「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・起点抄 4
麒麟を巡る話、第54話。
危険な荷運び。
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4.
店主の指摘に、ロガン卿もサンデルも苦い顔をして黙り込む。
「おやあ~……? まさかあんた方よぉ~……、しれーっとそれ、黙って依頼しようなんてぇ~……、思ってたりしたのかなぁ~……?」
「い、いや、それは……」
取り繕おうとするサンデルを制し、ロガン卿が弁解する。
「貴君の言う通り、確かに我々はあえてその件に触れなかった。
と言うのも、道と事情に詳しい貴君らであればそのルートには触れず、別のルートを紹介してくれるのではないかと期待したからだ」
「モノは言いようだねぇ~……」
「しかし残念ながら、貴君らもブリック―マーブル街道以外のルートは存じておらんようだな」
「そりゃあまあ、ねぇ~……。我々は自由と平和と煉瓦の焼ける香りと、ちょっとばかしのお金とワインをこよなく愛する、健全なマチェレ国民だもんなぁ~……」
「堕落と言うのだ、それは!」
サンデルが猛るが、店主は意に介さない。
「そりゃあまあ、毎日戦争でお忙しい帝国民さんらにとっちゃあよぉ~……、俺たちの暮らしはそりゃもう、怠惰なもんだと思うんだろうけれっどもよぉ~……。
しかしだよ、薬缶みたいな髪形のお兄さんよぉ~……。毎日酒が飲めて、毎日働こうと思えば働き口がいくらでもある、こーんないい街によぉ~……、そんなキナ臭くて堅っ苦しい主義主張なんぞ、持ち込むのが野暮ってもんだろぉ~……?」
「ふざけるなッ、誰が薬缶だ、誰が!」
今にも頭から湯気を噴き出しそうなサンデルを、ロガン卿がたしなめる。
「その辺にしておけ。我々は国民性の是非を討議しに来たわけでは無いのだ。
話を戻すが、やはりブリック―マーブルを通るしか無いわけだな」
「そうなるねぇ~……」
「では、不可能だろうか? 街道を通り、かつ、軍事物資を帝国に届ける、と言う計画を実行するのは」
「難しいねぇ~……。なにせプラティノアール王国じゃ、あっちこっちに兵隊さんらが網を張ってるもんねぇ~……。何が何でも帝国さんをとっちめてやろうってお国だしさぁ~……、間違いなく襲われるねぇ~……」
「そうか……。分かった、邪魔したな」
そう言って、ロガン卿は酒場を去ろうとした。
が――。
「ああ、ちょっと待ちなぁ~……、ロガンの旦那さんよぉ~……」
「うん?」
「難しいって言ったが、無理とは言ってないよぉ~……」
「ほう」
返しかけた踵を戻し、ロガン卿は詳しく尋ねる。
「何か策があるのか?」
「まあ、100%襲われるってのから、50%くらいにはできるかなってのがねぇ~……」
「と言うと?」
「簡単だよ、囮を使うのさぁ~……」
「確かに偽の荷車を用意し二手に分かれれば、物資を取られる危険は半分になるのが道理だ。だが相手の軍勢もそう、少なくない。両方を襲われることもあるではないか」
「そうだろうねぇ~……。一つ拿捕して、その後でもう一つ、似たような奴らを見つけたら、拿捕しようって思うだろうねぇ~……」
「なんだ、馬鹿馬鹿しい!」
吐き捨てるようにそう言ったサンデルに、店主がにやあっと笑いかける。
「でもさぁ~……、二つ拿捕して、王国軍さんがそいつらを連行したらさぁ~……、街道はガラ空きになるんじゃないかなぁ~……?
いくらなんでも怪しいのが一個、二個通り過ぎた後、さらにもう一個来るなんてよぉ~……、思いもしないんじゃないかなぁ~……」
「なるほど。二重に囮を仕掛け、それに手を取られた隙を突き、本命を行かせるわけだな。
となると、大分人手が必要になりそうだが……」
「50人は用意できるよぉ~……。一人当たり、一日2600キューでぇ~……、危険手当と死亡補償としてぇ~……、それぞれ20000、80000でぇ~……、どうかなぁ~……?」
「……手当に関しては、その額で構わん。しかしカプラスランドまでは、早くとも2週間を要する道のりとなる。50人雇うとなれば、総額200万キュー近くになってしまう。もう少し、安くはなるまいか?」
「嫌って言うなら、ウチは手を引かしてもらうよぉ~……。
ウチだって抱えてる人材にさぁ~……、もしものことがあったら困るんだからさぁ~……。支払いはちゃんとしてもらわないとねぇ~……」
店主の要求に、ロガン卿はしばらく渋い顔を向けていたが、やがて折れた。
「……分かった。その額で頼もう」
「毎度ありぃ~……」
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危険な荷運び。
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4.
店主の指摘に、ロガン卿もサンデルも苦い顔をして黙り込む。
「おやあ~……? まさかあんた方よぉ~……、しれーっとそれ、黙って依頼しようなんてぇ~……、思ってたりしたのかなぁ~……?」
「い、いや、それは……」
取り繕おうとするサンデルを制し、ロガン卿が弁解する。
「貴君の言う通り、確かに我々はあえてその件に触れなかった。
と言うのも、道と事情に詳しい貴君らであればそのルートには触れず、別のルートを紹介してくれるのではないかと期待したからだ」
「モノは言いようだねぇ~……」
「しかし残念ながら、貴君らもブリック―マーブル街道以外のルートは存じておらんようだな」
「そりゃあまあ、ねぇ~……。我々は自由と平和と煉瓦の焼ける香りと、ちょっとばかしのお金とワインをこよなく愛する、健全なマチェレ国民だもんなぁ~……」
「堕落と言うのだ、それは!」
サンデルが猛るが、店主は意に介さない。
「そりゃあまあ、毎日戦争でお忙しい帝国民さんらにとっちゃあよぉ~……、俺たちの暮らしはそりゃもう、怠惰なもんだと思うんだろうけれっどもよぉ~……。
しかしだよ、薬缶みたいな髪形のお兄さんよぉ~……。毎日酒が飲めて、毎日働こうと思えば働き口がいくらでもある、こーんないい街によぉ~……、そんなキナ臭くて堅っ苦しい主義主張なんぞ、持ち込むのが野暮ってもんだろぉ~……?」
「ふざけるなッ、誰が薬缶だ、誰が!」
今にも頭から湯気を噴き出しそうなサンデルを、ロガン卿がたしなめる。
「その辺にしておけ。我々は国民性の是非を討議しに来たわけでは無いのだ。
話を戻すが、やはりブリック―マーブルを通るしか無いわけだな」
「そうなるねぇ~……」
「では、不可能だろうか? 街道を通り、かつ、軍事物資を帝国に届ける、と言う計画を実行するのは」
「難しいねぇ~……。なにせプラティノアール王国じゃ、あっちこっちに兵隊さんらが網を張ってるもんねぇ~……。何が何でも帝国さんをとっちめてやろうってお国だしさぁ~……、間違いなく襲われるねぇ~……」
「そうか……。分かった、邪魔したな」
そう言って、ロガン卿は酒場を去ろうとした。
が――。
「ああ、ちょっと待ちなぁ~……、ロガンの旦那さんよぉ~……」
「うん?」
「難しいって言ったが、無理とは言ってないよぉ~……」
「ほう」
返しかけた踵を戻し、ロガン卿は詳しく尋ねる。
「何か策があるのか?」
「まあ、100%襲われるってのから、50%くらいにはできるかなってのがねぇ~……」
「と言うと?」
「簡単だよ、囮を使うのさぁ~……」
「確かに偽の荷車を用意し二手に分かれれば、物資を取られる危険は半分になるのが道理だ。だが相手の軍勢もそう、少なくない。両方を襲われることもあるではないか」
「そうだろうねぇ~……。一つ拿捕して、その後でもう一つ、似たような奴らを見つけたら、拿捕しようって思うだろうねぇ~……」
「なんだ、馬鹿馬鹿しい!」
吐き捨てるようにそう言ったサンデルに、店主がにやあっと笑いかける。
「でもさぁ~……、二つ拿捕して、王国軍さんがそいつらを連行したらさぁ~……、街道はガラ空きになるんじゃないかなぁ~……?
いくらなんでも怪しいのが一個、二個通り過ぎた後、さらにもう一個来るなんてよぉ~……、思いもしないんじゃないかなぁ~……」
「なるほど。二重に囮を仕掛け、それに手を取られた隙を突き、本命を行かせるわけだな。
となると、大分人手が必要になりそうだが……」
「50人は用意できるよぉ~……。一人当たり、一日2600キューでぇ~……、危険手当と死亡補償としてぇ~……、それぞれ20000、80000でぇ~……、どうかなぁ~……?」
「……手当に関しては、その額で構わん。しかしカプラスランドまでは、早くとも2週間を要する道のりとなる。50人雇うとなれば、総額200万キュー近くになってしまう。もう少し、安くはなるまいか?」
「嫌って言うなら、ウチは手を引かしてもらうよぉ~……。
ウチだって抱えてる人材にさぁ~……、もしものことがあったら困るんだからさぁ~……。支払いはちゃんとしてもらわないとねぇ~……」
店主の要求に、ロガン卿はしばらく渋い顔を向けていたが、やがて折れた。
「……分かった。その額で頼もう」
「毎度ありぃ~……」
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金融的注釈。
西方で広く使われているお金「キュー」は、大体3.33円くらい。
荷運びの経費は700万円くらいです。
ちなみにキューとは「(兎などが持つ)丸い尻尾」という意味。
金融的注釈。
西方で広く使われているお金「キュー」は、大体3.33円くらい。
荷運びの経費は700万円くらいです。
ちなみにキューとは「(兎などが持つ)丸い尻尾」という意味。



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