「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・起点抄 1
麒麟を巡る話、第51話。
白猫との出会い。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
《く、ふふっ》
目の前に立つ白い「猫」は、秋也を見て笑っている。
「なっ、……誰だ、あんた!?」
慌てて飛び起きる秋也に、「猫」はさらに笑い転げる。
《くふっ、くふ、くふふ……。いや、いや。そんなに慌てなくていいよ、シュウヤ》
「あ……? オレを、知ってるのか?」
《ああ、知ってるよ。四ヶ月、テンコちゃんのトコで頑張ってたコトも、一度は試験に落ちたけど、ちゃんと合格できたってコトもね》
「……?」
得体の知れない相手に、秋也は一歩退いて警戒する。
《そんなに怪しがらなくてもいいんだってば。
ボクはね、シュウヤ。キミにいいコトを教えるために来たんだよ》
「なんだって?」
猫獣人はクスクス笑いながら近寄り、秋也の鼻先へピンと、人差し指を差して見せた。
《キミを英雄にしてあげる》
「英雄? ……だと?」
《そう、英雄。キミのお母さんのような、世界に名を轟かせる、そんな英雄に》
「……ワケ分かんね」
秋也はこれが夢なのだろうと、うっすらとではあるが感じていた。
「頬でもつねるか。こんなワケ分からん夢、見てても面白くないし」
《えい》
と、それを聞いた「猫」の方から、秋也の猫耳をぎりぎりとつねってきた。
「あいでででででっ、やめっ、やめろっ!」
《どう? 目、覚めるかい?》
「……ぐっ」
「猫」から手を離され、秋也はじんじんと痛む猫耳をさすっていたが、一向に夢から覚める様子は無い。
《ボクの見せる夢は、コレくらいじゃ覚めないのさ。
さあ、シュウヤ。真面目にボクの話をお聞き。キミにとってすごく耳寄りな、いい話なんだからね》
「……分かったよ」
秋也は諦め、その場に座り込んだ。
「その前にさ、ちょっと聞きたいんだけど」
《何をかな?》
「あんた、名前は何て言うんだ? オレの名前を呼ばれるばっかりじゃ、不公平だろ? そっちも教えてくれるのが筋じゃないのか?」
《分かってないなぁ、シュウヤ》
秋也の問いに、「猫」はやれやれと言いたげに肩をすくめ、首を振って見せた。
《キミはボクに対して、何もできない。この時点で公平じゃ、無いよね? まさかボクがキミの言うコト、聞くとでも?》
「な……」
《相手によっちゃ公平に接してくれるだろうけど、残念ながらボクは公平主義がキライなんだ。
だからさ、シュウヤ。ボクはキミにアレコレ言って聞かせるけど、キミが何か言ったって、ボクが全うに、当然至極に答えるだなんて、思わないでよ?》
「……」
話の通じない相手と悟り、秋也は口をつぐむしかなかった。
秋也が黙り込んだところで、「猫」は話を続けた。
《まあ、ボクについては呼びたいように呼べばいい。白猫とでも、銀猫とでもさ。
ソレよりも本題だけど、キミ、コレから予定はある? 西方に行って、何かしようって思ってる?》
「いや……、特には、何も」
まだ憮然とするものを感じてはいたが、秋也はとりあえず話に応じた。
《そりゃいい。なら尚更、ボクの言うコトに従った方がいい。
キミが到着する港は西方の玄関口、ブリックロードってトコなんだけど、ソコである仕事をやってくれるヤツを募集してるんだ》
「ある仕事?」
《簡単に言えば、運び屋さ。そいつらに声をかけて、ソレに付いていくんだ。
ま、最初は断られるだろうけどね。でも諦めず、『自分を使ってほしい』って頼み込むんだ》
「なんで? オレがなんでそんなコト、しなきゃならないんだ?」
当然湧いた、秋也のその疑問に対し、白猫はフン、と鼻を鳴らした。
《二度も言わせるなよ、シュウヤ。ボクがキミの質問に答える義務も、キミが質問する権利も、ボクは認めないよ。
とにかくやるんだ、シュウヤ。分かった?》
「いや、そんなムチャクチャな話……」《わ、か、っ、た!? そう聞いてるんだよ、ボクが!》
あまりにも剣呑で、かつ、有無を言わせないその剣幕に、秋也はうなずくしかなかった。
「……分かったよ。やるだけやるよ、やれって言うなら」
《よろしい。
ではいい旅を、シュウヤ》
白猫がそう言った瞬間、秋也の意識は途切れ――。
「……ん、がっ?」
船室のベッドから、転がり落ちていた。
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《く、ふふっ》
目の前に立つ白い「猫」は、秋也を見て笑っている。
「なっ、……誰だ、あんた!?」
慌てて飛び起きる秋也に、「猫」はさらに笑い転げる。
《くふっ、くふ、くふふ……。いや、いや。そんなに慌てなくていいよ、シュウヤ》
「あ……? オレを、知ってるのか?」
《ああ、知ってるよ。四ヶ月、テンコちゃんのトコで頑張ってたコトも、一度は試験に落ちたけど、ちゃんと合格できたってコトもね》
「……?」
得体の知れない相手に、秋也は一歩退いて警戒する。
《そんなに怪しがらなくてもいいんだってば。
ボクはね、シュウヤ。キミにいいコトを教えるために来たんだよ》
「なんだって?」
猫獣人はクスクス笑いながら近寄り、秋也の鼻先へピンと、人差し指を差して見せた。
《キミを英雄にしてあげる》
「英雄? ……だと?」
《そう、英雄。キミのお母さんのような、世界に名を轟かせる、そんな英雄に》
「……ワケ分かんね」
秋也はこれが夢なのだろうと、うっすらとではあるが感じていた。
「頬でもつねるか。こんなワケ分からん夢、見てても面白くないし」
《えい》
と、それを聞いた「猫」の方から、秋也の猫耳をぎりぎりとつねってきた。
「あいでででででっ、やめっ、やめろっ!」
《どう? 目、覚めるかい?》
「……ぐっ」
「猫」から手を離され、秋也はじんじんと痛む猫耳をさすっていたが、一向に夢から覚める様子は無い。
《ボクの見せる夢は、コレくらいじゃ覚めないのさ。
さあ、シュウヤ。真面目にボクの話をお聞き。キミにとってすごく耳寄りな、いい話なんだからね》
「……分かったよ」
秋也は諦め、その場に座り込んだ。
「その前にさ、ちょっと聞きたいんだけど」
《何をかな?》
「あんた、名前は何て言うんだ? オレの名前を呼ばれるばっかりじゃ、不公平だろ? そっちも教えてくれるのが筋じゃないのか?」
《分かってないなぁ、シュウヤ》
秋也の問いに、「猫」はやれやれと言いたげに肩をすくめ、首を振って見せた。
《キミはボクに対して、何もできない。この時点で公平じゃ、無いよね? まさかボクがキミの言うコト、聞くとでも?》
「な……」
《相手によっちゃ公平に接してくれるだろうけど、残念ながらボクは公平主義がキライなんだ。
だからさ、シュウヤ。ボクはキミにアレコレ言って聞かせるけど、キミが何か言ったって、ボクが全うに、当然至極に答えるだなんて、思わないでよ?》
「……」
話の通じない相手と悟り、秋也は口をつぐむしかなかった。
秋也が黙り込んだところで、「猫」は話を続けた。
《まあ、ボクについては呼びたいように呼べばいい。白猫とでも、銀猫とでもさ。
ソレよりも本題だけど、キミ、コレから予定はある? 西方に行って、何かしようって思ってる?》
「いや……、特には、何も」
まだ憮然とするものを感じてはいたが、秋也はとりあえず話に応じた。
《そりゃいい。なら尚更、ボクの言うコトに従った方がいい。
キミが到着する港は西方の玄関口、ブリックロードってトコなんだけど、ソコである仕事をやってくれるヤツを募集してるんだ》
「ある仕事?」
《簡単に言えば、運び屋さ。そいつらに声をかけて、ソレに付いていくんだ。
ま、最初は断られるだろうけどね。でも諦めず、『自分を使ってほしい』って頼み込むんだ》
「なんで? オレがなんでそんなコト、しなきゃならないんだ?」
当然湧いた、秋也のその疑問に対し、白猫はフン、と鼻を鳴らした。
《二度も言わせるなよ、シュウヤ。ボクがキミの質問に答える義務も、キミが質問する権利も、ボクは認めないよ。
とにかくやるんだ、シュウヤ。分かった?》
「いや、そんなムチャクチャな話……」《わ、か、っ、た!? そう聞いてるんだよ、ボクが!》
あまりにも剣呑で、かつ、有無を言わせないその剣幕に、秋也はうなずくしかなかった。
「……分かったよ。やるだけやるよ、やれって言うなら」
《よろしい。
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