「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・起点抄 3
麒麟を巡る話、第53話。
真面目将軍とワイン漬けマスター。
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3.
「あんなじいさんに頼んで本当に大丈夫でしょうか、閣下?」
煉瓦売りが見えなくなったところで、黒髪の方の短耳がそうこぼす。
「心配あるまい。私が見たところ、質は悪くなさそうだった。仮にあの翁とそのツテから1000個集められるとして、2万5千くらいとなれば予算よりは大分安く上がる。
他の班もそろそろ、買い付けを終えるところだろう。後は帝国に、確実に運ぶ方法を考えるだけだ」
(帝国?)
隠れて様子を伺っていた秋也は、その穏やかならぬ単語を聞き、猫耳をピク、と揺らす。
「それなら先程、それ関係を請け負う奴らがたむろする場所を見つけています。多少柄は悪いようですが、如何せん、あの街道を突破することを考えれば……」
「多少気の荒い方が集まった方が乗り切れるやも、か。
よし、そこに向かうとしよう。案内を頼む、サンデル」
「御意」
二人は並んで、その場を後にする。
秋也もこっそり、二人の後を付いて行くことにした。
シャルル・ロガンと名乗っていた短耳、そしてサンデルと呼ばれていた短耳二人は、寂れた裏通りに入る。
「ここか?」
「情報によれば」
二人は店の看板が半分朽ちた酒場の前で立ち止まり、中を覗き込む。
「……ふむ」
どうやら誰かがいたらしく、そのまま二人は中に入った。
秋也も店の入り口にそっと立ち、中の様子を覗き見る。
「失礼。私はグリスロージュ帝国の将軍、シャルル・ロガンと言う者だ。貴君らに頼みたいことがあって参った次第である」
「あ~……?」
いかにも場末の酒場に似合いそうな、酒に浸かったならず者たちが、ふらふらと顔を上げる。
「貴君らには、帝国までの荷運びをやってもらいたい。報酬は弾むが、請け負ってくれるか?」
「グリスロージュ帝国、ってぇ、……あの……、西方三国を喰ってるって言う……」
誰かがつぶやいたその言葉に、ロガン卿は小さくうなずく。
「如何にも。我々側の言葉で言えば、その三国を平和裏に統合、統一せんとする正統なる国家である。
それ故、我が国は今まさに飛ぶ鳥を落とす勢い、日に日に勢力圏を拡大しつつある強大な国家であり、その分報酬の払いも非常に良いものであることを約束する」
「……ちょっとぉ、……聞くっけどさぁ~」
カウンターに突っ伏していた、白毛に銀のピアスをごてごてと付けた、あまり真っ当な生き方をしていなさそうな店主らしき兎獣人が、のろのろと真っ赤な顔を上げる。
「陸路で行く気かぃ~……? それともぉ……、海路でかぃ~……?」
「……陸路の予定だ」
「あはぁ、やっぱりなぁ~……」
それを聞いた店主は、ゲラゲラと笑い出した。
「いひ、ひっひっひ……、最近の帝国さんはよぉ~……、とてもじゃないがぁ~……、船なんか出せやぁしないもんなぁ~……」
「我々を愚弄するかっ!」
サンデルが猛るが、ロガン卿はそれを無言で手を払い、制する。
「耳が痛い限りであるな。その様子であれば、我々の窮状も察していただけよう」
「おう、おう、おぅ~……」
店主は兎耳をふらふらと揺らしながらうなずき、こう返す。
「なんだっけぇ~……、あの、あれ、あれだ、……あ~、プラティノアール王国からのよぉ~……、海上封鎖をまともに受けちまってよぉ~……、物資供給が全っ然できないってよぉ~……、うわさになってるよなぁ~……」
「その通りだ。それ故、陸路での物資運搬が現在、我々の生命線となっているのだ。
ここからが依頼内容となるのだが、よろしいか?」
「よろしい、よろしいよぉ~」
店主はこくり、こくりと、うたた寝をするかのようにうなずく。
「……本当によろしいか?」
「よろしくともぉ~」
ロガン卿は苦い顔をし、一瞬黙り込んだが、やがて口を開いた。
「現在、我々は軍事物資をブリックロード他、このマチェレ王国各所より買い付け、集積しているところだ。
その軍事物資を我々の帝国、グリスロージュの首都、カプラスランドまで運搬してほしい」
「はぁ~……、なるほどねぇ~……」
そう応じてはきたが、店主は半分ほど酒の残った瓶を撫でるばかりで、それ以上答えない。
たまりかねたらしく、サンデルが声を荒げてきた。
「どうなんだ!? やるのか、やらないのか!?」
「……もういっこぉ、……聞くっけどよぉ~」
と、店主は瓶に残っていた酒を呷りながら質問する。
「このマチェレ王国からよぉ~……、将軍さんらのグリスロージュ帝国までよぉ~……、行くってぇなるとよぉ~……。
途中で絶対にさぁ~……、あの、あれだ、あそこ、あの街道をよぉ~……、通らなくちゃならないよねぇ~……?」
「……っ」
「やっぱりだねぇ~……」
店主はふらふらとした足取りで立ち上がり、壁に貼ってある地図をへろへろと指差した。
「西方三国だった時代からさぁ~……、この北の方の山はよぉ~……、険しすぎて荷物なんか運べないしよぉ~……、となると道って言やぁ、このぉ~……」
そして店主が指差した地名を見た二人は、揃って顔をしかめた。
「プラティノアール王国の領地を横断してるよぉ~……、『ブリック―マーブル街道』をさぁ~……、突っ切っていかなきゃならなくなるよねぇ~……」
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真面目将軍とワイン漬けマスター。
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「あんなじいさんに頼んで本当に大丈夫でしょうか、閣下?」
煉瓦売りが見えなくなったところで、黒髪の方の短耳がそうこぼす。
「心配あるまい。私が見たところ、質は悪くなさそうだった。仮にあの翁とそのツテから1000個集められるとして、2万5千くらいとなれば予算よりは大分安く上がる。
他の班もそろそろ、買い付けを終えるところだろう。後は帝国に、確実に運ぶ方法を考えるだけだ」
(帝国?)
隠れて様子を伺っていた秋也は、その穏やかならぬ単語を聞き、猫耳をピク、と揺らす。
「それなら先程、それ関係を請け負う奴らがたむろする場所を見つけています。多少柄は悪いようですが、如何せん、あの街道を突破することを考えれば……」
「多少気の荒い方が集まった方が乗り切れるやも、か。
よし、そこに向かうとしよう。案内を頼む、サンデル」
「御意」
二人は並んで、その場を後にする。
秋也もこっそり、二人の後を付いて行くことにした。
シャルル・ロガンと名乗っていた短耳、そしてサンデルと呼ばれていた短耳二人は、寂れた裏通りに入る。
「ここか?」
「情報によれば」
二人は店の看板が半分朽ちた酒場の前で立ち止まり、中を覗き込む。
「……ふむ」
どうやら誰かがいたらしく、そのまま二人は中に入った。
秋也も店の入り口にそっと立ち、中の様子を覗き見る。
「失礼。私はグリスロージュ帝国の将軍、シャルル・ロガンと言う者だ。貴君らに頼みたいことがあって参った次第である」
「あ~……?」
いかにも場末の酒場に似合いそうな、酒に浸かったならず者たちが、ふらふらと顔を上げる。
「貴君らには、帝国までの荷運びをやってもらいたい。報酬は弾むが、請け負ってくれるか?」
「グリスロージュ帝国、ってぇ、……あの……、西方三国を喰ってるって言う……」
誰かがつぶやいたその言葉に、ロガン卿は小さくうなずく。
「如何にも。我々側の言葉で言えば、その三国を平和裏に統合、統一せんとする正統なる国家である。
それ故、我が国は今まさに飛ぶ鳥を落とす勢い、日に日に勢力圏を拡大しつつある強大な国家であり、その分報酬の払いも非常に良いものであることを約束する」
「……ちょっとぉ、……聞くっけどさぁ~」
カウンターに突っ伏していた、白毛に銀のピアスをごてごてと付けた、あまり真っ当な生き方をしていなさそうな店主らしき兎獣人が、のろのろと真っ赤な顔を上げる。
「陸路で行く気かぃ~……? それともぉ……、海路でかぃ~……?」
「……陸路の予定だ」
「あはぁ、やっぱりなぁ~……」
それを聞いた店主は、ゲラゲラと笑い出した。
「いひ、ひっひっひ……、最近の帝国さんはよぉ~……、とてもじゃないがぁ~……、船なんか出せやぁしないもんなぁ~……」
「我々を愚弄するかっ!」
サンデルが猛るが、ロガン卿はそれを無言で手を払い、制する。
「耳が痛い限りであるな。その様子であれば、我々の窮状も察していただけよう」
「おう、おう、おぅ~……」
店主は兎耳をふらふらと揺らしながらうなずき、こう返す。
「なんだっけぇ~……、あの、あれ、あれだ、……あ~、プラティノアール王国からのよぉ~……、海上封鎖をまともに受けちまってよぉ~……、物資供給が全っ然できないってよぉ~……、うわさになってるよなぁ~……」
「その通りだ。それ故、陸路での物資運搬が現在、我々の生命線となっているのだ。
ここからが依頼内容となるのだが、よろしいか?」
「よろしい、よろしいよぉ~」
店主はこくり、こくりと、うたた寝をするかのようにうなずく。
「……本当によろしいか?」
「よろしくともぉ~」
ロガン卿は苦い顔をし、一瞬黙り込んだが、やがて口を開いた。
「現在、我々は軍事物資をブリックロード他、このマチェレ王国各所より買い付け、集積しているところだ。
その軍事物資を我々の帝国、グリスロージュの首都、カプラスランドまで運搬してほしい」
「はぁ~……、なるほどねぇ~……」
そう応じてはきたが、店主は半分ほど酒の残った瓶を撫でるばかりで、それ以上答えない。
たまりかねたらしく、サンデルが声を荒げてきた。
「どうなんだ!? やるのか、やらないのか!?」
「……もういっこぉ、……聞くっけどよぉ~」
と、店主は瓶に残っていた酒を呷りながら質問する。
「このマチェレ王国からよぉ~……、将軍さんらのグリスロージュ帝国までよぉ~……、行くってぇなるとよぉ~……。
途中で絶対にさぁ~……、あの、あれだ、あそこ、あの街道をよぉ~……、通らなくちゃならないよねぇ~……?」
「……っ」
「やっぱりだねぇ~……」
店主はふらふらとした足取りで立ち上がり、壁に貼ってある地図をへろへろと指差した。
「西方三国だった時代からさぁ~……、この北の方の山はよぉ~……、険しすぎて荷物なんか運べないしよぉ~……、となると道って言やぁ、このぉ~……」
そして店主が指差した地名を見た二人は、揃って顔をしかめた。
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襲われない方が不思議ですね。