「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・旧交抄 8
麒麟を巡る話、第25話。
思いを馳せる'41。
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8.
次の日、昂子は秋也たちに手を引かれる形で、ウィルとシルキスのところへ、赤虎亭での無礼に対する謝罪を行った。
二人は昂子の謝罪を快く受け入れ、改めて5人で市中を巡り、遊ぶことになった。
「なーなー、どないやった、ウチのご飯?」
「うん、すっごく美味しかった!」
シルキスの両親が営む定食屋で昼食を取り、シルキスは昂子の反応に、上機嫌になっている。
と、秋也はシルキスにこんな質問をする。
「シルキスの父さんと母さんは、今どこかに出てるのか? さっき料理持って来てくれたの、妹さんみたいだったけど」
「せやねん。ウィルん家に行っとるんよ。な、ウィル?」
「ああ。ほら、赤虎亭で話してた、クイントとシルフィの話で」
「ああ……。え、じゃあもう結婚するって話になったの?」
「……それがなぁ」
ここで厨房の奥から、声が飛んでくる。どうやら先程料理を運んできてくれた、シルキスの妹のようだ。
「クイント兄やん、アホやねんで。昨日の朝、キャバレーみたいなところから連絡来てな、『店の女に手ぇ出しよったから、迷惑料払うてんか』って」
「はぁ!?」
「じゃあクイント、結婚するって言ってた横で、他の女口説いてたってコトか?」
「せやねん。で、めでたく話は破談になったっちゅうワケや。シルフィからもきっついビンタもらうわ、ウィルからも拳骨もらうわ、その上に父やんと母やんからも『お前みたいなアホは面倒見切れへん、勘当やッ!』ちゅうて散々怒鳴られて、ウチを追い出されよってん。
ほんで今、父やんたちがウィルん家に、謝りに行っとるとこやねん」
「とんだ阿呆だな」
ウォンの言葉に、シルキスはゲラゲラと笑った。
「ホンマやわ、もう! あんなアホタレ、もう知らんわ、あははは……」
昼食の後、秋也たちは天狐たちへの土産を買いに向かった。
「何がいいんだろうな? 小鈴さんから何か聞いてるか、昂子?」
「えーっとね……、甘いものがいいってさ。特に天狐さんは、チョコレート大好きなんだって」
「鈴林さんは?」
「聞いてない、かな。何も言ってなかったと思う」
「ふーん……? 小鈴さんの話からしたら、鈴林さんの方がお世話になってるっぽいのにな……?」
そんな話をしている一方で、ウィルとシルキスが、ウォンの帽子を見立てている。
「こっちの方がかっこええんとちゃう?」
「いや、何だよそのドクロ……。そんなの無い方がいいって。シンプルが一番だ」
「僕もウィルの意見に賛成だ。流石にそちらは、御免被る」
「えー……。ええと思うんやけどなぁ」
口をとがらせるシルキスをよそに、ウィルは手に持っていた帽子を店員のところへ持っていく。
「じゃ、これ買ってやるよ」
「いいのか、本当に?」
「いいって。ま、お返しはお前が俺たちのところに無事、仕事に就けてからでいいから」
「……ありがとう」
ミッドランドへ向かう準備を終え、翌日、秋也たちはゴールドコーストを発った。
「じゃ、またな」
「ああ。今度は母さんたちにも会いに来てくれ」
「おう」
別れの挨拶を短く済ませ、秋也たちは街を後にする。
「……なんか、一気に静かになったね」
「そうだな。騒がしい街だった」
二人の言葉を聞き、秋也はふっと笑う。
「なに?」
「ああ、いや。オレも昔、初めてあの街に行って、で、街を出た時に、同じコト言ったなって。
みんな、そう思うらしいぜ。お袋もそう言ってた」
「へぇ」
「んで、揃ってみんな、こう言うらしいぜ」
秋也は二人に笑いかけながら、こう続けた。
「『また、この街に来たい』ってな」
「……なるほど。確かに」
「そーね。楽しかったし」
若干ひねくれ者の二人も、これには素直にうなずいていた。
その、秋也たち三人の動きを、遠い、遠い崖の上で見つめる者がいた。
「……あれね」
常人ならば形どころか、数すら判別できない、米粒のようにしか見えないその距離から、その女は三人をきっちり、裸眼で把握していた。
「一人、増えているみたいだけど……、まあ、関係ないか」
女は手にしていた仮面を顔に被せ、それから、唯一隠れていない口元を、にやりと歪ませた。
「本当の本当に、ボンクラなのか。それともやる時はやる子なのか。
確かめさせてもらうわよ、黄秋也くん」
女はその崖からとん、と飛び降り――その場から消えた。
白猫夢・旧交抄 終
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次の日、昂子は秋也たちに手を引かれる形で、ウィルとシルキスのところへ、赤虎亭での無礼に対する謝罪を行った。
二人は昂子の謝罪を快く受け入れ、改めて5人で市中を巡り、遊ぶことになった。
「なーなー、どないやった、ウチのご飯?」
「うん、すっごく美味しかった!」
シルキスの両親が営む定食屋で昼食を取り、シルキスは昂子の反応に、上機嫌になっている。
と、秋也はシルキスにこんな質問をする。
「シルキスの父さんと母さんは、今どこかに出てるのか? さっき料理持って来てくれたの、妹さんみたいだったけど」
「せやねん。ウィルん家に行っとるんよ。な、ウィル?」
「ああ。ほら、赤虎亭で話してた、クイントとシルフィの話で」
「ああ……。え、じゃあもう結婚するって話になったの?」
「……それがなぁ」
ここで厨房の奥から、声が飛んでくる。どうやら先程料理を運んできてくれた、シルキスの妹のようだ。
「クイント兄やん、アホやねんで。昨日の朝、キャバレーみたいなところから連絡来てな、『店の女に手ぇ出しよったから、迷惑料払うてんか』って」
「はぁ!?」
「じゃあクイント、結婚するって言ってた横で、他の女口説いてたってコトか?」
「せやねん。で、めでたく話は破談になったっちゅうワケや。シルフィからもきっついビンタもらうわ、ウィルからも拳骨もらうわ、その上に父やんと母やんからも『お前みたいなアホは面倒見切れへん、勘当やッ!』ちゅうて散々怒鳴られて、ウチを追い出されよってん。
ほんで今、父やんたちがウィルん家に、謝りに行っとるとこやねん」
「とんだ阿呆だな」
ウォンの言葉に、シルキスはゲラゲラと笑った。
「ホンマやわ、もう! あんなアホタレ、もう知らんわ、あははは……」
昼食の後、秋也たちは天狐たちへの土産を買いに向かった。
「何がいいんだろうな? 小鈴さんから何か聞いてるか、昂子?」
「えーっとね……、甘いものがいいってさ。特に天狐さんは、チョコレート大好きなんだって」
「鈴林さんは?」
「聞いてない、かな。何も言ってなかったと思う」
「ふーん……? 小鈴さんの話からしたら、鈴林さんの方がお世話になってるっぽいのにな……?」
そんな話をしている一方で、ウィルとシルキスが、ウォンの帽子を見立てている。
「こっちの方がかっこええんとちゃう?」
「いや、何だよそのドクロ……。そんなの無い方がいいって。シンプルが一番だ」
「僕もウィルの意見に賛成だ。流石にそちらは、御免被る」
「えー……。ええと思うんやけどなぁ」
口をとがらせるシルキスをよそに、ウィルは手に持っていた帽子を店員のところへ持っていく。
「じゃ、これ買ってやるよ」
「いいのか、本当に?」
「いいって。ま、お返しはお前が俺たちのところに無事、仕事に就けてからでいいから」
「……ありがとう」
ミッドランドへ向かう準備を終え、翌日、秋也たちはゴールドコーストを発った。
「じゃ、またな」
「ああ。今度は母さんたちにも会いに来てくれ」
「おう」
別れの挨拶を短く済ませ、秋也たちは街を後にする。
「……なんか、一気に静かになったね」
「そうだな。騒がしい街だった」
二人の言葉を聞き、秋也はふっと笑う。
「なに?」
「ああ、いや。オレも昔、初めてあの街に行って、で、街を出た時に、同じコト言ったなって。
みんな、そう思うらしいぜ。お袋もそう言ってた」
「へぇ」
「んで、揃ってみんな、こう言うらしいぜ」
秋也は二人に笑いかけながら、こう続けた。
「『また、この街に来たい』ってな」
「……なるほど。確かに」
「そーね。楽しかったし」
若干ひねくれ者の二人も、これには素直にうなずいていた。
その、秋也たち三人の動きを、遠い、遠い崖の上で見つめる者がいた。
「……あれね」
常人ならば形どころか、数すら判別できない、米粒のようにしか見えないその距離から、その女は三人をきっちり、裸眼で把握していた。
「一人、増えているみたいだけど……、まあ、関係ないか」
女は手にしていた仮面を顔に被せ、それから、唯一隠れていない口元を、にやりと歪ませた。
「本当の本当に、ボンクラなのか。それともやる時はやる子なのか。
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