「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・克己抄 9
麒麟を巡る話、第44話。
三人、新たな道へ。
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9.
翌日――。
「じゃ、オレは行くよ」
旅支度を整えた秋也は、天狐と鈴林、昂子、ウォンに頭を下げる。
「もう行くのか?」
やや驚いた顔をするウォンに、秋也はにかっと笑って見せる。
「ああ。前にも言ったかも知れないけど、ダラダラして次の機会を失うのは嫌なんだ。
勝負に勝って成功の波に乗ってる間に、試験も受けたいんだ」
「そうか。……僕も、もう少ししたらゴールドコーストへ行くよ」
「そっか。じゃ、次に会う時はゴールドコーストで、だな」
「ああ、恐らくは。……頑張れよ、シュウヤ」
「お前もな」
秋也とウォンは、がっちりと握手を交わす。
と、昂子も二人の側に寄り、交わされた手に自分の手を乗せる。
「しばらく、みんな離れ離れになるんだね」
「そうだな」
「……こんなコト言うの、あたしのキャラじゃないんだけど、……言っちゃう。
本当に、本当に、……二人といて、すっごく、楽しかったよ」
涙ぐむ昂子に、ウォンも目を赤くしている。
「僕もだ。あのまま宮内で黙々と過ごしているより、何倍も、実りある日々を過ごせた。ありがとう、アコ、シュウヤ」
二人の言葉を聞いているうちに、秋也の鼻に、切ない痛みがじわりと来る。
「オレもだよ。オレも、二人といられて良かったと思ってる。……また、いつか」
二人はこく、と小さくうなずく。
「うん、……いつか」
「いつかまた、会おう」
三人が誓い合う様子を見て、天狐がぼそ、とつぶやく。
「あっついヤツらだな」
「あはは、そうだねっ」
「久々に、スカっとした気分だぜ。本当、……何て言うか、青春してるなって」
「ゼミ生、みんな勉強一筋だもんね」
「ああ。……ソレに」
と、天狐の表情が曇る。
「オレもあーゆーコトを言い合える仲間、……会いたいよ」
「……そうだよね。……みんな、いないんだもんね。
でもさ、姉さん」
「ん?」
「できたじゃない、今回のコトで」
「……それもそうか。そうだな、憎ったらしい妹弟子ができたんだよな。
ケケ……、今度会ったら、改めてご馳走でもしてやるかな」
「いいねっ」
ケラケラと笑う天狐に、鈴林もニコニコと微笑んでいた。
ミッドランドを離れ、湖を渡る船の上で、秋也はただ黙々と座りながら、考えを巡らせていた。
(喧嘩をすぐ買うと、失格?
失格ってのは、勿論、試験に失格って意味だよな? じゃ、逃げろってコトか? ……ってのも、違うよなぁ。剣士が背を向けて逃げる、なんてのは格好悪いし。
どう言うことだ……? 戦うのは駄目、逃げてもおかしい。他にどうしろって言うんだ?)
深く考え込むが、一向に正解と思える案は出ない。
と、秋也は甲板を抜ける風の寒さに気付き、ぶる、と震えた。
「うへ、寒み……」
荷物からコートや帽子を出そうとしたところで、秋也はウォンに帽子を貸しっぱなしにしていたことを思い出した。
(あ……、しまったな。もうあいつ、坊主じゃ無くなったんだし、返してもらえば良かった)
秋也の脳裏に、屏風山脈で見たウォンの坊主頭がよみがえる。
(にしても、あの時はひどかったなぁ、頭。あいつにとっちゃ、とんだ藪蛇だ。
本当、出会った時のあいつもオレも、バカだったよなぁ……。あいつは敵だ、戦うぞ、って。あいつと旅とか修行とかした今だから、あいつと仲いいけど、もしあの時、あいつと本気で殺し合いとかになってたら、絶対こんな風にあいつのコト考えたりなんて、……ん?)
そこまで想起したところで、秋也の頭に何か、引っかかるものがあった。
(殺し合っていたら、あいつと仲良くなるコトなんて絶対に無かった。戦っていたら、そうはならなかった。
戦わなかったら? 峠の下りで、その機会はあっただろ? でも、オレはなんか、あいつのコトが可哀想に思えて、だから普通に話しかけたら、……そう、ソレで今があるんだ。
じゃあ、『あいつ』とも戦わずに、……喧嘩を売りも買いもせずに、話しかけてみたらどうなったんだろうか? まさか仲良くなれる、……か?
いや……、『まさか』なんて、まさにオレとウォンじゃないか。会った当時、絶対仲良くなんてなれそうになかったんだ。あの時武器を向けず、帽子を貸してやったから、仲良くなれたんだ。
そうだ――思えばオレは、目の前に現れたヤツを、勝手に敵と決めつけて襲いかかったんだ。じゃあ、……そりゃ、迎え撃ってくるに決まってる。
ソレなのかな……? オレが戦わなければ、相手も戦おうとしなかったんだろうか)
秋也の心に、四ヶ月前には決して至ることの無かった考えが現れた。
(もう一度……、受けよう。
オレは、……その考えを試してみたい。本当に、ソレが正解なのか)
白猫夢・克己抄 終
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翌日――。
「じゃ、オレは行くよ」
旅支度を整えた秋也は、天狐と鈴林、昂子、ウォンに頭を下げる。
「もう行くのか?」
やや驚いた顔をするウォンに、秋也はにかっと笑って見せる。
「ああ。前にも言ったかも知れないけど、ダラダラして次の機会を失うのは嫌なんだ。
勝負に勝って成功の波に乗ってる間に、試験も受けたいんだ」
「そうか。……僕も、もう少ししたらゴールドコーストへ行くよ」
「そっか。じゃ、次に会う時はゴールドコーストで、だな」
「ああ、恐らくは。……頑張れよ、シュウヤ」
「お前もな」
秋也とウォンは、がっちりと握手を交わす。
と、昂子も二人の側に寄り、交わされた手に自分の手を乗せる。
「しばらく、みんな離れ離れになるんだね」
「そうだな」
「……こんなコト言うの、あたしのキャラじゃないんだけど、……言っちゃう。
本当に、本当に、……二人といて、すっごく、楽しかったよ」
涙ぐむ昂子に、ウォンも目を赤くしている。
「僕もだ。あのまま宮内で黙々と過ごしているより、何倍も、実りある日々を過ごせた。ありがとう、アコ、シュウヤ」
二人の言葉を聞いているうちに、秋也の鼻に、切ない痛みがじわりと来る。
「オレもだよ。オレも、二人といられて良かったと思ってる。……また、いつか」
二人はこく、と小さくうなずく。
「うん、……いつか」
「いつかまた、会おう」
三人が誓い合う様子を見て、天狐がぼそ、とつぶやく。
「あっついヤツらだな」
「あはは、そうだねっ」
「久々に、スカっとした気分だぜ。本当、……何て言うか、青春してるなって」
「ゼミ生、みんな勉強一筋だもんね」
「ああ。……ソレに」
と、天狐の表情が曇る。
「オレもあーゆーコトを言い合える仲間、……会いたいよ」
「……そうだよね。……みんな、いないんだもんね。
でもさ、姉さん」
「ん?」
「できたじゃない、今回のコトで」
「……それもそうか。そうだな、憎ったらしい妹弟子ができたんだよな。
ケケ……、今度会ったら、改めてご馳走でもしてやるかな」
「いいねっ」
ケラケラと笑う天狐に、鈴林もニコニコと微笑んでいた。
ミッドランドを離れ、湖を渡る船の上で、秋也はただ黙々と座りながら、考えを巡らせていた。
(喧嘩をすぐ買うと、失格?
失格ってのは、勿論、試験に失格って意味だよな? じゃ、逃げろってコトか? ……ってのも、違うよなぁ。剣士が背を向けて逃げる、なんてのは格好悪いし。
どう言うことだ……? 戦うのは駄目、逃げてもおかしい。他にどうしろって言うんだ?)
深く考え込むが、一向に正解と思える案は出ない。
と、秋也は甲板を抜ける風の寒さに気付き、ぶる、と震えた。
「うへ、寒み……」
荷物からコートや帽子を出そうとしたところで、秋也はウォンに帽子を貸しっぱなしにしていたことを思い出した。
(あ……、しまったな。もうあいつ、坊主じゃ無くなったんだし、返してもらえば良かった)
秋也の脳裏に、屏風山脈で見たウォンの坊主頭がよみがえる。
(にしても、あの時はひどかったなぁ、頭。あいつにとっちゃ、とんだ藪蛇だ。
本当、出会った時のあいつもオレも、バカだったよなぁ……。あいつは敵だ、戦うぞ、って。あいつと旅とか修行とかした今だから、あいつと仲いいけど、もしあの時、あいつと本気で殺し合いとかになってたら、絶対こんな風にあいつのコト考えたりなんて、……ん?)
そこまで想起したところで、秋也の頭に何か、引っかかるものがあった。
(殺し合っていたら、あいつと仲良くなるコトなんて絶対に無かった。戦っていたら、そうはならなかった。
戦わなかったら? 峠の下りで、その機会はあっただろ? でも、オレはなんか、あいつのコトが可哀想に思えて、だから普通に話しかけたら、……そう、ソレで今があるんだ。
じゃあ、『あいつ』とも戦わずに、……喧嘩を売りも買いもせずに、話しかけてみたらどうなったんだろうか? まさか仲良くなれる、……か?
いや……、『まさか』なんて、まさにオレとウォンじゃないか。会った当時、絶対仲良くなんてなれそうになかったんだ。あの時武器を向けず、帽子を貸してやったから、仲良くなれたんだ。
そうだ――思えばオレは、目の前に現れたヤツを、勝手に敵と決めつけて襲いかかったんだ。じゃあ、……そりゃ、迎え撃ってくるに決まってる。
ソレなのかな……? オレが戦わなければ、相手も戦おうとしなかったんだろうか)
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