「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・遭克抄 1
麒麟を巡る話、第26話。
仮面の女剣士。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
ゴールドコーストを後にした秋也たち三人は、ミッドランドへ向かうべく、街道を進んでいた。
「ミッドランドまでは、あとどのくらいなんだ?」
そう尋ねたウォンに、秋也は地図を広げながら答える。
「えーと……、今いるのが、ココだろ。リトルマインから北にちょっと、行ったところ」
「この先街道が分かれているが、これは西に進むんだな?」
「ああ。で、その突き当たりにフォルピア湖がある。ココから船に乗れば、あっと言う間にミッドランドだ」
「地図で見る限りは、ゴールドコースト―リトルマイン間より、若干長いくらいか。1日か、2日と言うところだな」
「ああ。ソコで、この旅もおしまいだな」
その言葉に、ウォンはふう、とため息をつく。
「そこでようやく、あのワガママ娘のお守りも、お役御免となるわけだな」
「ふん、だ」
聞いていた昂子が、いたずらっぽく鼻を鳴らす。
「どうせならあんたも、シュギョーしてったらいいんじゃないの?」
「お前と一緒にか? お断りだ」
「なーまけーものー」
「お前のことだろう」
そんな風にじゃれ合っている二人を見て、秋也は苦笑していた。
と――。
「ちょっと、いいかしら」
背後から突然、声をかけられ、秋也は驚く。
(えっ……? 今、誰もいなかったよな……?)
そして振り向いたところで、二度驚かされた。
「うわ、……っ?」
後ろに立っていた女に、顔が無いように見えたからだ。
「……あ、すみません」
しかしよく見てみると、そのつるんとした真っ白な顔には何点か穴が開いており、左頬に当たる部分には、紫色の楓模様が刻印されている。
仮面を被っているのだと気付き、秋也は小さく頭を下げた。
「……」
何も返さない女に、秋也は戸惑いつつも、もう一度声をかける。
「あの……?」
「あなた」
と、女は唐突に口を開いた。
「名前は?」
「え?」
「名前。あなたの名前、教えてちょうだいな」
「はあ……? 秋也です。黄秋也」
「やっぱり、そう」
女は唯一、仮面に隠されていない口元を歪ませ、にやっとした笑いを見せる。
「えっと? オレのコト、ご存じなんですか?」
「ええ」
次の瞬間――女は秋也を突き飛ばした。
「おわっ!?」
油断していたため、秋也は大きくよろめくが、とっさに力を籠めて、何とか踏みとどまる。
「な、何すんだ!?」
「あなた」
女は依然、ニヤニヤと笑ったまま、腰に佩いていた直剣を抜く。
「今ので一回、死んだわよ?」
「ふざけんなッ!」
秋也も刀を抜き、女に対峙する。
「いきなり何なんだ、アンタ!?」
「黄秋也。あなた本人には何の興味も無いけど、お願いされたから」
女は話す声以外には何の音も発さず、秋也との距離を詰めてきた。
「ちょっと勝負、させてもらうわよ」
「……ッ!」
秋也は間合いに入られた瞬間、ようやく女の殺気に気付かされる。
(なんだ……コレ!?)
現実と、自分の感覚とが乖離する奇妙な状況に、秋也は戦慄する。
(目の前にいるはずのコイツの剣気が、全然捉えられない!?)
「はッ」
寸前で太刀筋を受け止めるが、秋也より頭半分ほど低いその女の攻撃を受け止め切れず、秋也は弾き飛ばされる。
「……!?」
衝撃を受け、地面を転がされても、秋也には何が起こっているのか、半ば理解できないでいる。
「どうなってんだ……!?」
「どうも、こうも。私はただ単にあなたに歩み寄って、ただ単に、剣を振るっただけ。
たったそれだけで、あなたはこうも他愛なく、簡単に、弾かれた。……やっぱりあなたは、大したことのない子ね」
女の放ったその言葉に反論したのは、意外にもウォンだった。
「そんなことあるかッ! そいつはこの僕を負かした男だ! お前が何か、術を……!」
「ほざいているわね、戯言を」
女はくる、とウォンに向き直る。
「術? 技? トリック?
……あははは、馬鹿にしないでくれるかしら、ボクちゃん? そんなチャチな小細工、私が使うわけないじゃない。
この克渾沌、安くは無いわよ」
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仮面の女剣士。
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ゴールドコーストを後にした秋也たち三人は、ミッドランドへ向かうべく、街道を進んでいた。
「ミッドランドまでは、あとどのくらいなんだ?」
そう尋ねたウォンに、秋也は地図を広げながら答える。
「えーと……、今いるのが、ココだろ。リトルマインから北にちょっと、行ったところ」
「この先街道が分かれているが、これは西に進むんだな?」
「ああ。で、その突き当たりにフォルピア湖がある。ココから船に乗れば、あっと言う間にミッドランドだ」
「地図で見る限りは、ゴールドコースト―リトルマイン間より、若干長いくらいか。1日か、2日と言うところだな」
「ああ。ソコで、この旅もおしまいだな」
その言葉に、ウォンはふう、とため息をつく。
「そこでようやく、あのワガママ娘のお守りも、お役御免となるわけだな」
「ふん、だ」
聞いていた昂子が、いたずらっぽく鼻を鳴らす。
「どうせならあんたも、シュギョーしてったらいいんじゃないの?」
「お前と一緒にか? お断りだ」
「なーまけーものー」
「お前のことだろう」
そんな風にじゃれ合っている二人を見て、秋也は苦笑していた。
と――。
「ちょっと、いいかしら」
背後から突然、声をかけられ、秋也は驚く。
(えっ……? 今、誰もいなかったよな……?)
そして振り向いたところで、二度驚かされた。
「うわ、……っ?」
後ろに立っていた女に、顔が無いように見えたからだ。
「……あ、すみません」
しかしよく見てみると、そのつるんとした真っ白な顔には何点か穴が開いており、左頬に当たる部分には、紫色の楓模様が刻印されている。
仮面を被っているのだと気付き、秋也は小さく頭を下げた。
「……」
何も返さない女に、秋也は戸惑いつつも、もう一度声をかける。
「あの……?」
「あなた」
と、女は唐突に口を開いた。
「名前は?」
「え?」
「名前。あなたの名前、教えてちょうだいな」
「はあ……? 秋也です。黄秋也」
「やっぱり、そう」
女は唯一、仮面に隠されていない口元を歪ませ、にやっとした笑いを見せる。
「えっと? オレのコト、ご存じなんですか?」
「ええ」
次の瞬間――女は秋也を突き飛ばした。
「おわっ!?」
油断していたため、秋也は大きくよろめくが、とっさに力を籠めて、何とか踏みとどまる。
「な、何すんだ!?」
「あなた」
女は依然、ニヤニヤと笑ったまま、腰に佩いていた直剣を抜く。
「今ので一回、死んだわよ?」
「ふざけんなッ!」
秋也も刀を抜き、女に対峙する。
「いきなり何なんだ、アンタ!?」
「黄秋也。あなた本人には何の興味も無いけど、お願いされたから」
女は話す声以外には何の音も発さず、秋也との距離を詰めてきた。
「ちょっと勝負、させてもらうわよ」
「……ッ!」
秋也は間合いに入られた瞬間、ようやく女の殺気に気付かされる。
(なんだ……コレ!?)
現実と、自分の感覚とが乖離する奇妙な状況に、秋也は戦慄する。
(目の前にいるはずのコイツの剣気が、全然捉えられない!?)
「はッ」
寸前で太刀筋を受け止めるが、秋也より頭半分ほど低いその女の攻撃を受け止め切れず、秋也は弾き飛ばされる。
「……!?」
衝撃を受け、地面を転がされても、秋也には何が起こっているのか、半ば理解できないでいる。
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たったそれだけで、あなたはこうも他愛なく、簡単に、弾かれた。……やっぱりあなたは、大したことのない子ね」
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渾沌「安く見ないでっていったじゃない。200kくらいじゃ買えないわよ、私は」
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