「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・遭克抄 2
麒麟を巡る話、第27話。
一方的な蹂躙。
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2.
「克……!?」
その号を聞き、ウォンの狼耳がビク、と反応する。
「戯言を言っているのはお前だッ! そんな奴は、僕は知らない!
畏れ多きその御名を騙る不埒者め、僕が成敗してやる!」
そう叫び、三節棍を構えたウォンに、渾沌と名乗った女はケラケラと笑って見せた。
「そんな反応をすると言うことはあなた、黒炎教団の奴らね? ……私に言わせれば、カミサマの影にビクつく臆病犬の集まりよ!
いらっしゃいな、子犬ちゃん! 遊んであげるわ!」
「立て続けの侮辱……! 許さないぞ!」
ウォンは三節棍を振り上げ、渾沌との距離を詰めようとする。
だが――。
「……!? いない!?」「こっちよ」
いつの間にか、渾沌はウォンの後ろを取っていた。
「な……!」
「あなたに用は無いの」
渾沌はウォンの襟をつかみ、そのまま下に引く。
「おすわり」
次の瞬間、ウォンの頭が深々と、地面にめり込む。
「が……ッ!?」
その一撃で、ウォンは呆気なく気絶した。
「さてと」
渾沌は倒れ伏したウォンを一瞥することもなく、秋也に向き直った。
「かかってらっしゃい、秋也。私もさほど、暇じゃないの。さっさと終わらせたいのよ」
「てめえ……!」
秋也は怒りに任せ、刀に火を灯す。
「終わらせるってんなら、終わらせてやる! お前をブッ飛ばしてな! 『火閃』ッ!」
秋也は刀に灯った火を一層燃え上がらせ、放出する。
火は轟々と音を立てて膨れ上がり、渾沌を巻き込んだ。
「どうだッ!」
勝利を確信し、秋也は空いていた左手でぐっと、握り拳を作る。
だが――その握り拳にいつの間にか、女の手が添えられていた。
「……!?」
「やっぱりあなたは、大したことが無いわ」
何事も無かったかのように、渾沌が秋也のすぐ側にいる。
「最初の最初に、あれだけ実力差を見せ付けてあげたのに。これだけ強い相手なのだから、気を付けてかかってねって、そう教えてあげたつもりなのに。
それでもあなたは慢心する。それでもあなたは油断する。どうして慢心できるの? どうして油断しちゃったの?
やっぱりあなたは――駄目ね」
ぶち、と音が鳴る。
「あ、うっ……」
秋也はその光景も、嘘だと思った。
秋也の意識が、急激に遠のく。
最後に目にしたのは、渾沌が自分の左腕を、ぷらぷらと振っている姿だった。
「もう一度チャンスをあげる。でも、それもフイにしたら、この左腕は焼いてしまうわよ」
そう言い残し、渾沌の姿が目の前から消えたところで、秋也の意識も途切れた。
昂子は秋也が弾き飛ばされ、ウォンが地面にめり込んだところで、耐え切れなくなって逃げ出していた。
「ひっ、ひっ……」
こらえきれず、木陰にうずくまって泣いていたところで、女の声がかけられる。
「あら、ここにいたのね」
昂子が顔を上げると、そこには渾沌の姿があった。
昂子は渾沌と、渾沌が抱える、魔法陣がびっしりと描かれた包帯で、ぐるぐる巻きにされた秋也の左腕を見て、短い悲鳴を上げた。
「ひ、いっ」
「そんなに怯えないでいいじゃない。私、あなたには全然、危害を加えるつもりは無いわよ」
渾沌はしゃがみ込み、昂子の左頬に手を当てる。
「い……、いや……」
「私はね、女の子には手を上げないって決めてるの。……出したくなっちゃうことは、たまにあるけど」
そう言うなり、渾沌は昂子の右頬に顔を寄せ、ぺろりと舐めてきた。
「ひあ、っ!? や、やめてっ!」
「……うふふふ、可愛いわね。
と、あんまりいじめても可哀そうだから、真面目なお話してあげるわね」
渾沌は軽く咳払いし、こう告げた。
「秋也は私との勝負に負けて、腕を取られたわ。でも、取ったままじゃ何かと不自由だろうから、代わりに可愛い腕を付けてあげたの。
それでもきっと、不便だろうから、腕を取り戻すチャンスをあげることにしたの。……ちゃんと聞いてね?」
「は、はいっ、きっ、きいてます」
「うふふ。……あなたに、私を呼べる『頭巾』を渡すわ」
渾沌は袖口から布を取り出し、昂子の手に乗せる。
「もう一度、私と戦いたいと決心できたら、これを使いなさい。
その勝負に勝ったら、秋也の腕は元通りにしてあげる。後、大サービスだけど、あなたたち全員が相手でも、受けて立ってあげる。
でも、もしそれでも負けてしまったら」
渾沌はニヤ、と口元を歪ませ――昂子の口にぬる、と舌を入れてきた。
「むぐっ、うっ、う……!?」
「今度はあなたをもらっちゃうわよ。あなた、見た目は割と、私の好みだから」
「は、っ……、はっ」
恐怖と嫌悪感で、昂子の呼吸が乱れる。
渾沌はぺろ、と自分の口をなめ、にやあっと笑って見せた。
「じゃ、ね。……楽しみにしてるわよ、橘昂子ちゃん」
「ひっ……、ひぃ……」
怯える昂子をそのままにして、渾沌はその場から姿を消した。
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「克……!?」
その号を聞き、ウォンの狼耳がビク、と反応する。
「戯言を言っているのはお前だッ! そんな奴は、僕は知らない!
畏れ多きその御名を騙る不埒者め、僕が成敗してやる!」
そう叫び、三節棍を構えたウォンに、渾沌と名乗った女はケラケラと笑って見せた。
「そんな反応をすると言うことはあなた、黒炎教団の奴らね? ……私に言わせれば、カミサマの影にビクつく臆病犬の集まりよ!
いらっしゃいな、子犬ちゃん! 遊んであげるわ!」
「立て続けの侮辱……! 許さないぞ!」
ウォンは三節棍を振り上げ、渾沌との距離を詰めようとする。
だが――。
「……!? いない!?」「こっちよ」
いつの間にか、渾沌はウォンの後ろを取っていた。
「な……!」
「あなたに用は無いの」
渾沌はウォンの襟をつかみ、そのまま下に引く。
「おすわり」
次の瞬間、ウォンの頭が深々と、地面にめり込む。
「が……ッ!?」
その一撃で、ウォンは呆気なく気絶した。
「さてと」
渾沌は倒れ伏したウォンを一瞥することもなく、秋也に向き直った。
「かかってらっしゃい、秋也。私もさほど、暇じゃないの。さっさと終わらせたいのよ」
「てめえ……!」
秋也は怒りに任せ、刀に火を灯す。
「終わらせるってんなら、終わらせてやる! お前をブッ飛ばしてな! 『火閃』ッ!」
秋也は刀に灯った火を一層燃え上がらせ、放出する。
火は轟々と音を立てて膨れ上がり、渾沌を巻き込んだ。
「どうだッ!」
勝利を確信し、秋也は空いていた左手でぐっと、握り拳を作る。
だが――その握り拳にいつの間にか、女の手が添えられていた。
「……!?」
「やっぱりあなたは、大したことが無いわ」
何事も無かったかのように、渾沌が秋也のすぐ側にいる。
「最初の最初に、あれだけ実力差を見せ付けてあげたのに。これだけ強い相手なのだから、気を付けてかかってねって、そう教えてあげたつもりなのに。
それでもあなたは慢心する。それでもあなたは油断する。どうして慢心できるの? どうして油断しちゃったの?
やっぱりあなたは――駄目ね」
ぶち、と音が鳴る。
「あ、うっ……」
秋也はその光景も、嘘だと思った。
秋也の意識が、急激に遠のく。
最後に目にしたのは、渾沌が自分の左腕を、ぷらぷらと振っている姿だった。
「もう一度チャンスをあげる。でも、それもフイにしたら、この左腕は焼いてしまうわよ」
そう言い残し、渾沌の姿が目の前から消えたところで、秋也の意識も途切れた。
昂子は秋也が弾き飛ばされ、ウォンが地面にめり込んだところで、耐え切れなくなって逃げ出していた。
「ひっ、ひっ……」
こらえきれず、木陰にうずくまって泣いていたところで、女の声がかけられる。
「あら、ここにいたのね」
昂子が顔を上げると、そこには渾沌の姿があった。
昂子は渾沌と、渾沌が抱える、魔法陣がびっしりと描かれた包帯で、ぐるぐる巻きにされた秋也の左腕を見て、短い悲鳴を上げた。
「ひ、いっ」
「そんなに怯えないでいいじゃない。私、あなたには全然、危害を加えるつもりは無いわよ」
渾沌はしゃがみ込み、昂子の左頬に手を当てる。
「い……、いや……」
「私はね、女の子には手を上げないって決めてるの。……出したくなっちゃうことは、たまにあるけど」
そう言うなり、渾沌は昂子の右頬に顔を寄せ、ぺろりと舐めてきた。
「ひあ、っ!? や、やめてっ!」
「……うふふふ、可愛いわね。
と、あんまりいじめても可哀そうだから、真面目なお話してあげるわね」
渾沌は軽く咳払いし、こう告げた。
「秋也は私との勝負に負けて、腕を取られたわ。でも、取ったままじゃ何かと不自由だろうから、代わりに可愛い腕を付けてあげたの。
それでもきっと、不便だろうから、腕を取り戻すチャンスをあげることにしたの。……ちゃんと聞いてね?」
「は、はいっ、きっ、きいてます」
「うふふ。……あなたに、私を呼べる『頭巾』を渡すわ」
渾沌は袖口から布を取り出し、昂子の手に乗せる。
「もう一度、私と戦いたいと決心できたら、これを使いなさい。
その勝負に勝ったら、秋也の腕は元通りにしてあげる。後、大サービスだけど、あなたたち全員が相手でも、受けて立ってあげる。
でも、もしそれでも負けてしまったら」
渾沌はニヤ、と口元を歪ませ――昂子の口にぬる、と舌を入れてきた。
「むぐっ、うっ、う……!?」
「今度はあなたをもらっちゃうわよ。あなた、見た目は割と、私の好みだから」
「は、っ……、はっ」
恐怖と嫌悪感で、昂子の呼吸が乱れる。
渾沌はぺろ、と自分の口をなめ、にやあっと笑って見せた。
「じゃ、ね。……楽しみにしてるわよ、橘昂子ちゃん」
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怯える昂子をそのままにして、渾沌はその場から姿を消した。
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- from まとめwoネタ速neo
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