「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 1
麒麟を巡る話、第36話。
アブない女。
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1.
通常、と言うよりも現在、通信魔術「トランスワード」は頭巾や壁面などに魔法陣を描く形でのデバイス(外部入出力装置)を用いて使用される。
半永久的に効果を持続できるデバイスなしに、魔術単体で使用するとなると、「いつ連絡が来るか分からないため、常時待機状態にしなければならない」と言う利用性質上の理由から、常に術を使用し続けなければならなくなる。
そうなると常人では、まず使用可能な状態を維持できない。四六時中、魔術が解除されないよう気を払い続けなければならないし、当然、魔力もその間、消費し続けなければならないからだ。
ゆえに――そんな芸当ができるような者となると、常人ではないと言う結論に至る。
その点から鑑みても彼女は「常人」、即ち「一般的な」人間ではなかった。
「……ん」
己の頭の中に、ぴり、とした感覚が走る。
それを受け、彼女はぽつりと呪文を唱えた。
「『トランスワード:リプライ』」
魔術を発動するとすぐに、少女の声が耳に入ってくる。
《渾沌?》
「ええ、そうよ」
《……準備、できた》
「準備? 私ともう一度戦う、ってことかしら?」
《うん》
「いつ? 明日にでも?」
《うん》
緊張しているのか、少女の応答はひどく単調に聞こえる。
「確認するわね。明日、私と勝負するのね?」
《やる》
「そう。楽しみね」
渾沌はクス、と笑みを漏らす。
「勝負が終わったら、たっぷり可愛がってあげるわね。私無しじゃいられないようになるくらい、じっくりと……」《それから》
と、相手の声色が変わる。
《アンタは、絶対ブッ飛ばしてやる! その仮面、叩き割ってあげるわ! 覚悟してなさいよッ!》
そう残し、通信は切られた。
「……うふふふ」
渾沌は昂子の顔を思い出し、ニヤ、と口元を歪ませた。
翌日、昼。
「あ」
朝食の、ハムとレタスとトマト、そしてとろけたチーズを挟んだサンドイッチを頬張っていた昂子が、唐突に声を上げた。
「どうした?」
同じようにサンドイッチを口に運ぼうとしていたウォンが尋ねると、昂子は困った顔をしてこう返した。
「渾沌に、今日勝負するって言ったけど」
「ああ」
「今日のいつ、ドコでやるかまで決めてなかった」
「……おいおい」
昂子はきょろきょろと時計や窓に目を向け、うろたえている。
「もう一回連絡……、あ、頭巾破いちゃったんだっけ。あー、どーしよー」
「お前なぁ……。なんで破くんだよ」
「だってさ、アレ使う時、耳元で声が聞こえるじゃん? その耳元でさ、『たっぷり可愛がってあげる、うふふ』とか言われてさ、キモって思ったらさ、つい」
「……まあ、気持ちは分かるけど」
と、話を聞いていた天狐が、苦い顔をする。
「感情任せで行動すんなっつの」
「ごめーん」
ぺろっと舌を出す昂子に、天狐は苦笑する。
「ったく……。
あ、……待てよ?」
と、天狐は席を立ち、窓に寄る。
「どしたの?」
「いや、頭巾を持たせたってコトなら、もしかしたら渾沌は、追跡できるような術式も組み込んでるかも、ってな」
「そんなコトできんの?」
目を丸くする昂子に対し、天狐は簡単に説明する。
「『トランスワード』自体、自分の声を他のところに飛ばす術だからな。ちょっといじれば、自分の位置情報とかも伝えるコトができるはずだ」
「あ、そっか」
「……となると」
天狐は窓の外に目をやり、こう続けた。
「あの性格捻じ曲がったイカレ女のコトだ、ひょいっと現れて奇襲の一つや二つ、仕掛けかねねーぞ?」
「……!」
「お前ら、早めに食べ終わって準備した方がいいぜ。敵の気が緩んでるところに攻撃してくる、なんてのは戦略の基本だからな」
「……はいっ」
秋也たち三人は、手にしていたサンドイッチを慌てて、口の中に放り込んだ。
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アブない女。
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通常、と言うよりも現在、通信魔術「トランスワード」は頭巾や壁面などに魔法陣を描く形でのデバイス(外部入出力装置)を用いて使用される。
半永久的に効果を持続できるデバイスなしに、魔術単体で使用するとなると、「いつ連絡が来るか分からないため、常時待機状態にしなければならない」と言う利用性質上の理由から、常に術を使用し続けなければならなくなる。
そうなると常人では、まず使用可能な状態を維持できない。四六時中、魔術が解除されないよう気を払い続けなければならないし、当然、魔力もその間、消費し続けなければならないからだ。
ゆえに――そんな芸当ができるような者となると、常人ではないと言う結論に至る。
その点から鑑みても彼女は「常人」、即ち「一般的な」人間ではなかった。
「……ん」
己の頭の中に、ぴり、とした感覚が走る。
それを受け、彼女はぽつりと呪文を唱えた。
「『トランスワード:リプライ』」
魔術を発動するとすぐに、少女の声が耳に入ってくる。
《渾沌?》
「ええ、そうよ」
《……準備、できた》
「準備? 私ともう一度戦う、ってことかしら?」
《うん》
「いつ? 明日にでも?」
《うん》
緊張しているのか、少女の応答はひどく単調に聞こえる。
「確認するわね。明日、私と勝負するのね?」
《やる》
「そう。楽しみね」
渾沌はクス、と笑みを漏らす。
「勝負が終わったら、たっぷり可愛がってあげるわね。私無しじゃいられないようになるくらい、じっくりと……」《それから》
と、相手の声色が変わる。
《アンタは、絶対ブッ飛ばしてやる! その仮面、叩き割ってあげるわ! 覚悟してなさいよッ!》
そう残し、通信は切られた。
「……うふふふ」
渾沌は昂子の顔を思い出し、ニヤ、と口元を歪ませた。
翌日、昼。
「あ」
朝食の、ハムとレタスとトマト、そしてとろけたチーズを挟んだサンドイッチを頬張っていた昂子が、唐突に声を上げた。
「どうした?」
同じようにサンドイッチを口に運ぼうとしていたウォンが尋ねると、昂子は困った顔をしてこう返した。
「渾沌に、今日勝負するって言ったけど」
「ああ」
「今日のいつ、ドコでやるかまで決めてなかった」
「……おいおい」
昂子はきょろきょろと時計や窓に目を向け、うろたえている。
「もう一回連絡……、あ、頭巾破いちゃったんだっけ。あー、どーしよー」
「お前なぁ……。なんで破くんだよ」
「だってさ、アレ使う時、耳元で声が聞こえるじゃん? その耳元でさ、『たっぷり可愛がってあげる、うふふ』とか言われてさ、キモって思ったらさ、つい」
「……まあ、気持ちは分かるけど」
と、話を聞いていた天狐が、苦い顔をする。
「感情任せで行動すんなっつの」
「ごめーん」
ぺろっと舌を出す昂子に、天狐は苦笑する。
「ったく……。
あ、……待てよ?」
と、天狐は席を立ち、窓に寄る。
「どしたの?」
「いや、頭巾を持たせたってコトなら、もしかしたら渾沌は、追跡できるような術式も組み込んでるかも、ってな」
「そんなコトできんの?」
目を丸くする昂子に対し、天狐は簡単に説明する。
「『トランスワード』自体、自分の声を他のところに飛ばす術だからな。ちょっといじれば、自分の位置情報とかも伝えるコトができるはずだ」
「あ、そっか」
「……となると」
天狐は窓の外に目をやり、こう続けた。
「あの性格捻じ曲がったイカレ女のコトだ、ひょいっと現れて奇襲の一つや二つ、仕掛けかねねーぞ?」
「……!」
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2015.09.28 修正
2015.09.28 修正



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