「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・立秋抄 1
麒麟を巡る話、第45話。
帰郷、そして再試験。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦541年、10月中旬。
秋也は央南に戻ってきた。
「ども……」
昂子を送り届けたことを報告するため、橘喜新聞社の社長室に通された秋也は、デスクにかける小鈴に会釈した。
「ありがとね、秋也くん。おかげで助かったわ」
「いえ、そんな」
「にしても、久しぶりね。随分長くいたみたいだけど、何かあったの?」
「ええ、色々と」
「聞きたいトコなんだけど、……ま、ソレは後にした方がいいでしょうね。すぐ、向こうにいくつもりでしょ?」
「ええ」
その返事を受け、小鈴はじっと秋也を見つめてくる。
「……なんですか?」
「大変だったみたいね、色々。目つきが前に見た時と、全然違って見えるわ。
今なら、受かりそうね」
「そうですかね?」
一瞬、秋也は喜びかけるが、すぐに気を引き締める。その様子を見て、小鈴は苦笑した。
「……って、前回も晴奈が言っちゃったのよね。『お前なら絶対に受かるだろう』っつって」
「そう、ですね」
「でも今度は、あたしのお墨付きも一緒よ。前よりは大丈夫よ。多分」
「はは……」
秋也はそこで真面目な顔を作り、深く頭を下げた。
「ん?」
「この度は大変お世話になりました。ありがとうございます、小鈴さん」
「んふふ、どういたしまして。
じゃ、向こうでがっつり怒られてきなさいな」
「そうします。……それじゃ」
秋也はもう一度頭を下げ、社長室を後にした。
小鈴はその姿を座ったまま見送り――それから「あ」と声を上げた。
「昂子のコト、聞いてなかった。……ま、いいか。
あの子、案外神経図太いし。何とかやってんでしょ、きっと」
二日後、秋也は紅蓮塞に到着した。
「……はは……」
逃げ出してしまった負い目からか、いつもは頼もしく見えるその城塞も、今は恐ろしいものに感じてしまう。
「……よし」
それでも何とか覚悟を決め、秋也は門をそっと開いた。
「……」
開けるとそこには、厳しい表情を浮かべた小雪が立っているのが見えた。
「……」
秋也は自分に向けられたその雰囲気に耐えかね、門を閉めてしまった。
「……よくねえよ」
と、今度は向こうから門が開く。
「何してるの?」
より一層冷たく睨んできた小雪を見て、秋也はぶるっと震える。
「……はい」
しかし逃げるわけにもいかないので、秋也は恐る恐る、門を潜った。
「……で?」
秋也が塞内に入ったところで、小雪がもう一度、冷たい目を向けてくる。
「その……」
「その?」
弁解しようと一瞬ためらったが、秋也は覚悟を決めて座り込み、土下座した。
「……すみませんでした!」
「何が?」
「折角オレにかけていただいた恩義を仇で返した数々の所業、ここに誠心誠意、謝罪いたします! 誠に申し訳ありませんでした!」
一息にそう言い切り、秋也は地面に頭をこすりつけるようにして平伏す。
「頭を挙げなさい」
「……はい」
対する小雪は、依然として冷たい表情を崩さない。
「本来なら、あなたは破門されても文句の言えない状況にあるのよ? 試験に落第した挙句、方々逃げ回って恥をまき散らしたんだから。
それをただ、頭を下げるだけで許してもらえるなんて随分、都合のいい話ね」
「……」
「と、言いたいところだけど」
小雪は踵を返し、秋也に背を向けてこう続けた。
「流石に央南の名だたる名士たちから、『今一度、厚情を賜ってやってはくれないか』とお願いされて、それをわたしの個人的感情だけで反故にはできないわ。
だからこの一回で、きちんと落とし前をつけなさい、秋也」
「じゃ、じゃあ……」
「試験は今から。そのまま堂に上がり、前回と同じ試験を受けなさい」
「ありがとうございます!」
秋也は立ち上がり、頭を下げた。
その動作の、一瞬の合間に――小雪が自分に対して、さらに一層冷たい視線を向けていたことに、秋也は気付いていなかった。
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帰郷、そして再試験。
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1.
双月暦541年、10月中旬。
秋也は央南に戻ってきた。
「ども……」
昂子を送り届けたことを報告するため、橘喜新聞社の社長室に通された秋也は、デスクにかける小鈴に会釈した。
「ありがとね、秋也くん。おかげで助かったわ」
「いえ、そんな」
「にしても、久しぶりね。随分長くいたみたいだけど、何かあったの?」
「ええ、色々と」
「聞きたいトコなんだけど、……ま、ソレは後にした方がいいでしょうね。すぐ、向こうにいくつもりでしょ?」
「ええ」
その返事を受け、小鈴はじっと秋也を見つめてくる。
「……なんですか?」
「大変だったみたいね、色々。目つきが前に見た時と、全然違って見えるわ。
今なら、受かりそうね」
「そうですかね?」
一瞬、秋也は喜びかけるが、すぐに気を引き締める。その様子を見て、小鈴は苦笑した。
「……って、前回も晴奈が言っちゃったのよね。『お前なら絶対に受かるだろう』っつって」
「そう、ですね」
「でも今度は、あたしのお墨付きも一緒よ。前よりは大丈夫よ。多分」
「はは……」
秋也はそこで真面目な顔を作り、深く頭を下げた。
「ん?」
「この度は大変お世話になりました。ありがとうございます、小鈴さん」
「んふふ、どういたしまして。
じゃ、向こうでがっつり怒られてきなさいな」
「そうします。……それじゃ」
秋也はもう一度頭を下げ、社長室を後にした。
小鈴はその姿を座ったまま見送り――それから「あ」と声を上げた。
「昂子のコト、聞いてなかった。……ま、いいか。
あの子、案外神経図太いし。何とかやってんでしょ、きっと」
二日後、秋也は紅蓮塞に到着した。
「……はは……」
逃げ出してしまった負い目からか、いつもは頼もしく見えるその城塞も、今は恐ろしいものに感じてしまう。
「……よし」
それでも何とか覚悟を決め、秋也は門をそっと開いた。
「……」
開けるとそこには、厳しい表情を浮かべた小雪が立っているのが見えた。
「……」
秋也は自分に向けられたその雰囲気に耐えかね、門を閉めてしまった。
「……よくねえよ」
と、今度は向こうから門が開く。
「何してるの?」
より一層冷たく睨んできた小雪を見て、秋也はぶるっと震える。
「……はい」
しかし逃げるわけにもいかないので、秋也は恐る恐る、門を潜った。
「……で?」
秋也が塞内に入ったところで、小雪がもう一度、冷たい目を向けてくる。
「その……」
「その?」
弁解しようと一瞬ためらったが、秋也は覚悟を決めて座り込み、土下座した。
「……すみませんでした!」
「何が?」
「折角オレにかけていただいた恩義を仇で返した数々の所業、ここに誠心誠意、謝罪いたします! 誠に申し訳ありませんでした!」
一息にそう言い切り、秋也は地面に頭をこすりつけるようにして平伏す。
「頭を挙げなさい」
「……はい」
対する小雪は、依然として冷たい表情を崩さない。
「本来なら、あなたは破門されても文句の言えない状況にあるのよ? 試験に落第した挙句、方々逃げ回って恥をまき散らしたんだから。
それをただ、頭を下げるだけで許してもらえるなんて随分、都合のいい話ね」
「……」
「と、言いたいところだけど」
小雪は踵を返し、秋也に背を向けてこう続けた。
「流石に央南の名だたる名士たちから、『今一度、厚情を賜ってやってはくれないか』とお願いされて、それをわたしの個人的感情だけで反故にはできないわ。
だからこの一回で、きちんと落とし前をつけなさい、秋也」
「じゃ、じゃあ……」
「試験は今から。そのまま堂に上がり、前回と同じ試験を受けなさい」
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秋也は立ち上がり、頭を下げた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
そのどれでもなく、「蒼天剣」が終わってから「白猫夢」が始まるまでに新たに発生した怨恨です。
昔は可愛い子だったのに、小雪。
昔は可愛い子だったのに、小雪。
小雪さんの視線……トモエちゃん関係の遺恨ですか? 黒炎教団がらみの遺恨ですか? 天狐さんがらみの遺恨ですか?
それとも秋也くん、また試験に落ちるんですか?
だとしたら気の毒……。
それとも秋也くん、また試験に落ちるんですか?
だとしたら気の毒……。
- #1000 ポール・ブリッツ
- URL
- 2012.06/22 19:57
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