教育を受けたか、底が知れるな」
    「……」
     昂子はじろ、とウォンをにらみ、アボカドを挟んだサンドイッチを投げ付けた。
    「うっ、……何をするんだ!?」
     ウォンは飛んできたサンドイッチをつかみ、昂子をなじる。
    「食物を投げ付けるとは、マナーが悪いにも程があるだろう!? とことん無礼者だな、お前は!」
    「フン、だ」「昂子っ」
     見かねた秋也が、昂子の手からサンドイッチを取り上げる。
    「あ、何すんのよ? 食べるって言ったじゃん、ソレ」
    「食い物を粗末にすんなよ。オレから見ても、今のはお前が完璧、悪い」
    「何ソレ」
    「何ソレ、じゃねーよ。何かお前、日に日に柄が悪くなってないか?
     他人の言うコトに一々突っかかるわ、人の厚意を無碍にするわ。今のお前、まるでチンピラだぞ」
    「……っ」
     昂子の顔がみるみる紅くなる。
     次の瞬間、昂子の平手が秋也の頬にぶつけられ――かけたが、秋也はその手をひょい、とつかんでいた。
    「やると思ったよ。……なあ、何か不満があるってなら、口で言えよ? 辺り構わず当たり散らされても、こっちは困るだけなんだって」
    「不満? 不満なら、いっぱいあるわよ! ずーっとウォンばっかり構ってるし、あたしが何か言うと全部『お前が悪い』って言うし!
     そんなにあたしのコト、鬱陶しいの!?」
    「あのなぁ」
     秋也は昂子の手をつかんだまま、もう一方の、サンドイッチを持った手を昂子に向ける。
    「本気で鬱陶しかったら、オレはさっさとミッドランドにお前を預けて、央南に帰ってる。
     そうしないのは、お前にもうちょい、見聞を深めてほしいからだよ」
    「見聞? 誰がそんなコトお願いしたのよ!?」
    「聞けって。お前さ、怒ってる時って大体、自分の都合が悪くなった時だろ? 峠でもそうだったけど、自分の思い通りにならない時になると、すぐわめくし、逃げ出そうとするし。
     でもさ、事あるごとに一々わめいたり逃げたりして、ソレで全部、うまいコト行くと思うか? そんなコトばっかりやってても結局さ、『あいつはワガママばかり言って、何もできないヤツだ』って、周りからバカにされるだけだろ?
     昨夜だってそうだったろ? お前が何か言う度、ウィルやシルキス、嫌そうな顔してたろ? 自分の都合だけで、自分の話ばっかりしてたからだよ。
     お前だって嫌だろ、俺やウィルが大会で活躍した話を延々聞かされるのなんか、さ?」
    「まあ……、そりゃ、ウザいなって思うけど」
    「ソレと同じコトをしてたんだよ、昨夜のお前は。自分勝手な話ばっかりされて笑ってられるヤツなんて、この世には滅多にいないんだぜ。
     ちょっとくらいは人の話を聞くようにしなきゃ、お前本当に、周りから『ウザいヤツ』って思われて、相手にしてもらえなくなるぞ。
     お前がそんな風に一人ぼっちになってくのは嫌だし、だから俺は、今日出発してもいい宿を明日の分まで取ったんだよ。もうちょっと人の話、聞く耳を持ってほしいと思って。
     お前はお願いしてないのは分かってるけどさ、だからって、人の厚意をわざわざ踏みにじるコトも無いだろ? ソレだけはしないでくれよ、本当に、な?」
    「……」
     つかんでいた昂子の手から力が抜けるのを感じ、秋也は手を離す。
    「ほら、こっちは食べるんだろ?」
    「……うん。……あの、ウォン?」
    「なんだ」
    「そっちも食べる」
    「その前に、何か僕に言うことは無いのか」
    「……ごめん。ひどいコトした」
    「ああ」
     ウォンも小さく頭を下げ、昂子にサンドイッチを渡す。
    「僕も口汚い言葉を投げ付けた。すまない、アコ」
    「うん」

     半ば握り潰されたり投げ付けられたりしたために、折角のサンドイッチは形が崩れてしまっていたが、それでも昂子は美味しそうに平らげた。
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    NoTitle 

    人から出されたものにケチを付けるのは大変よろしくないこと。
    アボカドサンドも食べてくださいな。

    NoTitle 

    漏れもツナサンドを残さず食べようと思いますv-375
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