「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 3
麒麟を巡る話、第38話。
克門下対決。
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3.
ボン、と言う鈍い音と、十数枚のガラスが割れる音とが、丘に響き渡る。
「……!?」
秋也たち三人は、一斉に天狐の屋敷へ振り返る。
「今のは!?」
「分からない。……行こう!」
ウォンの言葉に、秋也も昂子もうなずく。
三人は全速力で、天狐の屋敷へ戻った。
「……やっぱりな」
部屋の中が半壊するほどの電撃を放ったものの、天狐はそれに見合うほどの効果が無いことを、経験と直感とで分かっていた。
「またソレかよ」
「うふふ」
渾沌の体から、ぱり……、と静電気の立てる高い音が鳴る。
いや――渾沌の体、そのすべてが、パチパチとした光を放っている。渾沌の体は、電気そのものに変化していた。
20年前、天狐に痛恨の敗北を味わわせた、あの奇怪な術である。
「『人鬼:雷術』……、私には術も武器も、一切効かないわ」
「そう思うのか?」
「え……?」
天狐の問いに、渾沌は首を向ける。
それと同時に、天狐は鉄扇を上に挙げる。
「オレを誰だと思ってる? 克大火門下、克天狐サマだぞ」
次の瞬間、先程の電撃で部屋中に空いた穴から、大量の水が放射された。
「九連『スプラッシュパイク』!」
「……!」
その中心にいた渾沌は、当然その水槍の、集中放水を浴びる。
「あ、はあ……っ!?」
水の術は雷の術に対して優勢となる――雷の術そのものと化していた渾沌には、この攻撃は流石にダメージとなったらしい。
渾沌はたまらず、「人鬼」を解除した。
「……く、くっ。余計なことをしたわね」
「あ?」
「私が、よ。悪かったわね」
渾沌はぐっしょりと濡れた髪をかき上げ、クスっと笑う。
「もっと警戒すべきだったわね。あの方にも、『そう思うのか?』って言われる度、散々、痛ぁい目に遭ったって言うのにね」
「何……? お前、まさか本当に……?」
「あなた、やっぱりあの方の娘なのね。言葉遣いと目つき、似てるところがあるわ」
「……っ!」
驚く天狐を尻目に、渾沌は玄関へと向かった。
「えっ……? 娘って、……誰が、誰の?」
「……」
尋ねた鈴林に、天狐は答えなかった。
秋也たちが天狐の屋敷前に着いたところで、その玄関が開く。
「渾沌……!」
「あら」
中から出てきたびしょ濡れの渾沌を見て、三人は武器を構える。
「ここで?」
「やめろ」
と、奥から天狐の声が返ってくる。
「これ以上壊されてたまるか」
渾沌は振り向かず、それに応える。
「あなたが自分で壊したんでしょう?
まあ、そう言うことだから。もっと広い場所に、ね?」
「……ああ」
秋也たち三人と渾沌は、丘の方へと場所を移した。
「あなた、頭巾を屋敷に置きっ放しにしたでしょう? だからあそこだと思ったのよ。忘れんぼね、クスクス」
「……」
「あれから二ヶ月も経ったんだから、そろそろその、ぬいぐるみの左腕も馴染んできたんじゃない?」
「……」
「あら、髪が伸びてきたわね。ますますお坊ちゃんみたいになったわね」
「……」
ぺらぺらと話しかけてくる渾沌に対し、三人の誰もが、一言も発しない。
そうするうちに、三人が元々陣取っていた場所へと戻ってきた。
「ここでいいの?」
「ああ」
秋也たちは渾沌と距離を取り、武器を構える。
「……行くぞ!」
「いつでもどうぞ」
渾沌も剣を抜き、両者は対峙した。
「あの、姉さん……?」
「……」
屋敷に残った天狐と鈴林は、壊れた部屋の掃除と補修を行っていた。
途中、鈴林が何度か天狐に声をかけるが、天狐は答えない。
「姉さん。もしかして、さっき渾沌が言ってた娘って、……姉さんのコト? それから、『あの方』って言うのも、もしかして……」
「だったらどうなんだ?」
何度目かの問いかけで、ずっと床の穴に目を向けていた天狐が、ようやく口を開く。
「オレを軽蔑するか? 親に唾吐いたバカ娘ってよ?」
「しないよっ、そんなコトっ」
「……ならいいじゃねーか。放っといてくれよ」
「あのね、姉さん」
鈴林は天狐の側に立ち、強い口調で言い放った。
「軽蔑は、そりゃ、しないよっ。でも、……怒っていいコトだよねっ」
「え……?」
「ずっと一緒だった、しかも妹弟子のアタシに、なんでそんな大事なコト、教えてくれなかったのっ?」
「……言いたくなかったんだよ。ソレに、言う機会が無かったから」
「じゃあ、……今からでいいからちゃんと説明してよっ」
「……」
天狐は苦い顔を鈴林に向け、それから手を振り、座るように促した。
「……しゃあねえな。話すよ、じゃあ、ちゃんと」
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克門下対決。
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ボン、と言う鈍い音と、十数枚のガラスが割れる音とが、丘に響き渡る。
「……!?」
秋也たち三人は、一斉に天狐の屋敷へ振り返る。
「今のは!?」
「分からない。……行こう!」
ウォンの言葉に、秋也も昂子もうなずく。
三人は全速力で、天狐の屋敷へ戻った。
「……やっぱりな」
部屋の中が半壊するほどの電撃を放ったものの、天狐はそれに見合うほどの効果が無いことを、経験と直感とで分かっていた。
「またソレかよ」
「うふふ」
渾沌の体から、ぱり……、と静電気の立てる高い音が鳴る。
いや――渾沌の体、そのすべてが、パチパチとした光を放っている。渾沌の体は、電気そのものに変化していた。
20年前、天狐に痛恨の敗北を味わわせた、あの奇怪な術である。
「『人鬼:雷術』……、私には術も武器も、一切効かないわ」
「そう思うのか?」
「え……?」
天狐の問いに、渾沌は首を向ける。
それと同時に、天狐は鉄扇を上に挙げる。
「オレを誰だと思ってる? 克大火門下、克天狐サマだぞ」
次の瞬間、先程の電撃で部屋中に空いた穴から、大量の水が放射された。
「九連『スプラッシュパイク』!」
「……!」
その中心にいた渾沌は、当然その水槍の、集中放水を浴びる。
「あ、はあ……っ!?」
水の術は雷の術に対して優勢となる――雷の術そのものと化していた渾沌には、この攻撃は流石にダメージとなったらしい。
渾沌はたまらず、「人鬼」を解除した。
「……く、くっ。余計なことをしたわね」
「あ?」
「私が、よ。悪かったわね」
渾沌はぐっしょりと濡れた髪をかき上げ、クスっと笑う。
「もっと警戒すべきだったわね。あの方にも、『そう思うのか?』って言われる度、散々、痛ぁい目に遭ったって言うのにね」
「何……? お前、まさか本当に……?」
「あなた、やっぱりあの方の娘なのね。言葉遣いと目つき、似てるところがあるわ」
「……っ!」
驚く天狐を尻目に、渾沌は玄関へと向かった。
「えっ……? 娘って、……誰が、誰の?」
「……」
尋ねた鈴林に、天狐は答えなかった。
秋也たちが天狐の屋敷前に着いたところで、その玄関が開く。
「渾沌……!」
「あら」
中から出てきたびしょ濡れの渾沌を見て、三人は武器を構える。
「ここで?」
「やめろ」
と、奥から天狐の声が返ってくる。
「これ以上壊されてたまるか」
渾沌は振り向かず、それに応える。
「あなたが自分で壊したんでしょう?
まあ、そう言うことだから。もっと広い場所に、ね?」
「……ああ」
秋也たち三人と渾沌は、丘の方へと場所を移した。
「あなた、頭巾を屋敷に置きっ放しにしたでしょう? だからあそこだと思ったのよ。忘れんぼね、クスクス」
「……」
「あれから二ヶ月も経ったんだから、そろそろその、ぬいぐるみの左腕も馴染んできたんじゃない?」
「……」
「あら、髪が伸びてきたわね。ますますお坊ちゃんみたいになったわね」
「……」
ぺらぺらと話しかけてくる渾沌に対し、三人の誰もが、一言も発しない。
そうするうちに、三人が元々陣取っていた場所へと戻ってきた。
「ここでいいの?」
「ああ」
秋也たちは渾沌と距離を取り、武器を構える。
「……行くぞ!」
「いつでもどうぞ」
渾沌も剣を抜き、両者は対峙した。
「あの、姉さん……?」
「……」
屋敷に残った天狐と鈴林は、壊れた部屋の掃除と補修を行っていた。
途中、鈴林が何度か天狐に声をかけるが、天狐は答えない。
「姉さん。もしかして、さっき渾沌が言ってた娘って、……姉さんのコト? それから、『あの方』って言うのも、もしかして……」
「だったらどうなんだ?」
何度目かの問いかけで、ずっと床の穴に目を向けていた天狐が、ようやく口を開く。
「オレを軽蔑するか? 親に唾吐いたバカ娘ってよ?」
「しないよっ、そんなコトっ」
「……ならいいじゃねーか。放っといてくれよ」
「あのね、姉さん」
鈴林は天狐の側に立ち、強い口調で言い放った。
「軽蔑は、そりゃ、しないよっ。でも、……怒っていいコトだよねっ」
「え……?」
「ずっと一緒だった、しかも妹弟子のアタシに、なんでそんな大事なコト、教えてくれなかったのっ?」
「……言いたくなかったんだよ。ソレに、言う機会が無かったから」
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