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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・起点抄 2

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    麒麟を巡る話、第52話。
    煉瓦造りの港町。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     秋也を乗せて央南、黄海の街を発った船は、それから一ヶ月ほどで西方の玄関口と言われる港町、ブリックロードに到着した。

    「なんか……、潮の香りに混じって……」
     港に降り立った秋也の鼻が、海の雰囲気ともう一つ、土の焼ける匂いを感じ取る。
    「……ああ、だから『ブリックロード(煉瓦道)』か」
     辺りを軽く見まわし、秋也はその匂いの正体と、街の名前の由来に気付いた。
     各所に煉瓦で作られた建築物が立ち並び、また、港を行き交う積荷やコンテナにも、煉瓦が山積みになっている。
     さらに港から街に向かう道のあちこちに、もうもうと煙を吐き出す煉瓦工場が立ち並んでおり、秋也の歩いているその道にまでも、煉瓦が敷き詰められている。
     どこを見渡しても、赤褐色の無い場所は無かった。
    「煉瓦の一大産地なんだな」
     秋也は一休みしようと、これまた煉瓦がびっしりと並べられた広場の一角にある椅子に――勿論、煉瓦造りである――座り込む。
    「流石に食べ物まで煉瓦、……なんてあるワケないか」
     そんな風に冗談を一人、こぼしていると――。
    「あるぜ」
    「えっ」
     横に座り込んだ茶色い耳の、赤毛の兎獣人が――その色合いは、まさに煉瓦である――ニヤリと笑って応じてきた。
     ちなみに西方は、人口の九割以上が兎獣人で構成されている。秋也のような猫獣人や、中央大陸では平均的に分布して見られる短耳・長耳も、ここでは少数派である。
    「ほら、あの炉端焼き」
    「え? アレ? ……マジで煉瓦、食ってんのか?」
     尋ねた秋也に、兎獣人はゲラゲラと笑い転げる。
    「いや、いや、俺の央中語のヒアリングが悪かったな、ごめんごめん。
     煉瓦を食うんじゃなくて、熱した煉瓦の上で焼いたのを食ってるんだ。鉄板焼きならぬ煉瓦焼きだな」
    「ああ、そっか、そうだよな。……ビックリしたぜ」
    「ところでお兄ちゃん、旅の人かい? ここいらにゃいない耳と顔をしてるが」
     気さくに尋ねてきた兎獣人に、秋也も笑って返す。
    「ああ、そうなんだ。まだこっちに着いたばかりで、あんまり西方語も良く解ってないんだけど……」
    「簡単さ。ちょっと気取ってしゃべってりゃ、そのうちペラペラさ」
     そう言いながらポーズを取って見せる兎獣人に、秋也はクスクスと笑う。
    「はは……、こうかな?」
     秋也も真似して、ポーズを取ってみる。
    「あはは、そうそう、それそれ」
    「こう?」
    「いや、こう」
    「こうか」
    「こんな風に」
    「こうっ」
    「それそれ、ぎゃははは……」
    「あはははは……」
     基本的にのんきな秋也は、兎獣人と一緒に笑い転げていた。



     ひとしきり笑ったところで兎獣人と別れた秋也は、白猫に会った夢のことを思い出していた。
    (運び屋、……ねぇ)
     それらしいものが無いかあちこち見て回るが、一向に見付からない。
     そこで秋也は、天狐から教わった「類推思考」に頼ってみることにした。
    (運び屋ってコトだから、当然、モノを運ぶワケだ。港町、……いや、煉瓦造りの街から運ぶモノって言えば、やっぱり煉瓦なワケで。
     逆に言えば、煉瓦を運んでるヤツの中に、いわゆる『運び屋』関係もいるんじゃねーかな……?)
     そう考え、秋也は港に戻ろうとした。
     と――まさにその、港の方角から、煉瓦を積んだ荷車がやって来る。そして荷車はそのまま、秋也の横を通り過ぎて行った。
    「……付いて行ってみるかな」
     秋也はゴトゴトと音を立て、往来を突っ切っていく荷車の後を追いかけることにした。
     荷車は街のあちこちで止まり、その都度街の者と会話を交わし、煉瓦を売っている。どうやら普通の周り売りらしい。
    (ありゃ、ハズレかな)
     そう思いつつも、他に当ても無いため、秋也は後を追いかける。
     すると積荷が半分になった辺りで、いかつい姿の短耳二人が煉瓦売りに近付いてきた。

    「おい、そこの」
     黒髪の、中年手前くらいの短耳が、やや横柄な態度で煉瓦売りを呼び止める。
    「へえ、なんでやしょ」
    「その煉瓦、いくらだ?」
     と、今度は頭を丸めた方の、相方よりは大分賢そうな、壮年の短耳が尋ねる。
    「キロ売りで、25キューです」
    「後、どれくらい残っている?」
    「ええと……、大体、50個くらいは」
    「他には無いのか?」
    「倉庫にはあと、300個か、もうちょっとはありやすよ」
    「あるだけ買う。いくらになる?」
    「あるだけ? え、本当に?」
    「我々が嘘を付くと言うのか!」
     憤慨する黒髪に、煉瓦売りは「ひゃ」と短い悲鳴を上げ、兎耳を震わせる。
    「こら、威嚇するな。……いや、失敬、失敬。
     我々の国で建築のため、少しばかり大量に買い付けを命じられてな。少なくとも1000個以上、できるようなら買えるだけ買い付けてくるようにと仰せつかっていてな」
    「はあ……、なるほど。えーと、じゃあ、わしの知り合いにも頼んで、煉瓦をご用意させていただきますですが、どうでやしょ?」
    「うむ、助かる。では今から頼めるか?」
    「はい、喜んで! あ、どこに運びやしょ?」
    「街外れに、我々の仲間が集まっているところがある。『シャルル・ロガンから託った』と言えば応じてくれる」
    「はい、承りました! じゃ、早速!」
     そう言うなり煉瓦売りは、ゴトゴトと荷車を引っ張って走り去っていった。
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    まだ英雄でも何でもないひよっこなので、言われたことは何でも聞かなきゃいけない身です。

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    レンガ運びを手伝う英雄かv-283
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