「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・遭克抄 4
麒麟を巡る話、第29話。
昂子と秋也の、ひみつ作り。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
到着から半日が過ぎた辺りで、ようやく昂子とウォンは目を覚ました。
「……」
しかし、昂子の顔色は依然、悪いままである。
「昂子」
秋也が声をかけてみるが、昂子はのろのろと顔を向けるだけで、一言も発さない。
「大丈夫、……じゃ、ないよな」
「……うん」
昂子は半ばうなるような声で、それだけ返す。
「あの、渾沌って女に、何かされたのか?」
「……言いたくない」
「まさか、その、変なコトとか、されて」「やめて!」
昂子の反応に、秋也は自分の頭に氷を詰められたような気分になる。
「まさか、……でも、女同士で、……その」
秋也の言わんとすることを察し、昂子は短く首を横に振る。
「ソコまでじゃないよ。……気持ち悪いキスされた。口の中に、無理矢理舌入れられた」
「……思ったよりはひどくは無いけど、……ソレでもひどいな」
「……ホント、気持ち悪かった」
昂子は蒼い顔をしたまま、堅い笑顔を作る。
「ホント、あいつおかしいよね。ホントに、気味が悪い。
……ねえ、秋也」
「なんだ?」
「……あんたのコトは特に良くも悪くも何とも思ってないし、お兄ちゃんって感じだから、……こんなの頼むのはおかしいかもなんだけどさ」
「ん?」
「口の中がまだ、気持ち悪いままなの。……よく考えたら初キス奪われたんだし」
「……え、っと?」
「でも忘れたいの。だからコレを、初にしたい」
そう言うなり昂子は秋也に飛びつき、口付けした。
「んむ、……お、ちょ、えっ」
「……えへへ。……もー一回言うけど、あんたはあたしの中では、『お兄ちゃん』なんだからね。今のは、違うんだからね。そーゆーのじゃないんだからね」
昂子はベッドから離れ、くる、と秋也に顔を向けた。
「……忘れたいけど、忘れないでね。
あたしの初キスは、あんたにあげたの」
そのままぷい、と顔を背け、昂子は寝室から出て行った。
「……お、おう」
誰もいなくなった部屋で、秋也は一人、返事をしておいた。
一方、一足先に目を覚ましていたウォンは、天狐に深々と頭を下げていた。
「な、なんだよ」
どぎまぎしている天狐に対し、ウォンは恭しく言葉を連ねる。
「畏れ多くも黒炎様の御門下に拝しまして、恐悦至極に存じます。甚だ不義、不躾な身ではございますが……」「やめれやめれ、やーめーれーっ!」
天狐は狐耳と尻尾を毛羽立たせながら、最敬礼で平伏していたウォンの後頭部に手刀を下ろす。
「あいたっ」
「オレはそーゆー堅っ苦しいのは大嫌いなんだ! もっと気さくに話してくれ!」
「す、すみません。考えが至らず、誠に失礼を……」「だーかーらぁ」
謝るウォンに、天狐は再度手刀を叩き付ける。
「そんなもん、『ごめん』の一つでいいだろっつってんだってばよぉ。頼むからふつーにしゃべってくれってば」
「あ、は、はい」
「……にしても」
天狐はウォンの姿を一瞥し、気の毒そうな声を漏らす。
「何かお前、特にぼろっぼろじゃねーか? どんだけボコられたんだよ、あの女に」
「あ、いえ。顔の傷はコントンによるものですが、頭と耳と尻尾に関しては、先程も申した通り、自分の不義によるものでして」
「不義?」
ウォンはそこで、自分が屏風山脈で起こした騒動と、その顛末を話した。
「ふーん……。丸刈りされた上に破門されたのか。自業自得とはいえ、散々だな」
「……あの、……もし、ご厚情を賜れればと」「普通語でしゃべれ」「……いえ、お願いを聞いていただけたらな、と」
「何だよ?」
「僕へ下された破門処分を、テンコさ……、ちゃん、のお力で、無かったことにできないか、と」
その願いを聞いた天狐は、「チッ」と舌打ちした。
「いるんだよな、オレのコトを黒炎教団の出張所だと思ってるヤツ」
「え?」
「オレは克大火の弟子であって、教団とは関係ねーの。言ってみりゃ、その教団ってのと同列であって、オレの下にいるヤツらじゃねーんだってば」
「……そ、そうですか」
しゅんとなるウォンの額に、天狐はとん、と、今度は優しめに手刀をぶつけた。
「だからよ、気楽に話してくれていいんだって。オレなんかにガチガチの敬語、丁寧語はいらねーよ」
「……はい」
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昂子と秋也の、ひみつ作り。
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到着から半日が過ぎた辺りで、ようやく昂子とウォンは目を覚ました。
「……」
しかし、昂子の顔色は依然、悪いままである。
「昂子」
秋也が声をかけてみるが、昂子はのろのろと顔を向けるだけで、一言も発さない。
「大丈夫、……じゃ、ないよな」
「……うん」
昂子は半ばうなるような声で、それだけ返す。
「あの、渾沌って女に、何かされたのか?」
「……言いたくない」
「まさか、その、変なコトとか、されて」「やめて!」
昂子の反応に、秋也は自分の頭に氷を詰められたような気分になる。
「まさか、……でも、女同士で、……その」
秋也の言わんとすることを察し、昂子は短く首を横に振る。
「ソコまでじゃないよ。……気持ち悪いキスされた。口の中に、無理矢理舌入れられた」
「……思ったよりはひどくは無いけど、……ソレでもひどいな」
「……ホント、気持ち悪かった」
昂子は蒼い顔をしたまま、堅い笑顔を作る。
「ホント、あいつおかしいよね。ホントに、気味が悪い。
……ねえ、秋也」
「なんだ?」
「……あんたのコトは特に良くも悪くも何とも思ってないし、お兄ちゃんって感じだから、……こんなの頼むのはおかしいかもなんだけどさ」
「ん?」
「口の中がまだ、気持ち悪いままなの。……よく考えたら初キス奪われたんだし」
「……え、っと?」
「でも忘れたいの。だからコレを、初にしたい」
そう言うなり昂子は秋也に飛びつき、口付けした。
「んむ、……お、ちょ、えっ」
「……えへへ。……もー一回言うけど、あんたはあたしの中では、『お兄ちゃん』なんだからね。今のは、違うんだからね。そーゆーのじゃないんだからね」
昂子はベッドから離れ、くる、と秋也に顔を向けた。
「……忘れたいけど、忘れないでね。
あたしの初キスは、あんたにあげたの」
そのままぷい、と顔を背け、昂子は寝室から出て行った。
「……お、おう」
誰もいなくなった部屋で、秋也は一人、返事をしておいた。
一方、一足先に目を覚ましていたウォンは、天狐に深々と頭を下げていた。
「な、なんだよ」
どぎまぎしている天狐に対し、ウォンは恭しく言葉を連ねる。
「畏れ多くも黒炎様の御門下に拝しまして、恐悦至極に存じます。甚だ不義、不躾な身ではございますが……」「やめれやめれ、やーめーれーっ!」
天狐は狐耳と尻尾を毛羽立たせながら、最敬礼で平伏していたウォンの後頭部に手刀を下ろす。
「あいたっ」
「オレはそーゆー堅っ苦しいのは大嫌いなんだ! もっと気さくに話してくれ!」
「す、すみません。考えが至らず、誠に失礼を……」「だーかーらぁ」
謝るウォンに、天狐は再度手刀を叩き付ける。
「そんなもん、『ごめん』の一つでいいだろっつってんだってばよぉ。頼むからふつーにしゃべってくれってば」
「あ、は、はい」
「……にしても」
天狐はウォンの姿を一瞥し、気の毒そうな声を漏らす。
「何かお前、特にぼろっぼろじゃねーか? どんだけボコられたんだよ、あの女に」
「あ、いえ。顔の傷はコントンによるものですが、頭と耳と尻尾に関しては、先程も申した通り、自分の不義によるものでして」
「不義?」
ウォンはそこで、自分が屏風山脈で起こした騒動と、その顛末を話した。
「ふーん……。丸刈りされた上に破門されたのか。自業自得とはいえ、散々だな」
「……あの、……もし、ご厚情を賜れればと」「普通語でしゃべれ」「……いえ、お願いを聞いていただけたらな、と」
「何だよ?」
「僕へ下された破門処分を、テンコさ……、ちゃん、のお力で、無かったことにできないか、と」
その願いを聞いた天狐は、「チッ」と舌打ちした。
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