「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 8
麒麟を巡る話、第43話。
晴奈と渾沌の、今。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
祝宴が終わり、天狐の屋敷にいたほとんどの人間は既に、眠りに就いていた。
が――秋也と渾沌は話をするため、灯りの落ちた居間に来ていた。
「暗過ぎるわね。……『ライトボール』」
渾沌が術を使い、二人の間にほんのりとした灯りを灯す。
「で、話ってなんだ?」
「まず、……そうね、この傷の話からしましょうか」
そう言って、渾沌は自分の仮面を指差す。
「天原争乱、って知っているかしら」
「……? うーん、聞いた覚えがあるような、無いような」
「516年に、天玄で起こった政治騒動よ。当時の天玄と玄州、そして央南連合の代表、支配者だった天原桂って言う人が起こした事件で、私はそいつの側にいたのよ。
で、天原は密かに黒炎教団の高僧と通じていて、彼の傀儡となって央南を操っていたの。それを咎められて天玄を放逐された彼は、権力奪還のため挙兵。で、それを迎え撃ったのが、新たに連合主席となった黄紫明大人――あなたの祖父ね」
「あー……、なんか、聞いた覚えがあるかも。その戦い、お袋も参加してたんだっけか」
「そう、そこよ。……ここまで聞いたらピンと来るでしょうけど」
渾沌は仮面を外し、疵(きず)の付いた顔を見せた。
「その時に私は晴奈と戦い、この傷を付けられて敗北したのよ」
「そうだったのか……」
「男のあなたには分からないと思うけど、私も一応、女だからね。顔を穢され、私は怒り狂った。……それから紆余曲折あって、私はその後にもう三度、晴奈と対決したのよ。
でも残念ながら、結果はすべて引き分け。特に後ろ2回については、両方とも出せる限りの技、奥義を出しても、なお決着しなかった。
そう、その奥義だけどね。私の奥義は、自分の体を魔術そのものに変えられる『人鬼』。そして晴奈の奥義が、この世の誰にも感知、察知のできない不可視の剣舞――『星剣舞』なのよ」
「『星剣舞』……。確か、あんたが倒れる直前に言ってたな」
「ええ。言っておくけど、私はこの世で三指に入る剣術の腕を持っていると自負してる。でも、それでも敵わなかったのは二人だけ。師匠の克大火と、あなたのお母さんだけなのよ。
でももう、流石に晴奈も歳を取った。全盛期の動きはもう、できないでしょうね。だからと言って、そんな晴奈と戦いたいなんて思わない。私が全身全霊を懸けて倒したいと思ったのは、全盛期の彼女だから」
「……今は、もう憎いと思ってないのか?」
「色々あったからね。今じゃもう、たまに会って一緒にお茶するくらいの友人よ。だからこそ、あなたをどうにかしてほしいって依頼、されたんだけど。
……ま、それはいいのよ、どうでも。私が気になったのは、あなたがもしかしたら『星剣舞』を伝授されているのかってことよ。でも、違うのよね?」
「ああ……。本当に、あの時は無我夢中だっただけなんだ」
明確に否定され、渾沌は残念そうな顔をした。
「そう……」
「第一、オレはまだ、免許皆伝にすら至ってないんだ。……試験受けたけど、落ちたし」
「え? 試験、受からなかったの?」
と、渾沌は目を丸くして見せる。
「私に数太刀浴びせられる実力があって、それでも?」
「……あんただってお袋に勝ったコト、無いんだろ?」
「って言うと?」
秋也は渾沌に、免許皆伝試験の際、若き日の母親が出現したことを話した。
「……ふーん……」
「正直、もう一回受けて、受かるのか心配なんだよ」
「あのね」
と、渾沌はクスクスと笑いだした。
「なんだよ?」
「私は受けたことが無いから、きっちりこれが正解だって断言できないけれど、……まあ、でも。あなたの導き出した答えが、完璧に間違いって言うのは分かったわ。
ねえ、例えばだけど。あなたは喧嘩を売られたら、すぐに買う人かしら?」
「まあ……、買うかな」
「それだと失格なのよ、きっと。そんな解答、絶対に試験の正解にはしないわよ」
「え?」
「ヒントは、これくらいね。
……じゃ、ね。私、帰るわ」
渾沌は仮面を付け、すい、と立ち上がる。
「え、ちょ、ソレだけ?」
「後は自分で考えなさい。またね、秋也」
秋也が目を白黒させている間に、渾沌は部屋の扉まで歩いていく。
そして出る間際、いたずらっぽく、こう言い放った。
「私、男が大嫌いなんだけど、あなたは別ね。ちょっといいかもって気にはなったわ」
「は? ……はあ?」
「次に会う時は、もっといい男になっててほしいわね」
渾沌は背を向けてぺら、と手を振り、部屋を出て行った。
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晴奈と渾沌の、今。
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8.
祝宴が終わり、天狐の屋敷にいたほとんどの人間は既に、眠りに就いていた。
が――秋也と渾沌は話をするため、灯りの落ちた居間に来ていた。
「暗過ぎるわね。……『ライトボール』」
渾沌が術を使い、二人の間にほんのりとした灯りを灯す。
「で、話ってなんだ?」
「まず、……そうね、この傷の話からしましょうか」
そう言って、渾沌は自分の仮面を指差す。
「天原争乱、って知っているかしら」
「……? うーん、聞いた覚えがあるような、無いような」
「516年に、天玄で起こった政治騒動よ。当時の天玄と玄州、そして央南連合の代表、支配者だった天原桂って言う人が起こした事件で、私はそいつの側にいたのよ。
で、天原は密かに黒炎教団の高僧と通じていて、彼の傀儡となって央南を操っていたの。それを咎められて天玄を放逐された彼は、権力奪還のため挙兵。で、それを迎え撃ったのが、新たに連合主席となった黄紫明大人――あなたの祖父ね」
「あー……、なんか、聞いた覚えがあるかも。その戦い、お袋も参加してたんだっけか」
「そう、そこよ。……ここまで聞いたらピンと来るでしょうけど」
渾沌は仮面を外し、疵(きず)の付いた顔を見せた。
「その時に私は晴奈と戦い、この傷を付けられて敗北したのよ」
「そうだったのか……」
「男のあなたには分からないと思うけど、私も一応、女だからね。顔を穢され、私は怒り狂った。……それから紆余曲折あって、私はその後にもう三度、晴奈と対決したのよ。
でも残念ながら、結果はすべて引き分け。特に後ろ2回については、両方とも出せる限りの技、奥義を出しても、なお決着しなかった。
そう、その奥義だけどね。私の奥義は、自分の体を魔術そのものに変えられる『人鬼』。そして晴奈の奥義が、この世の誰にも感知、察知のできない不可視の剣舞――『星剣舞』なのよ」
「『星剣舞』……。確か、あんたが倒れる直前に言ってたな」
「ええ。言っておくけど、私はこの世で三指に入る剣術の腕を持っていると自負してる。でも、それでも敵わなかったのは二人だけ。師匠の克大火と、あなたのお母さんだけなのよ。
でももう、流石に晴奈も歳を取った。全盛期の動きはもう、できないでしょうね。だからと言って、そんな晴奈と戦いたいなんて思わない。私が全身全霊を懸けて倒したいと思ったのは、全盛期の彼女だから」
「……今は、もう憎いと思ってないのか?」
「色々あったからね。今じゃもう、たまに会って一緒にお茶するくらいの友人よ。だからこそ、あなたをどうにかしてほしいって依頼、されたんだけど。
……ま、それはいいのよ、どうでも。私が気になったのは、あなたがもしかしたら『星剣舞』を伝授されているのかってことよ。でも、違うのよね?」
「ああ……。本当に、あの時は無我夢中だっただけなんだ」
明確に否定され、渾沌は残念そうな顔をした。
「そう……」
「第一、オレはまだ、免許皆伝にすら至ってないんだ。……試験受けたけど、落ちたし」
「え? 試験、受からなかったの?」
と、渾沌は目を丸くして見せる。
「私に数太刀浴びせられる実力があって、それでも?」
「……あんただってお袋に勝ったコト、無いんだろ?」
「って言うと?」
秋也は渾沌に、免許皆伝試験の際、若き日の母親が出現したことを話した。
「……ふーん……」
「正直、もう一回受けて、受かるのか心配なんだよ」
「あのね」
と、渾沌はクスクスと笑いだした。
「なんだよ?」
「私は受けたことが無いから、きっちりこれが正解だって断言できないけれど、……まあ、でも。あなたの導き出した答えが、完璧に間違いって言うのは分かったわ。
ねえ、例えばだけど。あなたは喧嘩を売られたら、すぐに買う人かしら?」
「まあ……、買うかな」
「それだと失格なのよ、きっと。そんな解答、絶対に試験の正解にはしないわよ」
「え?」
「ヒントは、これくらいね。
……じゃ、ね。私、帰るわ」
渾沌は仮面を付け、すい、と立ち上がる。
「え、ちょ、ソレだけ?」
「後は自分で考えなさい。またね、秋也」
秋也が目を白黒させている間に、渾沌は部屋の扉まで歩いていく。
そして出る間際、いたずらっぽく、こう言い放った。
「私、男が大嫌いなんだけど、あなたは別ね。ちょっといいかもって気にはなったわ」
「は? ……はあ?」
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NoTitle
ほんとトモエちゃんも丸くなったなあ……。
秋也くんこのまま押し倒しちまえ。トモエちゃんの気が変わらない今ならできる(笑) ……ウソです(^^;)
秋也くんこのまま押し倒しちまえ。トモエちゃんの気が変わらない今ならできる(笑) ……ウソです(^^;)
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NoTitle
ただし、もうちょっとステキな展開も考えてはいます。
どうなるかは分かりませんが。