「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・習狐抄 5
麒麟を巡る話、第35話。
技術革新の兆しと、再戦開始。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
さらに日は進み、9月の中旬。
天狐はゼミ入講の受付を開始した。
「合否は3日後、ラーガ邸の中庭で掲示する。以上だ。次」
緊張した面持ちの若者が深々と天狐に頭を下げ、その場を後にする。
続いて入ってきたのは、先日天狐に挨拶したフェリーに似た、狐獣人の少年だった。
「ゴールドコーストから参りました、ノイン・トポリーノです。よろしくお願いします」
彼も天狐に深くお辞儀し、天狐の前に置かれた椅子にすとんと腰を下ろした。
「おう。トポリーノって言うと、フェルディナント・トポリーノの……」
「はい。父です」
彼も若干緊張した様子を見せてはいたが、はきはきと返答する姿勢を見せている。それを受けて、天狐はこう質問した。
「学歴……、だとかは後で聞くとして。
お前、通ると思ってんのか?」
「と言うと?」
「親父さんから聞いただろうが、オレは縁故で取る気はまったく無い。その他で、アピールできるモノがあんのか?」
「あります」
ノインは椅子の横に置いた鞄から、懐中時計を取り出した。
「僕が作りました」
「時計を?」
「はい」
「お前な、時計を作りたいってんなら、時計職人に弟子入りすればいいんじゃねーのか? オレのところに来るのはお門違い……」「ああ、いえ」
ノインは天狐の側に寄り、時計の裏側を見せた。
「現在、時計は一般的に、ねじ巻き式ですよね。でも一々、人の手で巻くのが面倒だなと思って。それで、こうやって……」
ノインが指し示した部分には、小さな魔法陣と、白い水晶が組み込まれていた。
「微弱な電気を断続的に流す魔法陣を使って、電磁石の作用でねじを常時巻くよう、改造してみたんです」
「へぇ?」
ノインから時計を受け取った天狐は、目を凝らして構造を眺める。
「……電子回路を作るヤツが、この時代にいるとはな」
「で、ん……?」
「あ、いや。……なるほど、面白い技術だな」
「ありがとうございます。ただ、僕はこの構造に満足してないんです。
大がかりなものを作るには、まあ、この魔法陣を大きくすればいいんでしょうけど、それだとスペースも大きく取らなきゃいけませんし、魔力源となる水晶も、巨大なものを用意しないといけなくなりますし。
そこで、このゼミで雷の術について学び、省スペース化、省魔力化できるような方法を探れればな、と」
「なるほど」
天狐はノインに時計を返し、こう告げた。
「他にも色々聞こうと思ったが、いらねーな。コレ一つで十分、お前の実力と意欲は分かった。
お前は合格だ。一応3日後、ラーガ邸の中庭に合否を掲示するけど、先に伝えとくわ」
「ありがとうございます」
3日後、合格者が発表された。
ノインを含めた今期の入塾者は、13名となった。
ゼミの開講に伴い、秋也たちの修行も終わりを告げた。
「ふう……」「はあ……」
始まった頃は秋也もウォンも、最後まで立っていられないと言う体たらくだったが、最終日のこの日は、両者とも余裕の表情を見せていた。
「今日は、レポートはいいな。最後だから、よ」
「いや」
と、秋也が答える。
「最後だから、できれば総括してほしいんだけど、ダメかな」
「なるほど。……分かった、じゃあ、早い目に出してくれ」
「ありがとう、天狐ちゃん」
「おうよ」
三人揃って天狐の屋敷に戻ってきたところで、昂子と鈴林が出迎えた。
「おかえり」
「ただいま。……昂子」
秋也は昂子に、話を切り出す。
「今夜、呼んでほしい」
「……渾沌ね?」
「ああ。今日で終わりだからな、修行」
「分かった。頭巾、持ってくるね」
昂子が屋敷の奥へ向かったところで、天狐が尋ねてくる。
「自習とかは、いいのか?」
その問いに、秋也は横に首を振る。
「いい区切りだと思うんだ。このままダラダラ続けたら、きっと踏ん切りが付かなくなるだろうし」
「そっか。……ま、頑張れ。もし勝ったら、盛大に祝ってやるよ」
「ああ、期待しててくれ」
話しているうちに、昂子が頭巾を持ってきた。
「じゃあ、……呼ぶね」
「ああ」
昂子が、頭巾を頭に巻く。それを、秋也とウォンはじっと見ていた。
「……『トランスワード:渾沌』」
一瞬の間を置き、昂子が反応する。
「……うん。……うん。……やる」
それから一呼吸置き――昂子は大声で叫んだ。
「それから――アンタは、絶対ブッ飛ばしてやる! その仮面、叩き割ってあげるわ! 覚悟してなさいよッ!」
昂子は頭巾を頭から引っぺがし、ブチブチと千切って、それから体を震わせながら、ため息をついた。
「……はあ、っ。……ついに、やるのね」
「ああ。……お前の仇も、一緒に取ってやるからな」
「仇?」
そう尋ねたウォンには答えず、昂子はこう返した。
「あたしが取るのよ、あたしの仇は。アンタは自分の腕を取り戻すコト、考えなさいよ」
「そうだな。……やってやろうぜ、昂子」
「ええ。ウォンも、よろしくね」
いきり立つ二人に、ウォンも応じた。
「ああ。僕を侮辱した罪、きっちり贖ってもらう」
三人は手を合わせ、同時に誓った。
「今度こそ、渾沌に勝つ」
白猫夢・習狐抄 終
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技術革新の兆しと、再戦開始。
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5.
さらに日は進み、9月の中旬。
天狐はゼミ入講の受付を開始した。
「合否は3日後、ラーガ邸の中庭で掲示する。以上だ。次」
緊張した面持ちの若者が深々と天狐に頭を下げ、その場を後にする。
続いて入ってきたのは、先日天狐に挨拶したフェリーに似た、狐獣人の少年だった。
「ゴールドコーストから参りました、ノイン・トポリーノです。よろしくお願いします」
彼も天狐に深くお辞儀し、天狐の前に置かれた椅子にすとんと腰を下ろした。
「おう。トポリーノって言うと、フェルディナント・トポリーノの……」
「はい。父です」
彼も若干緊張した様子を見せてはいたが、はきはきと返答する姿勢を見せている。それを受けて、天狐はこう質問した。
「学歴……、だとかは後で聞くとして。
お前、通ると思ってんのか?」
「と言うと?」
「親父さんから聞いただろうが、オレは縁故で取る気はまったく無い。その他で、アピールできるモノがあんのか?」
「あります」
ノインは椅子の横に置いた鞄から、懐中時計を取り出した。
「僕が作りました」
「時計を?」
「はい」
「お前な、時計を作りたいってんなら、時計職人に弟子入りすればいいんじゃねーのか? オレのところに来るのはお門違い……」「ああ、いえ」
ノインは天狐の側に寄り、時計の裏側を見せた。
「現在、時計は一般的に、ねじ巻き式ですよね。でも一々、人の手で巻くのが面倒だなと思って。それで、こうやって……」
ノインが指し示した部分には、小さな魔法陣と、白い水晶が組み込まれていた。
「微弱な電気を断続的に流す魔法陣を使って、電磁石の作用でねじを常時巻くよう、改造してみたんです」
「へぇ?」
ノインから時計を受け取った天狐は、目を凝らして構造を眺める。
「……電子回路を作るヤツが、この時代にいるとはな」
「で、ん……?」
「あ、いや。……なるほど、面白い技術だな」
「ありがとうございます。ただ、僕はこの構造に満足してないんです。
大がかりなものを作るには、まあ、この魔法陣を大きくすればいいんでしょうけど、それだとスペースも大きく取らなきゃいけませんし、魔力源となる水晶も、巨大なものを用意しないといけなくなりますし。
そこで、このゼミで雷の術について学び、省スペース化、省魔力化できるような方法を探れればな、と」
「なるほど」
天狐はノインに時計を返し、こう告げた。
「他にも色々聞こうと思ったが、いらねーな。コレ一つで十分、お前の実力と意欲は分かった。
お前は合格だ。一応3日後、ラーガ邸の中庭に合否を掲示するけど、先に伝えとくわ」
「ありがとうございます」
3日後、合格者が発表された。
ノインを含めた今期の入塾者は、13名となった。
ゼミの開講に伴い、秋也たちの修行も終わりを告げた。
「ふう……」「はあ……」
始まった頃は秋也もウォンも、最後まで立っていられないと言う体たらくだったが、最終日のこの日は、両者とも余裕の表情を見せていた。
「今日は、レポートはいいな。最後だから、よ」
「いや」
と、秋也が答える。
「最後だから、できれば総括してほしいんだけど、ダメかな」
「なるほど。……分かった、じゃあ、早い目に出してくれ」
「ありがとう、天狐ちゃん」
「おうよ」
三人揃って天狐の屋敷に戻ってきたところで、昂子と鈴林が出迎えた。
「おかえり」
「ただいま。……昂子」
秋也は昂子に、話を切り出す。
「今夜、呼んでほしい」
「……渾沌ね?」
「ああ。今日で終わりだからな、修行」
「分かった。頭巾、持ってくるね」
昂子が屋敷の奥へ向かったところで、天狐が尋ねてくる。
「自習とかは、いいのか?」
その問いに、秋也は横に首を振る。
「いい区切りだと思うんだ。このままダラダラ続けたら、きっと踏ん切りが付かなくなるだろうし」
「そっか。……ま、頑張れ。もし勝ったら、盛大に祝ってやるよ」
「ああ、期待しててくれ」
話しているうちに、昂子が頭巾を持ってきた。
「じゃあ、……呼ぶね」
「ああ」
昂子が、頭巾を頭に巻く。それを、秋也とウォンはじっと見ていた。
「……『トランスワード:渾沌』」
一瞬の間を置き、昂子が反応する。
「……うん。……うん。……やる」
それから一呼吸置き――昂子は大声で叫んだ。
「それから――アンタは、絶対ブッ飛ばしてやる! その仮面、叩き割ってあげるわ! 覚悟してなさいよッ!」
昂子は頭巾を頭から引っぺがし、ブチブチと千切って、それから体を震わせながら、ため息をついた。
「……はあ、っ。……ついに、やるのね」
「ああ。……お前の仇も、一緒に取ってやるからな」
「仇?」
そう尋ねたウォンには答えず、昂子はこう返した。
「あたしが取るのよ、あたしの仇は。アンタは自分の腕を取り戻すコト、考えなさいよ」
「そうだな。……やってやろうぜ、昂子」
「ええ。ウォンも、よろしくね」
いきり立つ二人に、ウォンも応じた。
「ああ。僕を侮辱した罪、きっちり贖ってもらう」
三人は手を合わせ、同時に誓った。
「今度こそ、渾沌に勝つ」
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2015.09.28 修正
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