「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・荷運抄 2
麒麟を巡る話、第58話。
仁に篤き帝国将軍。
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2.
いかにも軍人風の人間が集まっている、その中心に立っている人物に、秋也たちは声をかけた。
「ロガン卿ですね?」
「いかにも。貴君らは?」
ここまで聞いてきた物騒なうわさとは裏腹に、ロガン卿はやんわりとした物腰で応じてきた。
「『酒跳亭』から派遣されました、シュウヤ・コウと……」
「アルト・トッドレールです」
アルトがそう名乗った途端、場がざわめく。
「トッドレール?」
「ってあの……」
「『何でも屋』トッドか?」
そしてロガン卿の横に立っていたあのジャーヘッド(薬缶刈り)のサンデルが顔色を変え、アルトに歩み寄ってきた。
「貴君があの『何でも屋』トッドであるか?」
「で、ありますねぇ」
「いや、これは会えて重畳と言うもの! 吾輩も評判はかねがね聞いている! その、よければ握手など……」
そう申し出たサンデルに対し、アルトはぷい、と苦い顔をロガン卿に向けて見せる。
「おやー、これは私めの勘違いでしたかな」
「うん?」
「私ゃ運び屋として呼ばれたと思ってたんですがねぇ? 大スターの舞台俳優として呼ばれたつもりは微塵もありませんで、ちっとばかし衣装を間違えてしまったようだ」
「……失敬した」
ロガン卿も苦虫を噛むような顔を見せ、サンデルの頭をはたく。
「あいてっ」
「帝国軍人ともあろう者が、浮ついた態度を執るな! まったく、情けない。
……本題に入ろう。我々はここ、マチェレ王国より我らがグリスロージュ帝国まで、軍事物資を運搬する予定を立てている。しかし今現在、海路による輸送は諸事情により……」
「存じております、閣下。陸路でしか行けないと言うことも、その陸路とはブリック―マーブル街道一本しかないと言うことも。
その先の、詳しい運搬方法をお聞かせ願いたい」
アルトに急かされ、ロガン卿はもう一度苦い顔をする。
「……コホン。では、作戦についてだが。
既に現在、3輌の馬車を帝国に向けて走らせている。勿論これは、囮だ。そしてさらに1輌の囮を走らせ、これを敵には本命と思わせる。
そして敵の警戒が先の4輌に向けられたところで、本物の本命、即ち我々の馬車を送る。首尾よく行けば、これで軍事物資を帝国首都まで無事、運搬できるであろう」
「あの、質問いいですか?」
と、ここで秋也が手を挙げる。
「なんだ?」
「囮の4輌は、どうなるんです?」
「どうなる、とは?」
「敵国に捕まるってコトになるんですよね? じゃあもしかしたら、命の危険だってあるんじゃ……」
「何を分かり切ったことを!」
その問いを、サンデルが鼻で笑う。
「いいか、今は戦争の最中だ! 多少の犠牲など、あって然るべきではないか! 甘ったるいことを抜かすな!」
「……」
その回答に秋也が憮然とするのと同時に、ロガン卿が「馬鹿者!」とサンデルを一喝した。
「それではあの鼻持ちならぬ、人でなしの参謀と一緒ではないか! お前は一般人と戦闘員の区別も付かんのかッ!?」
「あ、いや、そんなつもりでは……」
「いいか!? 我々は高潔たる帝国軍人であり、また、そうあるよう努力すべき義務があるのだ!」
「……申し訳ありません、閣下! 軽率な発言でありました!」
サンデルは顔を真っ赤にし、深々と頭を下げて謝罪した。
「分かればいい。以後、気を付けるように」
「はいっ」
「……ゴホン。話の腰を折ったな。
今述べたように、我々は軍人として高潔であるつもりであるし、相応に誇りも持っている。それと同様、敵国といえどもプラティノアールの兵もまた、不義非道の輩ではない。拿捕した相手が一般人と分かれば、彼奴らは即刻解放し、強制帰国させるであろう。その点については、安心していいはずだ。
とは言えそれはあくまで、一般人の場合だ。軍同士、兵隊同士とあれば、サンデルの言う通りになる。戦争の最中であるし、敵国の人間である我々が領地内に入ってきたとなれば、彼奴らから攻撃を受けても文句は言えん。
つまりこの本命、帝国軍人が守りを固める本隊に就くのは貴君らにとって、最も危険であると言える」
「ま、その分」
ここまでじっと話を聞いていたアルトがにやあっと笑い、胸の前に親指と人差し指で輪を作ってこう尋ねる。
「危険手当なんかは、ちっとくらいは多めに出してもらえるんでしょう?」
「……元よりそのつもりであるし、何より、貴君に手を貸してもらえるとあれば、もっと弾んで然るべきだろう。
とは言え現在、軍の出納部門にはそう余裕は与えられておらん。今回の作戦で割り当てられていた予算は既に赤字が出ているからな。これで失敗すれば、まず報酬は無いものと思っていてほしい」
「逆に大成功しちまえば、きっちりボーナスまで払ってもらえる。そう期待してますぜ」
アルトはもう一度、にやっと笑って見せた。
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仁に篤き帝国将軍。
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いかにも軍人風の人間が集まっている、その中心に立っている人物に、秋也たちは声をかけた。
「ロガン卿ですね?」
「いかにも。貴君らは?」
ここまで聞いてきた物騒なうわさとは裏腹に、ロガン卿はやんわりとした物腰で応じてきた。
「『酒跳亭』から派遣されました、シュウヤ・コウと……」
「アルト・トッドレールです」
アルトがそう名乗った途端、場がざわめく。
「トッドレール?」
「ってあの……」
「『何でも屋』トッドか?」
そしてロガン卿の横に立っていたあのジャーヘッド(薬缶刈り)のサンデルが顔色を変え、アルトに歩み寄ってきた。
「貴君があの『何でも屋』トッドであるか?」
「で、ありますねぇ」
「いや、これは会えて重畳と言うもの! 吾輩も評判はかねがね聞いている! その、よければ握手など……」
そう申し出たサンデルに対し、アルトはぷい、と苦い顔をロガン卿に向けて見せる。
「おやー、これは私めの勘違いでしたかな」
「うん?」
「私ゃ運び屋として呼ばれたと思ってたんですがねぇ? 大スターの舞台俳優として呼ばれたつもりは微塵もありませんで、ちっとばかし衣装を間違えてしまったようだ」
「……失敬した」
ロガン卿も苦虫を噛むような顔を見せ、サンデルの頭をはたく。
「あいてっ」
「帝国軍人ともあろう者が、浮ついた態度を執るな! まったく、情けない。
……本題に入ろう。我々はここ、マチェレ王国より我らがグリスロージュ帝国まで、軍事物資を運搬する予定を立てている。しかし今現在、海路による輸送は諸事情により……」
「存じております、閣下。陸路でしか行けないと言うことも、その陸路とはブリック―マーブル街道一本しかないと言うことも。
その先の、詳しい運搬方法をお聞かせ願いたい」
アルトに急かされ、ロガン卿はもう一度苦い顔をする。
「……コホン。では、作戦についてだが。
既に現在、3輌の馬車を帝国に向けて走らせている。勿論これは、囮だ。そしてさらに1輌の囮を走らせ、これを敵には本命と思わせる。
そして敵の警戒が先の4輌に向けられたところで、本物の本命、即ち我々の馬車を送る。首尾よく行けば、これで軍事物資を帝国首都まで無事、運搬できるであろう」
「あの、質問いいですか?」
と、ここで秋也が手を挙げる。
「なんだ?」
「囮の4輌は、どうなるんです?」
「どうなる、とは?」
「敵国に捕まるってコトになるんですよね? じゃあもしかしたら、命の危険だってあるんじゃ……」
「何を分かり切ったことを!」
その問いを、サンデルが鼻で笑う。
「いいか、今は戦争の最中だ! 多少の犠牲など、あって然るべきではないか! 甘ったるいことを抜かすな!」
「……」
その回答に秋也が憮然とするのと同時に、ロガン卿が「馬鹿者!」とサンデルを一喝した。
「それではあの鼻持ちならぬ、人でなしの参謀と一緒ではないか! お前は一般人と戦闘員の区別も付かんのかッ!?」
「あ、いや、そんなつもりでは……」
「いいか!? 我々は高潔たる帝国軍人であり、また、そうあるよう努力すべき義務があるのだ!」
「……申し訳ありません、閣下! 軽率な発言でありました!」
サンデルは顔を真っ赤にし、深々と頭を下げて謝罪した。
「分かればいい。以後、気を付けるように」
「はいっ」
「……ゴホン。話の腰を折ったな。
今述べたように、我々は軍人として高潔であるつもりであるし、相応に誇りも持っている。それと同様、敵国といえどもプラティノアールの兵もまた、不義非道の輩ではない。拿捕した相手が一般人と分かれば、彼奴らは即刻解放し、強制帰国させるであろう。その点については、安心していいはずだ。
とは言えそれはあくまで、一般人の場合だ。軍同士、兵隊同士とあれば、サンデルの言う通りになる。戦争の最中であるし、敵国の人間である我々が領地内に入ってきたとなれば、彼奴らから攻撃を受けても文句は言えん。
つまりこの本命、帝国軍人が守りを固める本隊に就くのは貴君らにとって、最も危険であると言える」
「ま、その分」
ここまでじっと話を聞いていたアルトがにやあっと笑い、胸の前に親指と人差し指で輪を作ってこう尋ねる。
「危険手当なんかは、ちっとくらいは多めに出してもらえるんでしょう?」
「……元よりそのつもりであるし、何より、貴君に手を貸してもらえるとあれば、もっと弾んで然るべきだろう。
とは言え現在、軍の出納部門にはそう余裕は与えられておらん。今回の作戦で割り当てられていた予算は既に赤字が出ているからな。これで失敗すれば、まず報酬は無いものと思っていてほしい」
「逆に大成功しちまえば、きっちりボーナスまで払ってもらえる。そう期待してますぜ」
アルトはもう一度、にやっと笑って見せた。
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