「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 4
麒麟を巡る話、第39話。
狂気と傲慢の権化。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
しばらく向かい合った後、渾沌が口を開いた。
「来ないのかしら?」
「……」
「いつでも、って言ったじゃない。来ないなら、こっちから行くわよ」
次の瞬間、渾沌の姿が消える。
だが前回のように、秋也たちはただ右往左往するばかりではない。
「『フォースオフ』!」
まず、昂子が魔術封じを行う。
それと同時に、秋也とウォンは昂子の側にさっと身を寄せ、昂子に背を向け、互いに護る体勢を取る。
「あら、前より臆病になったのね?」
「連携を取るようになった、と言ってもらおうか、このペテン師め」
「うふふふ……」
癇に障る笑いと共に、渾沌が姿を現す。
「前にも言ったでしょう、術なんか使ってないって」
「ならば何故、アコが術を使った途端に姿を現した!? 術が封じられたからではないのか!?」
「……ふーん」
渾沌はクスクスと笑い、手をぷらぷらと振って見せた。
「どうやらこの前みたいには、からかえそうには無いわね。
ええ、あなたの言った通りよ。この前は、ちょっと姿を眩ましてみたんだけど……、そうは行かないみたいね、今回は」
悪びれもせずそう言ってのけた渾沌に、秋也は思わず舌打ちした。
「チッ……、つくづく嫌な女だな」
「あら、大理石細工みたいなカマトト聖女より、悪女の方がよっぽど魅力的でしょう?」
「けっ、お前みたいな奴、誰が惚れるってんだッ!」
そう吐き捨て、秋也が間合いを詰める。
「らあッ!」
勢いよく振り下ろされた秋也の刀が、渾沌の肩を捉える。
が――渾沌は当てられるその寸前で、くい、と体をひねり、事も無げに刃をかわす。
「あら、結構もてるのよ、私。付き合った子はみんな『私無しじゃいられない』って、死ぬほど、嬉しがるんだけどね」
にやあ、と笑った渾沌の口元を見て、秋也の苛立ちはますます高まってくる。
「ほざいてろッ!」
二太刀、三太刀と刀を振るうが、渾沌はどれも紙一重でかわし、まったく当たる気配がない。
「うふふ……、前よりは全然、ましな動きをするわね」
「く……っ」
十数太刀をかわしたところで、渾沌はぽん、と後ろに跳んで間合いを離す。
「さて、と。
最初に会って、その別れる時に、あなたに言った言葉。覚えているかしら?」
「……?」
唐突な問いかけに戸惑いつつも、秋也は答える。
「大したヤツじゃない、……って、アレか?」
「概ね、それね。そう、私はあなたに、これ以上無いくらいにはっきりと、『落第』と言い渡した。
それからあなたは、どうしていたのかしら。駄目人間呼ばわりされて、ただ憤っていた? ただ嘆いていたかしら? ……どれも違うでしょうね。
あなたはきっと、真面目に修行し直したはず。この私を倒せるくらいになりたいと、それこそ一所懸命に、血のにじむような努力を積み重ねてきたはずよね。
……うふふ、ふふ」
そこで突然、渾沌は笑い出す。
「何がおかしい?」
「ああ、ごめんなさいね、うふ、ふふっ、ふふ……。
そう言うのがね、ふふ、私、好きで、ふ、ふふっ、嫌いなのよ」
「あ……?」
「『自分はこんなにも努力をしたのだ、だから報われて当然』と言ってのける馬鹿は、嫌い。
そして――そんな涙ぐましい努力をしてきた馬鹿を完膚なきまでに打ちのめし、絶望のどん底に叩き落としてやるのが大好きなのよ!」
そう叫ぶなり、渾沌は刀を上段に構える。
「秋也ああぁっ! あなたの努力、あなたの友情、そしてあなたの希望と未来!
全部、ぶった斬ってあげるわ!」
その瞬間、渾沌がこれまで放っていた、飄々とした、かつ、胡散臭い空気が消える。
それは秋也たちが初めて彼女から感じた、凛然とした剣士の気合い――「剣気」だった。
「……!」
秋也は刀を構え直し、攻撃に備える。
その仕草も、彼女にとっては笑いの種でしかなかったのだろう。
「あはははははははああぁッ、……『地断』!」
渾沌はゲラゲラと笑いながら、技を繰り出した。
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しばらく向かい合った後、渾沌が口を開いた。
「来ないのかしら?」
「……」
「いつでも、って言ったじゃない。来ないなら、こっちから行くわよ」
次の瞬間、渾沌の姿が消える。
だが前回のように、秋也たちはただ右往左往するばかりではない。
「『フォースオフ』!」
まず、昂子が魔術封じを行う。
それと同時に、秋也とウォンは昂子の側にさっと身を寄せ、昂子に背を向け、互いに護る体勢を取る。
「あら、前より臆病になったのね?」
「連携を取るようになった、と言ってもらおうか、このペテン師め」
「うふふふ……」
癇に障る笑いと共に、渾沌が姿を現す。
「前にも言ったでしょう、術なんか使ってないって」
「ならば何故、アコが術を使った途端に姿を現した!? 術が封じられたからではないのか!?」
「……ふーん」
渾沌はクスクスと笑い、手をぷらぷらと振って見せた。
「どうやらこの前みたいには、からかえそうには無いわね。
ええ、あなたの言った通りよ。この前は、ちょっと姿を眩ましてみたんだけど……、そうは行かないみたいね、今回は」
悪びれもせずそう言ってのけた渾沌に、秋也は思わず舌打ちした。
「チッ……、つくづく嫌な女だな」
「あら、大理石細工みたいなカマトト聖女より、悪女の方がよっぽど魅力的でしょう?」
「けっ、お前みたいな奴、誰が惚れるってんだッ!」
そう吐き捨て、秋也が間合いを詰める。
「らあッ!」
勢いよく振り下ろされた秋也の刀が、渾沌の肩を捉える。
が――渾沌は当てられるその寸前で、くい、と体をひねり、事も無げに刃をかわす。
「あら、結構もてるのよ、私。付き合った子はみんな『私無しじゃいられない』って、死ぬほど、嬉しがるんだけどね」
にやあ、と笑った渾沌の口元を見て、秋也の苛立ちはますます高まってくる。
「ほざいてろッ!」
二太刀、三太刀と刀を振るうが、渾沌はどれも紙一重でかわし、まったく当たる気配がない。
「うふふ……、前よりは全然、ましな動きをするわね」
「く……っ」
十数太刀をかわしたところで、渾沌はぽん、と後ろに跳んで間合いを離す。
「さて、と。
最初に会って、その別れる時に、あなたに言った言葉。覚えているかしら?」
「……?」
唐突な問いかけに戸惑いつつも、秋也は答える。
「大したヤツじゃない、……って、アレか?」
「概ね、それね。そう、私はあなたに、これ以上無いくらいにはっきりと、『落第』と言い渡した。
それからあなたは、どうしていたのかしら。駄目人間呼ばわりされて、ただ憤っていた? ただ嘆いていたかしら? ……どれも違うでしょうね。
あなたはきっと、真面目に修行し直したはず。この私を倒せるくらいになりたいと、それこそ一所懸命に、血のにじむような努力を積み重ねてきたはずよね。
……うふふ、ふふ」
そこで突然、渾沌は笑い出す。
「何がおかしい?」
「ああ、ごめんなさいね、うふ、ふふっ、ふふ……。
そう言うのがね、ふふ、私、好きで、ふ、ふふっ、嫌いなのよ」
「あ……?」
「『自分はこんなにも努力をしたのだ、だから報われて当然』と言ってのける馬鹿は、嫌い。
そして――そんな涙ぐましい努力をしてきた馬鹿を完膚なきまでに打ちのめし、絶望のどん底に叩き落としてやるのが大好きなのよ!」
そう叫ぶなり、渾沌は刀を上段に構える。
「秋也ああぁっ! あなたの努力、あなたの友情、そしてあなたの希望と未来!
全部、ぶった斬ってあげるわ!」
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それは秋也たちが初めて彼女から感じた、凛然とした剣士の気合い――「剣気」だった。
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秋也は刀を構え直し、攻撃に備える。
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- from まとめwoネタ速neo
- at 2012.06.19 20:28
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