黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・荷運抄 4

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    麒麟を巡る話、第60話。
    難所への突入。

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    4.
     街道を進んでから、10日以上が経過した。
    「今日もいーい天気だなぁ」
     この日も馬車の操縦はアルトに任され、秋也はその横に座っていた。
    「だなぁ。本日も異状なし、か。……囮のみんな、どうしてるんでしょうね?」
     振り返ってそう尋ねた秋也に、ロガン卿がこう返す。
    「首尾よく――我々にとっての意味であるが――進んでいれば、恐らくは既に捕まり、そして数日程度の拘留後、マチェレ王国に送還されているだろう。
     しかしそれに関して、気になることもある」
    「って言うと?」
     秋也の問いに、アルトが代わりに答える。
    「この街道、基本はバーンと抜けた一本道なんだけれっども、最近行き来した痕跡が少ない、……ってことですね?」
    「左様」
    「ん……?」
     首をかしげる秋也とサンデルに、アルトが詳しく説明する。
    「俺たちの前には、囮が4輌進んでた。そんなら途中まで、そいつらの轍なり一旦停止して食事にしたりしたって言う痕跡が、4輌分以上なきゃおかしいはずだろ?
     だけれっどもよ、ここまでの行程でその痕跡は――王国内の奴らが使ったことを加味しても――少な過ぎるんだよ。俺の見立てじゃあ1輌か、2輌分しか無かったんだ」
    「私も同意見だ。これではまるで、我々以外に利用していないようではないか、と」
    「囮が行ったはず、……なのに?」
    「逆だな。囮はこの道を進んでない、……いや、進めなかったんだ。それも恐らく、出発から3日か4日、ともかく入国してすぐくらいで止まってる」
    「……つまり、もう既に捕まった、と?」
    「そう考えるのが筋だが、そうなるとおかしいことが一個出てくる」
     アルトはそこで、目だけを動かして辺りを見渡した。
    「おかしいコトって?」
    「シュウヤ、お前さんはもうちょっと自分に目を向けた方がいいぜ。
     つまりだ、俺たちがなんで捕まりもせず、ここまで来られたのかってことだよ」
     そう言っているうちに、馬車は薄暗い森の中に入っていく。
    「そして幸か不幸か、この街道は今までは概ね拓けた場所を通っていたが、この一ヶ所――プラティノアール王国西部に広がる大森林地帯、ローバーウォードだけは迂回するにも広過ぎるってんで、こうしてど真ん中を突っ切るしかないってわけだ」
     アルトの説明を、ロガン卿が継ぐ。
    「軍事的言い換えをするとすれば、これまでは交地、即ち非常に見渡しの良い地形が続いたわけであり、敵が密かに狙う、あるいは襲ってくるには不都合なところばかりだった。
     だがこの場所は明らかに泛地(はんち)。見通しが悪く、かつ険阻であり、人間がいくらでも潜み、待ち構えていられる場所だ。
     そろそろ警戒しておけ――私が敵将であるなら、ここは敵を仕留めるに持って来いの場所だ」
     その言葉に、秋也も、他の兵士たちも、そろそろと武器を手に取りだした。

     鬱蒼(うっそう)とした森の中を、馬車はゆっくりと進んでいく。
    「アルト、……もういっこ聞いていいか?」
    「なんだ?」
    「さっきの話だけど、なんで囮はすぐ捕まえた癖に、俺たちは泳がされたんだ?」
    「理由は2つだな」
     アルトは手綱を忙しなく動かし、馬を逸らせないように努めながら、その質問に答える。
    「一つは、囮は無抵抗だったからすぐ捕まえられたんだろうが、武装した俺たちはそうは行かないだろう、って言う敵さんの判断だろうよ。だから、捕まえやすいところまで進めさせたってとこだろうな。
     もう一つは、俺たちの疲労を待ってたんだろう。元気一杯に応戦してこられちゃ、そりゃあ面倒だけれっども、こうして緊張しっぱなしの状態で何日も泳がされりゃ、体力・気力共に削られる。それにここはもう、帝国との国境間近だ。どうしたって気は逸る。だがその分、注意力はガンガン散っていくからな。
     ロガン閣下と同じく、俺が敵将だったらこの森は、楽に落とせるポイントだと……」
     その説明の途中で――アルトは突然パン、と手綱を弾く。当然、馬車を曳いていた馬は驚き、前脚をぐい、と挙げる。
     それとほぼ同時に、馬の脚元の地面が乾いた破裂音と共に、ほんのわずかに爆ぜた。
    「……!」
    「敵襲! 敵襲! 11時上方に敵兵あり!」
     アルトはそれまでの飄々とした声色をガラリと変え、大声で叫んだ。
    「何……!」
    「馬が狙われている! 迎撃求む!」
     アルトの声が馬車内に響き、兵士たちは銃を手にして後方から飛び出す。
    「11時上方了解!」
    「撃て、撃てッ!」
     兵士たちは銃身の長い小銃(ライフル)を構え、アルトの指示した方向に向かって弾を撃ち込む。
     パン、パンと立て続けに音がこだまする中で、アルトが秋也の服を引っ張ってきた。
    「3時、9時方向両面から敵が来る! シュウヤは9時側に回り込め!」
    「お、……おう!」
     呆気にとられかけていた秋也だったが、アルトの指示を何とか呑み込み、刀を抜いて馬車の左側に走る。
    「……!」
     と、森の奥から剣や銃を持った兵士たちが多数、駆け込んでくる。
     言葉で伝えられた際にはぼんやり気味な反応を返した秋也だったが、兵士を目で確認した瞬間、元来好戦的な秋也は、自分の成すべきことを把握する。
    「うりゃああッ!」
     考えるより先に体が、彼らの方へと向かっていった。
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    NoTitle 

    久々の戦闘シーンです。
    頑張ってもらいましょう。

    NoTitle 

    ついに腕の見せ所v-392
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