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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第1部

    白猫夢・克己抄 2

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    麒麟を巡る話、第37話。
    20年前の因縁。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     いつ襲撃してくるか分からない渾沌を迎え撃つべく、三人はミッドランドの丘、ラーガ邸前に固まっていた。

     ちなみにラーガ邸とは、このミッドランドを統治している一族、ラーガ家の住む屋敷である。元々、天狐と鈴林はこの屋敷を間借りして住んでいたのだが、天狐ゼミが本格化してくると共に手狭になったため、別に屋敷を持つことにしたのだ。
     その関係もあって、ラーガ邸と天狐の屋敷とは、さほど離れた距離にはない。それぞれ丘の上と下に位置しており、天狐たちはしばしばラーガ邸に食事に呼ばれたり、遊びに来たりしている。

     秋也とウォンは武器を構え、警戒している。
    「もし仮に、渾沌が当たり構わず攻撃してくるような、本当にイカレたヤツだったら、市街地にいるのは危ないもんな」
    「ああ。その点、この丘なら被害は比較的少ない。開けた場所だからな」
     一方、昂子は自分の取ったノートを読み返し、懸命に復習している。
    「……防御術は、相手の攻撃に対して優勢となる属性を使うこと。使用できなければ無属性の『マジックシールド』でも良いが、高位の術に対しては効果が低いため、注意すること。……また、いわゆる『重ね掛け』については、成功すれば確かに算術級数的な効果の上昇が見込めるが、術者らの息がよほど合わない限り、たのみにすべきではない。……それから……」
     そして三人の様子を、天狐と鈴林は屋敷の中で見つめていた。
     万が一、渾沌が市街地やラーガ邸にまで勝負の場を移してきた場合、自分たちが防衛を図るためである。
    「まだ来ないね……」
    「だな。まさか、待たせまくって相手をイライラさせて消耗させる作戦、……なワケもねーか。渾沌にしてみりゃ、そんなコトをするほどの相手じゃねー、とそう思ってるだろうからな」
    「……つくづく、アタシ、渾沌のコト、大っ嫌いだよっ」
     そう言って、鈴林はむくれる。
    「姉さんに失礼なコトするし、その上お腹ザクって刺してきちゃうし。
     きっとあっちこっちで、あんな風にムチャクチャなコトしてるんだよ。本っ当にもう、秋也くんたちにやっつけてもらったらいいんだよっ」
    「……ああ、同感だな。つーか、オレの目の前に現れたら、今度こそオレ自身で、ボッコボコにしてやりてーしな」
     二人は20年前、渾沌に襲撃された時のことを苦々しく思い出しながら、彼女の出現をじっと待っていた。

     と――。
    「あら?」
     天狐たちの背後から、声が聞こえてきた。
    「ここに頭巾の反応があったけど……、いないのかしら」
    「……ッ!」
     二人が振り向くと、そこにはあの仮面の女――克渾沌の姿があった。
    「てめえ……ッ」
     いきり立つ天狐に対し、渾沌は動じない。
    「三人はどこかしら? 外?」
    「誰が……」
     教えることを拒否しようとする鈴林に対し、天狐は顔に青筋を浮かべながらも、窓の外を指し示した。
    「ああ。そこの丘にいる」
    「そう」
     そう言うと、渾沌は礼も返さず、屋敷の外に出ようとした。
     それを不愉快に思ったらしく、鈴林は叫ぶ。
    「ちょっと! このままアタシたちを、……天狐の姉さんを無視して、出ていく気なのッ!?」
    「やめろ、鈴林」
     だが、天狐は渾沌を睨むも、動かない。
     それを受け、渾沌は彼女らを馬鹿にしたように、口の端を歪ませる。
    「……ふっ」
    「何がおかしいのよッ!?」
    「臆病な犬はよく吠える。でもさらに臆病な犬……、いいえ、狐は怯えて動けない」
    「……~ッ!」
     天狐はこの一言には、流石に己を御することはできなかった。
    「増上慢も大概にしやがれ、このクソアマあああッ!」
     天狐の手中に、金色に光る鉄扇が生じる。
     次の瞬間、天狐がかざしたその鉄扇から、眩い光と共に電撃が放射された。
    「喰らいやがれええッ!」
     その電撃が命中する寸前――渾沌はニヤ、と笑って見せた。
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    詳しくは「蒼天剣」第9部参照。

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