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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第1部

    白猫夢・習狐抄 3

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    麒麟を巡る話、第33話。
    ゼミの成果。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     修行開始から一ヶ月が経ち、秋也たちの実力も、着実に付いていた。
    「りゃっ!」
     秋也が天狐に向け、木刀を薙ぐ。それを紙一重で避けた天狐は秋也の左側に回り、手刀を繰り出す。
    「オラあっ!」「だあッ!」
     秋也はぱっと左腕を離し、手刀をつかむ。ぬいぐるみになっていた腕はぽす、と天狐の手刀を受け止め、その威力を削ぐ。
    「それッ!」
     天狐の体勢が崩れたところで、秋也は天狐に足払いをかけた。
    「お、っとと」
     天狐は前のめりに倒れ――かけたが、秋也の左腕を逆につかみ返し、そのまま引っ張る。
    「あっ、……いででででっ!?」
     秋也の方が、地面に倒れこむ。天狐は秋也の肩甲骨に足を乗せ、秋也の腕を極めていた。
    「50点ってところだな。
     この腕を積極的に使ってみるって考え方は悪くないが、人間の腕じゃねーからな。『つかむ』ってコトを想定してない飾り物の構造だから、ちょっとひねれば簡単に、握った手がほどけちまう。
     別の使い方を考えた方がいいな」
     天狐は評価を述べ、秋也の手を離す。
    「ま、参りました」
     天狐に小さく礼をし、秋也はその場から下がる。
    「次、ウォン! ……ん?」
     ウォンを呼ぶが、姿が見えない。
    「……ソコだッ!」
     天狐はぐるんと半回転し、回し蹴りを背後に放つ。
    「おわっ!?」
     いつの間にか天狐の背後に迫っていたウォンが蹴られ、尻餅を着く。
    「秋也に構ってる間に気配を消し、忍び寄るってのはなかなかいい。だが、あからさまだな。前にいなきゃ、後ろか上だからな。もう一ひねりあった方がいい」
    「ありがとうございます」
     ウォンが立ち上がったところで、天狐はひょい、と手を挙げた。
    「今日はココまでだな。レポートはいつも通り、夕メシ前に提出な」
    「はいっ」

     一方、こちらは昂子と鈴林。
    「じゃ、そろそろテストっ。
     第一問、魔術の封印術『フォースオフ』が、どの魔術タイプにも等しく効果を発する理由は?」
    「えーと、呪文の構文により魔力が蓄積される過程で、その蓄積する部分で構文をショートさせて、溜まらないようにしてるから」
    「正解っ。じゃあ第二問、その『フォースオフ』を使用する際の注意点は?」
    「ショートにより高圧の魔力が放射されるため、自分に流れ込まないように、周囲に散らすアース的構文を必ず加えておくコト」
    「ソレと?」
    「えーと、最近、じゃないや、近年の傾向としては、術の効果継続時間を延ばすためと、使用者の負担を減らすための理由から、放射された魔力の一部を術に流れ込ませる、回生関数を組み込むのが一般化している、……で良かった?」
    「正解、正解っ! じゃあ第三問、封印術『シール』と『フォースオフ』の違いを3点」
    「1個目が、魔術タイプの違い。『シール』はゴールドマン型で、『フォースオフ』はタイムズ型。
     2個目が、『フォースオフ』は魔力を散らせるのに対し、『シール』は相手の使ってる構文に、不正な? だっけ、変な関数とか構文とかを混ぜ込んで、術式自体を成り立たなくする方法を採っているコト。
     3個目は、『フォースオフ』は対象の術式に絡まないため、自身の構文は単純なもので済む分、簡単に作れるけど、ダミーとして魔力源を複数用意するとかの対応策が採られやすい。反面、『シール』は対象の術式構文を乱すために、自身に大量の構文を必要とするから、複数名いないと発動が難しいけど、その分、術式を解析しての解除が難しいため、『フォースオフ』より、……えっと、堅固性? ……堅牢性? だっけ? を持つコトができる。
     ……だよね?」
    「うんうんっ、完璧、完璧! やったねっ、今日も満点だよっ!」
     嬉しそうに飛び跳ね、シャラシャラと音を立てて喜ぶ鈴林に、昂子も笑顔になる。
    「えへへ」
    「すごいねっ、5日連続満点なんて初めてじゃない?」
    「うん、確か初」
    「上出来、上出来。今日のお夕飯も、お楽しみにねっ」
     と、そこに天狐が戻ってくる。
    「たーだいまー、っと」
    「おかえり、姉さんっ」
     少し遅れて、秋也たちも帰ってきた。
    「戻りました」
    「おかえりー」

     そして、夕食の時間。
    「そろそろな、オレたち忙しくなるんだ」
     全品出されたメニューに三人が舌鼓を打っていたところで、天狐が話を切り出した。
    「って言うと?」
    「もう秋になるからな。下半期のゼミ生を募集するんだ。お前ら二人の修行に付き合えるのも、あと一ヶ月ってところだな。
     あ、ちなみに昂子については、次期はゼミ生と一緒に勉強して、その後は7、8期くらい、鈴林と同じように助手をしてもらうつもりをしてる。
     で、それが終わったら、晴れてお前は魔術師だ。一流のな」
    「頑張ってねっ」
    「う、うん。……えっと、じゃ、秋也とウォンは?」
    「元々、ココに長期滞在するのは考えてなかったからな。ソレを区切りにするよ」
     秋也は立ち上がり、こう宣言した。
    「オレは今度こそ、渾沌を倒してみせる。倒して、そして、もう一度、試験を受ける。ソレにもきっと、合格してみせる。
     今度こそオレは、……世界に認めさせてやる。オレは剣士なんだ、って」
     それを受けて、ウォンも立ち上がる。
    「僕は、今までに受けた恩義を、きっちり返したい。ゴールドコーストに戻って、もう一度雇ってもらえないか、頼み込んでみるよ」
    「ま、そういきり立つ前に、よ」
     天狐は手をぷらぷらと振り、二人に座るよう促した。
    「メシはちゃんと食え。な?」
    「あ、はい」
     天狐の反応が冷ややかだったので、二人は気恥ずかしくなり、俯きがちに席に着いた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    本人らの向学心と天狐ちゃんの采配のおかげですね。

    NoTitle 

    夕飯の力は偉大だなあv-373

    NoTitle 

    ええ、結局彼らはおバカです。
    多少ちょっとばかし、考えるようにはなっただけで。
    渾沌も嘲笑ってます、きっと。

     

    まだ根本的なところがわかっとらんなこいつら。

    秋也くんは克混沌に力で勝てばなんとかなると本気で思っているようだし、ウォンくんはウォンくんで、自分が態度さえ改めれば過去の歴史的ごたごたがすべてなかったことになると無責任に信じている。

    天狐さんも頭が痛いだろうなあ。なにせ黄晴奈さんがらみだから放り出してしまうわけにもいかず……。
    • #936 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.06/08 22:44 
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    麒麟を巡る話、第33話。ゼミの成果。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. 修行開始から一ヶ月が経ち、秋也たちの実力も、着実に付いていた。「りゃっ!」 秋也が天狐に向け、木刀を薙ぐ。それを紙一重で避けた天狐は秋也の左側に回り、手刀を繰り出す。「オラ?...
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