「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 7
麒麟を巡る話、第42話。
祝勝の宴。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「なんでお前が平然とオレん家の風呂使ってんだよ。しかもソレ、鈴林のだし」
苦々しい顔でそう尋ねた天狐に対し、バスローブ姿の渾沌はけろっとした口調で返す。
「近かったから。血まみれの格好で外、歩きたくなかったし。あなたのじゃ、私の丈に合わないし」
「ソコじゃねえだろ。オレが言いたいのは、使わせる筋合いなんざ……」
「あら、同門のよしみじゃない。それとも、あれだけ魔術をぶち込んでおいて、まだ因縁付けてくるつもり? あれだけやれば、20年前の借りは返せたでしょ?」
「……」
天狐はくる、と背を向け、渾沌にこう返した。
「どうせメシも食ってくつもりだろ。……鈴林に言って、一人分増やしとくからな」
「ありがとね、天狐の姉さん」
「けっ」
渾沌との勝負に勝利した秋也たちは、その相手と共に祝宴を催すことになった。
「ま、倒した相手がココにいる、ってのも変な感じだが、……とにかくおめでとう、だな。
お疲れさん、秋也、昂子、ウォン」
天狐はそう前置きし、コップを挙げる。
「見事に悲願を達成した三人に、乾杯!」
「乾杯」
「乾杯っ」
悪魔、神仙とも言える三人から一斉に音頭を取られ、三人も照れ笑いを浮かべながら応じる。
「乾杯、……へへ」
「やったな秋也、ついによ」
指導したよしみからか、天狐は取り分け嬉しそうに笑っている。
「ありがとう、天狐ちゃん。アンタの指導が無かったら、オレは全然ダメなままだったよ」
「はは、そりゃどーも」
と、渾沌が尋ねてくる。
「ところで秋也。あなた本当に、私を倒した時の技、自分で編み出したの?」
「技、……って言うほどのものでもないと思うんだけどな。勢い任せに、滅多やたらに斬り付けただけだし」
「ふーん……?」
渾沌はわずかに首を傾げ、それから間を置いてこう続ける。
「秋也、また後でじっくり、その時のこと教えてくれないかしら? とっても、気になるから」
「ああ、いいよ」
「ありがと。……じゃ、食べましょ」
そう言いつつ、渾沌は仮面を付けたままで皿を手に取る。
「えっと、渾沌?」
「ん?」
秋也は自分の鼻の辺りを指差し、渾沌に尋ねる。
「仮面、取らないのか?」
「あんまり取りたくないのよ。見たでしょ、私の素顔」
「まあ、ソレは分かるけど、……食べにくくないかなって」
「20年以上も付けてるから、もう慣れたわ」
「……まあ、あんたがソレでいいならいいけど」
一方、ウォンと昂子は、互いに複雑な表情を浮かべていた。
「……なによ」「……そっちこそ」
乾杯してから、と言うよりも、渾沌との勝負が終わってからずっと、両者とも怒っているような、ほっとしているような、どちらとも取れる顔を互いに向けている。
「……なんで、僕の言うことに従わなかった?」
ようやく、ウォンの方から話を切り出す。
「アンタこそ、魔術はあたしの方がうまいんだから、あそこは下がってれば良かったのよ」
「戦闘にまったく慣れていないお前が、どうこうできる相手じゃなかったはずだ。素直に僕に従っていれば良かっただろう?」
「だから、魔術はあたしの方が……」
言い合いを始めた二人に、鈴林が寄ってきた。
「どうしたのっ?」
「ああ、いや、レイリンさん。こいつがコントンとの戦いの際、勝手な行動を……」
「何よ。結局あんたの術、弾かれてたじゃん」
「それはお前も同じだろうが」
「ちょ、ちょ。どーしたのってばっ」
鈴林は憤る二人をなだめつつ、渾沌との戦いの際、二人が同時に術で防御を取った話を聞き出した。
「へぇー」
「へぇ、って鈴林、……怒んないの?」
昂子にそう問われ、鈴林はきょとんとする。
「なんでっ?」
「だって、術が破られちゃった上に、鈴林に術を教わってもないウォンに助けてもらったりして……」
「いいんじゃない?」
「え?」
鈴林はニコニコと笑いながら、昂子とウォンの手を取った。
「コレでどっちか死んでたりしたら、そりゃ、残った方を怒るよっ。でも二人で協力して、どっちも生き残れたんだもんっ。
勉強は失敗しても、何度でもやり直せるよっ。でもっ、実戦は失敗したら、命が危ないでしょ? ココにこうして二人ともいるなら、失敗してないってコト。だから怒るコトなんか、何にもないよっ。
だからねっ、二人とも」
そして鈴林は、二人の手を近付かせ、強引に握手させた。
「戦友の無事を祝いなさい、ってコトっ」
「え、あ、……うん」
「あ、……ああ」
二人は互いに照れながら、相手の手をむに、とぎこちなく握った。
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祝勝の宴。
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「なんでお前が平然とオレん家の風呂使ってんだよ。しかもソレ、鈴林のだし」
苦々しい顔でそう尋ねた天狐に対し、バスローブ姿の渾沌はけろっとした口調で返す。
「近かったから。血まみれの格好で外、歩きたくなかったし。あなたのじゃ、私の丈に合わないし」
「ソコじゃねえだろ。オレが言いたいのは、使わせる筋合いなんざ……」
「あら、同門のよしみじゃない。それとも、あれだけ魔術をぶち込んでおいて、まだ因縁付けてくるつもり? あれだけやれば、20年前の借りは返せたでしょ?」
「……」
天狐はくる、と背を向け、渾沌にこう返した。
「どうせメシも食ってくつもりだろ。……鈴林に言って、一人分増やしとくからな」
「ありがとね、天狐の姉さん」
「けっ」
渾沌との勝負に勝利した秋也たちは、その相手と共に祝宴を催すことになった。
「ま、倒した相手がココにいる、ってのも変な感じだが、……とにかくおめでとう、だな。
お疲れさん、秋也、昂子、ウォン」
天狐はそう前置きし、コップを挙げる。
「見事に悲願を達成した三人に、乾杯!」
「乾杯」
「乾杯っ」
悪魔、神仙とも言える三人から一斉に音頭を取られ、三人も照れ笑いを浮かべながら応じる。
「乾杯、……へへ」
「やったな秋也、ついによ」
指導したよしみからか、天狐は取り分け嬉しそうに笑っている。
「ありがとう、天狐ちゃん。アンタの指導が無かったら、オレは全然ダメなままだったよ」
「はは、そりゃどーも」
と、渾沌が尋ねてくる。
「ところで秋也。あなた本当に、私を倒した時の技、自分で編み出したの?」
「技、……って言うほどのものでもないと思うんだけどな。勢い任せに、滅多やたらに斬り付けただけだし」
「ふーん……?」
渾沌はわずかに首を傾げ、それから間を置いてこう続ける。
「秋也、また後でじっくり、その時のこと教えてくれないかしら? とっても、気になるから」
「ああ、いいよ」
「ありがと。……じゃ、食べましょ」
そう言いつつ、渾沌は仮面を付けたままで皿を手に取る。
「えっと、渾沌?」
「ん?」
秋也は自分の鼻の辺りを指差し、渾沌に尋ねる。
「仮面、取らないのか?」
「あんまり取りたくないのよ。見たでしょ、私の素顔」
「まあ、ソレは分かるけど、……食べにくくないかなって」
「20年以上も付けてるから、もう慣れたわ」
「……まあ、あんたがソレでいいならいいけど」
一方、ウォンと昂子は、互いに複雑な表情を浮かべていた。
「……なによ」「……そっちこそ」
乾杯してから、と言うよりも、渾沌との勝負が終わってからずっと、両者とも怒っているような、ほっとしているような、どちらとも取れる顔を互いに向けている。
「……なんで、僕の言うことに従わなかった?」
ようやく、ウォンの方から話を切り出す。
「アンタこそ、魔術はあたしの方がうまいんだから、あそこは下がってれば良かったのよ」
「戦闘にまったく慣れていないお前が、どうこうできる相手じゃなかったはずだ。素直に僕に従っていれば良かっただろう?」
「だから、魔術はあたしの方が……」
言い合いを始めた二人に、鈴林が寄ってきた。
「どうしたのっ?」
「ああ、いや、レイリンさん。こいつがコントンとの戦いの際、勝手な行動を……」
「何よ。結局あんたの術、弾かれてたじゃん」
「それはお前も同じだろうが」
「ちょ、ちょ。どーしたのってばっ」
鈴林は憤る二人をなだめつつ、渾沌との戦いの際、二人が同時に術で防御を取った話を聞き出した。
「へぇー」
「へぇ、って鈴林、……怒んないの?」
昂子にそう問われ、鈴林はきょとんとする。
「なんでっ?」
「だって、術が破られちゃった上に、鈴林に術を教わってもないウォンに助けてもらったりして……」
「いいんじゃない?」
「え?」
鈴林はニコニコと笑いながら、昂子とウォンの手を取った。
「コレでどっちか死んでたりしたら、そりゃ、残った方を怒るよっ。でも二人で協力して、どっちも生き残れたんだもんっ。
勉強は失敗しても、何度でもやり直せるよっ。でもっ、実戦は失敗したら、命が危ないでしょ? ココにこうして二人ともいるなら、失敗してないってコト。だから怒るコトなんか、何にもないよっ。
だからねっ、二人とも」
そして鈴林は、二人の手を近付かせ、強引に握手させた。
「戦友の無事を祝いなさい、ってコトっ」
「え、あ、……うん」
「あ、……ああ」
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