「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第1部
白猫夢・立秋抄 2
麒麟を巡る話、第46話。
秋也のいたずら心。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
伏鬼心克堂に通された秋也は、そのまま堂の中央まで進む。
「それじゃ、今から24時間よ」
「分かりました」
そのままぱたんと戸を閉め切られ、秋也は一人、堂に残る。
「……さあ、来てみろ」
秋也は座りもせず、直立したままの状態で、「彼女」が来るのを待った。
1時間もしないうちに、「彼女」は現れた。
「よお」
四ヶ月前に「彼女」を見た時は、秋也には絶望しか感じられなかった。
何故なら倒そうとするには、彼にとってあまりにも大き過ぎる存在だったからだ。
「……」
だが、今の秋也にはある考え、アイデアがあった。
「……」
「彼女」は一言も発さず、刀を構えている。
「……はは。そんなにさ、邪険にしないでくれよ」
対する秋也は刀を抜かず、諸手を挙げた形で鷹揚に構えている。
それを不快に思ったのか、それとも「彼女」は秋也を単なる敵としてしか認識していないのか――「彼女」は刀を振り上げ、秋也に斬りかかってきた。
「お、っと!」
初太刀を紙一重でかわし、秋也は「彼女」の腕を取った。
「……!」
「なあ、あんた。オレの知ってる人に、とっても似てるけど」
秋也は手刀を下ろし、「彼女」の刀を落とさせる。
「……!」
「ソレについて、話をしたいんだ」
秋也は床に落ちた刀を蹴って堂の端へ転がす。そして同時に脇差も抜いて投げ捨て、「彼女」の武装を解除した。
「オレは、あんたと戦いたくない。話が、したいんだよ」
「……」
「彼女」はとても困ったような顔をした。
秋也は動かなくなった「彼女」に、にこっと笑いかけてみた。
「……」
依然として困った様子を見せる「彼女」に、秋也はあれこれと話しかけてみる。
「まず、自己紹介からかな。オレの名前は黄秋也。多分あんたと同じ、焔流の剣士だ。今年で19歳。好きな食べ物は、魚料理なら何でも。嫌いなのは、ハーブの入ったヤツ。
なあ、あんたも座りなよ。上向いて話は、しにくいしさ」
「……」
気さくに話しかけてみるが、「彼女」は困った顔を緩めない。刀が飛んで行った方向を見たり、秋也を見たりと、落ち着かない様子を見せている。
「……話せないのかな。って言うか、元々そう言う場所じゃないんだろうな。
なあ、あんた。……その、知ってたらうなずいてほしいんだけどさ」
秋也はためらいがちに、「彼女」にこう尋ねてみた。
「昔、黄晴奈って人がここに来たの、知ってるか?」
「……」
すると――「彼女」はまだしかめ面ながらも、小さくうなずいた。
「あ、良かった、知ってたんだ。反応もしてくれるみたいだし」
「……」
「彼女」は身振り手振りで何かを伝えようとしてきた。
「えーと……?」
《わたし あなた 戦う》
そう解釈できたので、秋也は首を横に振った。
「悪いけど、あんたとじゃ戦えないよ。そんな格好してたら」
そう返すと、やはり「彼女」は困った顔をする。
「戦わないといけないのか?」
そう尋ねると、「彼女」はぶんぶんとうなずいてくる。
「一体、何のために? オレを倒したら、誰かからご褒美でももらえるのか?」
「……(否定)」
「じゃあ、何のためなんだ?」
「……(答えない)」
「ソレってさ、あんたの思い込みなんじゃないのか? 『武器を持ってるから戦う相手に違いない』とか、『自分は武器を持たされてここにいる以上、入ってきたヤツは叩きのめさないと』とかさ、そんな感じの。
何度も言うけど、オレはあんたと話がしたいから、戻ってきたんだ。戦うつもりなんか、まったく無い」
「……(困った顔)」
恐らくこの堂が造られて以来、秋也以外にそんな酔狂なことを言ってのけた者はいないのだろう――「彼女」はどうしていいか、分からないようだった。
「あ、ところであんた」
「……?」
「名前とか、あるのか?」
「……(否定)」
「ま、そりゃそうか。ここに来るヤツみんな、戦おうとするんだろうし。名前なんて聞かないだろうから、あっても意味無いか」
秋也の言葉に、「彼女」はそれを否定しかけ、慌ててばたばたと手を振った。
「……? え、戦おうとしないヤツもいるのか?」
「……」
「彼女」はもどかしそうな表情を浮かべていたが、やがて床に座り込み、つつ……、と指で文字を書き始めた。
《戦うことが剣士のすべてじゃない と ある人は答えた それがきっと 答え》
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秋也のいたずら心。
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伏鬼心克堂に通された秋也は、そのまま堂の中央まで進む。
「それじゃ、今から24時間よ」
「分かりました」
そのままぱたんと戸を閉め切られ、秋也は一人、堂に残る。
「……さあ、来てみろ」
秋也は座りもせず、直立したままの状態で、「彼女」が来るのを待った。
1時間もしないうちに、「彼女」は現れた。
「よお」
四ヶ月前に「彼女」を見た時は、秋也には絶望しか感じられなかった。
何故なら倒そうとするには、彼にとってあまりにも大き過ぎる存在だったからだ。
「……」
だが、今の秋也にはある考え、アイデアがあった。
「……」
「彼女」は一言も発さず、刀を構えている。
「……はは。そんなにさ、邪険にしないでくれよ」
対する秋也は刀を抜かず、諸手を挙げた形で鷹揚に構えている。
それを不快に思ったのか、それとも「彼女」は秋也を単なる敵としてしか認識していないのか――「彼女」は刀を振り上げ、秋也に斬りかかってきた。
「お、っと!」
初太刀を紙一重でかわし、秋也は「彼女」の腕を取った。
「……!」
「なあ、あんた。オレの知ってる人に、とっても似てるけど」
秋也は手刀を下ろし、「彼女」の刀を落とさせる。
「……!」
「ソレについて、話をしたいんだ」
秋也は床に落ちた刀を蹴って堂の端へ転がす。そして同時に脇差も抜いて投げ捨て、「彼女」の武装を解除した。
「オレは、あんたと戦いたくない。話が、したいんだよ」
「……」
「彼女」はとても困ったような顔をした。
秋也は動かなくなった「彼女」に、にこっと笑いかけてみた。
「……」
依然として困った様子を見せる「彼女」に、秋也はあれこれと話しかけてみる。
「まず、自己紹介からかな。オレの名前は黄秋也。多分あんたと同じ、焔流の剣士だ。今年で19歳。好きな食べ物は、魚料理なら何でも。嫌いなのは、ハーブの入ったヤツ。
なあ、あんたも座りなよ。上向いて話は、しにくいしさ」
「……」
気さくに話しかけてみるが、「彼女」は困った顔を緩めない。刀が飛んで行った方向を見たり、秋也を見たりと、落ち着かない様子を見せている。
「……話せないのかな。って言うか、元々そう言う場所じゃないんだろうな。
なあ、あんた。……その、知ってたらうなずいてほしいんだけどさ」
秋也はためらいがちに、「彼女」にこう尋ねてみた。
「昔、黄晴奈って人がここに来たの、知ってるか?」
「……」
すると――「彼女」はまだしかめ面ながらも、小さくうなずいた。
「あ、良かった、知ってたんだ。反応もしてくれるみたいだし」
「……」
「彼女」は身振り手振りで何かを伝えようとしてきた。
「えーと……?」
《わたし あなた 戦う》
そう解釈できたので、秋也は首を横に振った。
「悪いけど、あんたとじゃ戦えないよ。そんな格好してたら」
そう返すと、やはり「彼女」は困った顔をする。
「戦わないといけないのか?」
そう尋ねると、「彼女」はぶんぶんとうなずいてくる。
「一体、何のために? オレを倒したら、誰かからご褒美でももらえるのか?」
「……(否定)」
「じゃあ、何のためなんだ?」
「……(答えない)」
「ソレってさ、あんたの思い込みなんじゃないのか? 『武器を持ってるから戦う相手に違いない』とか、『自分は武器を持たされてここにいる以上、入ってきたヤツは叩きのめさないと』とかさ、そんな感じの。
何度も言うけど、オレはあんたと話がしたいから、戻ってきたんだ。戦うつもりなんか、まったく無い」
「……(困った顔)」
恐らくこの堂が造られて以来、秋也以外にそんな酔狂なことを言ってのけた者はいないのだろう――「彼女」はどうしていいか、分からないようだった。
「あ、ところであんた」
「……?」
「名前とか、あるのか?」
「……(否定)」
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麒麟を巡る話、第46話。秋也のいたずら心。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. 伏鬼心克堂に通された秋也は、そのまま堂の中央まで進む。「それじゃ、今から24時間よ」「分かりました」 そのままぱたんと戸を閉め切られ、秋也は一人、堂に残る。「……さあ?...
- from まとめwoネタ速neo
- at 2012.06.24 03:40
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しやたんのおかげでいいアイデアが浮かびました。
まんまお持ち帰り、とはしませんが。