「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・習狐抄 2
麒麟を巡る話、第32話。
克天狐の教育的指導。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
修行開始、2日目の翌朝。
ほとんど夕食抜きにされた秋也たち三人は、朝食をガツガツと、貪るように取っていた。
「せめてもの情けだ。朝と昼はメニュー全品、ちゃんと出してやる」
天狐はパンをかじりながら、秋也たちに訓告する。
「でも、レポートの内容がとんでもなくバカだったり、テストの点がどうしようもないアホさ加減だったりしたら、夕メシのグレードをどんどん下げるからな。
反対に、ちゃんとしたレポート書いて、テストの点もちゃんと取れたら、夕メシは普通に出す。
いいな? ちゃんと結果を、形として出せよ?」
「はい」
「頑張りまーす」
三人の反応に、給仕していた鈴林がにこっと微笑む。
「今日はお夕飯、全部食べられるといいねっ」
その一言に、三人の食事の手が揃って止まった。
「……はい」
「……頑張る」
最初の頃は三名とも、満足に夕飯を食べることができなかったが、まずはウォンがいち早く軌道に乗った。
元々真面目な性格であり、また、教団において武芸だけではなく教養も嗜んでいたためか、天狐が及第点を出せる程度のレポートを、3、4日目辺りで出せるようになった。
続いて及第の水準を満たしたのは、昂子だった。元々怠け者で、言われたことしか――それも、渋々としか――やろうとしない性格ではあったが、それでも鈴林が、学び方の基礎から根気強く教えていくうち、どうにか能動的にノートを取るようになり、テストの点も順調に上がっていった。
「しっかし秋也さぁ、お前の字、すげー下手クソだなぁ」
「苦手なんだって……」
「ま、内容自体は悪くない。コレなら全品出してやれるな」
そして半月が経った頃、ようやく秋也も、天狐から及第点をもらうことができた。
「え、マジで?」
「おう。明日もこの調子で行ってくれよ」
その評価に、秋也は喜びかける。
が、秋也はここで、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「あのさ、天狐ちゃん」
「ん?」
「なんでレポートなんて書かせるんだ? オレは剣士だし、机仕事やるつもりじゃ……」
「あのなぁ」
秋也の疑問に、天狐は呆れ顔で答える。
「剣士、侍だって言うなら、自分の生き道振り返る、『自省』『内省』ってコトも必要だろ?」
「うーん、まあ」
「闇雲に剣や刀をブンブン振ったって、付くのは無駄な筋肉だけだぜ? 『自分は何のために刀を握るのか』って常に考えながらやるから、修行になるんじゃねーか。考えるってコトは、意外に大事なんだぜ。
例えばだ、あのいけ好かない渾沌と戦った時、お前らはあいつとマトモに戦えてたと思うか?」
「いや、全然敵わなかった。足元にも及ばなかったよ」
「何でだ?」
「ソレは、まあ、オレたちが弱いから……」
「違うな」
天狐はビシ、と人差し指を秋也の鼻の先に突きつける。
「相手が何やってたのか、お前らちょっとも、考えなかったんだろ?
どーせ『オレたちには訳の分からないような奇術、トリックで惑わしてたんだ』っつって、その時点で思考停止してたろ」
「思考停止?」
「訳の分かんねーコトを分かんねーままにして、どう突き詰めていけば自分たちにも分かるよーになるか、自分たちに有利な状況に変えられるかって、ちっとも考えてないってコトだよ。
あいつは変な術を使う、じゃあ勝てない。……こんな風に、お前らの思考は短絡的で、一直線なんだよ。もっと考える幅を広げなきゃ、今後一生、お前らの負け星が増えるだけだぜ?
もっと考えろよ――例えば、変な術って何なんだ、とか。使わせないようにするにはどうしたらいいか、とか。使われても負けないようにするには、とか。
一つの問いに答えは一つ、考えなくてもどこかに答えが載ってます、誰かが教えてくれます、みたいないかにも小学生向けの算数ドリルみてーな考え方じゃ、お前ら何べん渾沌と戦っても、絶対勝てないぜ」
「だから、考えるためにレポートを書けってコトか?」
「そーゆーコト。オレは全面的かつ、全方向的に、お前らを鍛えるつもりだからな」
天狐はひょい、と机から立ち上がり、秋也に手招きした。
「腹減った。メシ食おう」
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克天狐の教育的指導。
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修行開始、2日目の翌朝。
ほとんど夕食抜きにされた秋也たち三人は、朝食をガツガツと、貪るように取っていた。
「せめてもの情けだ。朝と昼はメニュー全品、ちゃんと出してやる」
天狐はパンをかじりながら、秋也たちに訓告する。
「でも、レポートの内容がとんでもなくバカだったり、テストの点がどうしようもないアホさ加減だったりしたら、夕メシのグレードをどんどん下げるからな。
反対に、ちゃんとしたレポート書いて、テストの点もちゃんと取れたら、夕メシは普通に出す。
いいな? ちゃんと結果を、形として出せよ?」
「はい」
「頑張りまーす」
三人の反応に、給仕していた鈴林がにこっと微笑む。
「今日はお夕飯、全部食べられるといいねっ」
その一言に、三人の食事の手が揃って止まった。
「……はい」
「……頑張る」
最初の頃は三名とも、満足に夕飯を食べることができなかったが、まずはウォンがいち早く軌道に乗った。
元々真面目な性格であり、また、教団において武芸だけではなく教養も嗜んでいたためか、天狐が及第点を出せる程度のレポートを、3、4日目辺りで出せるようになった。
続いて及第の水準を満たしたのは、昂子だった。元々怠け者で、言われたことしか――それも、渋々としか――やろうとしない性格ではあったが、それでも鈴林が、学び方の基礎から根気強く教えていくうち、どうにか能動的にノートを取るようになり、テストの点も順調に上がっていった。
「しっかし秋也さぁ、お前の字、すげー下手クソだなぁ」
「苦手なんだって……」
「ま、内容自体は悪くない。コレなら全品出してやれるな」
そして半月が経った頃、ようやく秋也も、天狐から及第点をもらうことができた。
「え、マジで?」
「おう。明日もこの調子で行ってくれよ」
その評価に、秋也は喜びかける。
が、秋也はここで、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「あのさ、天狐ちゃん」
「ん?」
「なんでレポートなんて書かせるんだ? オレは剣士だし、机仕事やるつもりじゃ……」
「あのなぁ」
秋也の疑問に、天狐は呆れ顔で答える。
「剣士、侍だって言うなら、自分の生き道振り返る、『自省』『内省』ってコトも必要だろ?」
「うーん、まあ」
「闇雲に剣や刀をブンブン振ったって、付くのは無駄な筋肉だけだぜ? 『自分は何のために刀を握るのか』って常に考えながらやるから、修行になるんじゃねーか。考えるってコトは、意外に大事なんだぜ。
例えばだ、あのいけ好かない渾沌と戦った時、お前らはあいつとマトモに戦えてたと思うか?」
「いや、全然敵わなかった。足元にも及ばなかったよ」
「何でだ?」
「ソレは、まあ、オレたちが弱いから……」
「違うな」
天狐はビシ、と人差し指を秋也の鼻の先に突きつける。
「相手が何やってたのか、お前らちょっとも、考えなかったんだろ?
どーせ『オレたちには訳の分からないような奇術、トリックで惑わしてたんだ』っつって、その時点で思考停止してたろ」
「思考停止?」
「訳の分かんねーコトを分かんねーままにして、どう突き詰めていけば自分たちにも分かるよーになるか、自分たちに有利な状況に変えられるかって、ちっとも考えてないってコトだよ。
あいつは変な術を使う、じゃあ勝てない。……こんな風に、お前らの思考は短絡的で、一直線なんだよ。もっと考える幅を広げなきゃ、今後一生、お前らの負け星が増えるだけだぜ?
もっと考えろよ――例えば、変な術って何なんだ、とか。使わせないようにするにはどうしたらいいか、とか。使われても負けないようにするには、とか。
一つの問いに答えは一つ、考えなくてもどこかに答えが載ってます、誰かが教えてくれます、みたいないかにも小学生向けの算数ドリルみてーな考え方じゃ、お前ら何べん渾沌と戦っても、絶対勝てないぜ」
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- from まとめwoネタ速neo
- at 2012.06.09 15:25
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無かったことにしてやり直すこともできませんが。