「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 6
麒麟を巡る話、第41話。
渾沌への依頼主。
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6.
「……!」
渾沌がいないことに気付き、三人は戦慄する。
が――。
「そんなに怯えないでもいいわよ」
その渾沌が、真正面から現れた。
「勝負は決まったんだし、ね。私の負けよ、秋也」
「渾沌……」
と、渾沌はそれまで一度も外さなかった仮面を、ぱか、と外した。
「中に血が溜まって気色悪いわね、もう」
「うわ」
その素顔を見て、昂子が声を上げる。
「……ショック受けるじゃない。悲鳴なんか上げないでよ」
渾沌はその、左眉の上から右頬にかけて深い傷が残った顔をごしごしと手拭いで拭きながら、唇を尖らせて見せた。
「その顔……、見覚えがある」
と、秋也がぽつりとつぶやく。
「ずっと昔、オレが小っちゃい時に、一回……」
「あら」
と、仮面の血を拭い終えた渾沌がにこっと笑う。
「覚えていてくれたのね」
「でも、名前が違う。渾沌って、名乗ってなかったはずだ。母さんも確か、トモエって呼んで……」
「ん? ……ああ、あの時はね」
渾沌は仮面を被り直し、口元だけ笑って見せた。
「今は克大火門下、九番弟子の克渾沌よ」
と、渾沌は秋也の左肩に手を置く。
「だから、約束や契約はちゃんと守るわよ。
あなたは私に勝ったんだから、約束通り、腕を元通りにしてあげる」
そう言って、渾沌はまだわずかに残っていた、ぬいぐるみの腕を引っ張る。
すると、それまで秋也の肩と同化し、決して剥がれることの無かったその腕は、簡単に取れた。
「これが、元の腕」
そして、どこからか取り出した呪符だらけの腕を、秋也の肩に押し付ける。
「……あ、……戻った」
呪符がひとりでにぱらぱらと落ちると、そこには何事も無かったかのように、人間の腕が付けられていた。
「おお……、良かった、ちゃんとオレの腕だ」
左腕を回したり、握り拳を作ったりする秋也を見て、渾沌はケラケラと笑う。
「あははは……、この期に及んでまたぬいぐるみを付けたりするほど、私は性悪じゃないわよ。
……さて、と。秋也、勝負も終わったことだし、そろそろ事情を説明させてもらうわね」
渾沌はすとん、と丘に腰を下ろし、秋也たちにも座るよう促した。
「事情って?」
「ある人から頼まれた、って言ったじゃない。あなたと勝負するようにって」
「そう……だっけ?」
「そうなの。で、その頼んだ人なんだけどね」
渾沌はそこで言葉を切り、にやりと笑う。
「あなたのお母さんからなのよ」
「……え?」
思ってもいない人物を挙げられ、秋也は目を丸くする。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
と、昂子が口を挟む。
「じゃあアンタ、晴奈さんに頼まれて、秋也の腕引きちぎったり、あたしに、その、き、き、きっ……」「ああ」
渾沌はぺらぺらと手を振り、こう返した。
「私が頼まれたのは、『秋也の目を醒まさせてほしい』ってだけよ。晴奈の方も、秋也が試験に落ちた原因は、自分の力を過信しすぎたことにあるんじゃないかって思ってたみたいだから。
その方法は指定されてないし、秋也以外には手を出すなとも言われてないから、その辺りは私の勝手にさせてもらったわよ。
心配しないでも昂子ちゃん、あなたのことは本当に、可愛いと思ってるからね」
「うぇっ……」
その回答に、昂子はぶるっと身を震わせた。
「ま、それでも実際、あれだけ痛手を負うとは思って無かったわね。
私の予定では、元々あの『地断』はかわしてもらう予定だったのよ。威力としては、本当にしっかり『マジックシールド』がかかっていれば、ギリギリで防げる程度のものだったし。
それから二太刀、三太刀くらい斬り合って、『前より上達したわね。いいわ、及第点にしてあげる』とか適当に言って、腕を元に戻してあげるつもりだったんだけど……」
「そう言えば……、怪我は大丈夫なのか?」
秋也にそう問われ、渾沌はまた、ケラケラと笑った。
「あははは……、私を誰だと思ってるの? 克大火の弟子よ、これでも」
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渾沌への依頼主。
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「……!」
渾沌がいないことに気付き、三人は戦慄する。
が――。
「そんなに怯えないでもいいわよ」
その渾沌が、真正面から現れた。
「勝負は決まったんだし、ね。私の負けよ、秋也」
「渾沌……」
と、渾沌はそれまで一度も外さなかった仮面を、ぱか、と外した。
「中に血が溜まって気色悪いわね、もう」
「うわ」
その素顔を見て、昂子が声を上げる。
「……ショック受けるじゃない。悲鳴なんか上げないでよ」
渾沌はその、左眉の上から右頬にかけて深い傷が残った顔をごしごしと手拭いで拭きながら、唇を尖らせて見せた。
「その顔……、見覚えがある」
と、秋也がぽつりとつぶやく。
「ずっと昔、オレが小っちゃい時に、一回……」
「あら」
と、仮面の血を拭い終えた渾沌がにこっと笑う。
「覚えていてくれたのね」
「でも、名前が違う。渾沌って、名乗ってなかったはずだ。母さんも確か、トモエって呼んで……」
「ん? ……ああ、あの時はね」
渾沌は仮面を被り直し、口元だけ笑って見せた。
「今は克大火門下、九番弟子の克渾沌よ」
と、渾沌は秋也の左肩に手を置く。
「だから、約束や契約はちゃんと守るわよ。
あなたは私に勝ったんだから、約束通り、腕を元通りにしてあげる」
そう言って、渾沌はまだわずかに残っていた、ぬいぐるみの腕を引っ張る。
すると、それまで秋也の肩と同化し、決して剥がれることの無かったその腕は、簡単に取れた。
「これが、元の腕」
そして、どこからか取り出した呪符だらけの腕を、秋也の肩に押し付ける。
「……あ、……戻った」
呪符がひとりでにぱらぱらと落ちると、そこには何事も無かったかのように、人間の腕が付けられていた。
「おお……、良かった、ちゃんとオレの腕だ」
左腕を回したり、握り拳を作ったりする秋也を見て、渾沌はケラケラと笑う。
「あははは……、この期に及んでまたぬいぐるみを付けたりするほど、私は性悪じゃないわよ。
……さて、と。秋也、勝負も終わったことだし、そろそろ事情を説明させてもらうわね」
渾沌はすとん、と丘に腰を下ろし、秋也たちにも座るよう促した。
「事情って?」
「ある人から頼まれた、って言ったじゃない。あなたと勝負するようにって」
「そう……だっけ?」
「そうなの。で、その頼んだ人なんだけどね」
渾沌はそこで言葉を切り、にやりと笑う。
「あなたのお母さんからなのよ」
「……え?」
思ってもいない人物を挙げられ、秋也は目を丸くする。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
と、昂子が口を挟む。
「じゃあアンタ、晴奈さんに頼まれて、秋也の腕引きちぎったり、あたしに、その、き、き、きっ……」「ああ」
渾沌はぺらぺらと手を振り、こう返した。
「私が頼まれたのは、『秋也の目を醒まさせてほしい』ってだけよ。晴奈の方も、秋也が試験に落ちた原因は、自分の力を過信しすぎたことにあるんじゃないかって思ってたみたいだから。
その方法は指定されてないし、秋也以外には手を出すなとも言われてないから、その辺りは私の勝手にさせてもらったわよ。
心配しないでも昂子ちゃん、あなたのことは本当に、可愛いと思ってるからね」
「うぇっ……」
その回答に、昂子はぶるっと身を震わせた。
「ま、それでも実際、あれだけ痛手を負うとは思って無かったわね。
私の予定では、元々あの『地断』はかわしてもらう予定だったのよ。威力としては、本当にしっかり『マジックシールド』がかかっていれば、ギリギリで防げる程度のものだったし。
それから二太刀、三太刀くらい斬り合って、『前より上達したわね。いいわ、及第点にしてあげる』とか適当に言って、腕を元に戻してあげるつもりだったんだけど……」
「そう言えば……、怪我は大丈夫なのか?」
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
大分丸くなったトモちゃんですが、変態度はアップしてます。
流石に伴侶になろうと言う勇者はいないんじゃないか、と。
一応セーブをかけてくれる人は1名います。
彼女の現・師匠。
流石に伴侶になろうと言う勇者はいないんじゃないか、と。
一応セーブをかけてくれる人は1名います。
彼女の現・師匠。
トモエちゃんもずいぶん丸くなって……いや嬉しいですほんと。
これで誰かもちっとセーブをかけてくれるいいひとがいたらねえ、と思ってしまう世話焼きおばちゃん的発想(笑)
これで誰かもちっとセーブをかけてくれるいいひとがいたらねえ、と思ってしまう世話焼きおばちゃん的発想(笑)
- #976 ポール・ブリッツ
- URL
- 2012.06/17 21:24
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NoTitle
そんなに何人も送りつけるほど、秋也はボンクラじゃない。はず。