黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・荷運抄 5

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    麒麟を巡る話、第61話。
    秋也、臨場。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     秋也の前に現れた兵士は3名。うち2名が剣を手にしていたが、その奥に小銃を手にした兵士が構えている。
     それを見て、秋也は舌打ちする。と言っても不得手に感じたとか、面倒な相手であると思ったとかではない。
    (ココでも銃かよ、ったく……!)
     剣士の秋也としては、己の活躍を奪う銃と言う存在が疎ましかったのである。
    「でやーっ!」
     剣を持った兵士たち2名が、同時に秋也を襲う。
     しかしその技量は到底、焔流の免許皆伝を得た剣士を相手にするには不足していた。
    「甘めえよッ!」
     相手の剣を紙一重ですいすいとかわし、秋也は彼らの背後に回り込む。それを見た銃士は銃を構え、秋也に狙いを定めてきたが――。
    「『火閃』!」
     目の前で火柱が上がり、狙う相手が視界から消える。
    「……っ!?」
    「どこだ!?」
     剣士たちの目にも、秋也の姿は映らない。
     と、次の瞬間――。
    「うぐっ!?」「ぎゃっ!?」
     ゴツ、と硬いもの同士がぶつかり合う鈍い音と共に、剣を持った兵士二人が折り重なるように倒れる。
     秋也が彼らの背後に回り、その頭を兜ごと、押し付け合うようにぶつけさせたのだ。
    「……!」
     再び現れた秋也を目にした銃士は、慌ててもう一度照準を合わせようとする。
     が、秋也はそれに構わず、銃士に向かって突っ込んだ。
    「卑怯者よろしく遠くから狙うんなら、ソレもアリだろーけどな」
     銃身よりも短い間合いに踏み込まれ、銃士は攻撃の術を失う。
    「近接戦じゃ、まだこっちが上だな」
     秋也は銃士の顔面に、思い切り正拳をぶつけた。

     王国兵たちが完全に気を失ったのを確認し、秋也は馬車に戻ってきた。
     丁度他の兵士も敵を撃退したらしく、ぞろぞろと戻ってくる。
    「首尾は?」
     そう尋ねたロガン卿に対し、兵士たちは口々に報告を返す。
    「11時方向の敵、全滅しました!」
    「3時方向の敵、撤退!」
     それを受けて秋也も、同様に返す。
    「えーと、9時方向の敵、全滅です」
    「よろしい。被害は?」
    「ありません」
    「馬もみんな、無事ですぜ」
     アルトがそう返したところで、サンデルがぎょろ、と彼を睨む。
    「お前……、戦っていたか?」
    「いいえ。馬が死なないように采配はしてましたがね」
    「……そうか。……しかし」
    「必要でやしょ?」
     しれっとそう返されては、サンデルはうなるしかない。
    「……うむ」
    「では出発だ」
     ロガン卿の号令に従い、秋也たちは手早く馬車に乗り込み、輸送を再開した。
     と、馬車が走り出してまもなく、秋也は前方に、血まみれで倒れている王国兵を見つけた。
    「……死んでますね」
    「やむを得んことだ。戦闘であったからな」
     そう返すロガン卿に対し、サンデルは秋也に向かって憮然とした顔をする。
    「何だ、お前はもしかして、相手を殺さなかったのか?」
    「え、……ええ。気絶はさせましたが」
    「それでも剣士か、情けない!」
    「……」
     黙り込む秋也に、ロガン卿がこう尋ねる。
    「相手は戦闘不能にしたか?」
    「はい。剣は折りましたし、銃も真っ二つにしておきました」
    「ならば構わん。意識が戻ったところで、どうにもできまい。何が何でも殺さねばならんとは、誰も定めておらんのだからな。
     戦時中の兵士と言うのはとかく、正気や常識を無くしていく稼業だ。とは言え、人を殺して当たり前だとは、……兵士の統括者たる将軍の地位にいるとは言え、私は堂々と口にはしたくない。
     やむを得ないことではあるのは、十二分に承知しているつもりではあるがな」
    「閣下、それでは相手が減りません」
     そう反論したサンデルに、ロガン卿は苦い顔を向けた。
    「相手も同じ人間ではないか。彼らにも家族はいよう。殺せばその分、恨んでくる人間の数が増える。
     綺麗ごとを言っているのは百も承知だが、私は、お前たちに無用な恨みなど背負ってほしくは無いのだ。サンデル、お前はどうか分からんが、私は恨まれて平然としてはおれん」
    「……仰ることはよく解りますが、……しかし」
    「そもそも、敵を全滅させれば、確かにそれは勝利と言えるが、相手が『参った』と言っても、それもまた、勝利と言えよう? 実際、我々の祖国は滅びはしたが、我々は死んではおらんわけであるし。
     一人残らず殺せ、などと言うのは愚か者か外道、もしくはあの人でなし参謀だけだ」
    「む……」
     まだ少し、わだかまりのある表情を浮かべてはいたが、よほどその参謀を嫌っているらしい。サンデルはそれ以上、反論しなかった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    そういう感じですね。
    さして自分の得にならないことはやらない主義。

    NoTitle 

    アルトは体力を温存したv-391

    NoTitle 

    本作、というか僕の作品の傾向としては、基本的に戦争はあらゆる面においてマイナスの要素として捉えています。
    人命に関しても、できる限り損なわれない方が良いものとして描くことが多いです。
    と言っても、やはりTPOが変化すればこの前提が適用されないこともありますが。

    個人的意見としてはこの話中でロガン卿に言わせたことが、そのまま僕の主張でもあると言えます。
    人を殺して当たり前、と言う世界に生きなくて良かったことは、本当に感謝したいところ。

     

    悲しいけどこれもケースバイケースなんだよなあ。

    人の命の値段が安いところではとにかく殺せるだけ殺さなくてはどうにもならないし、人の命の値段が高いところでは心理的ダメージで降伏させたほうがいい場合もある。

    特にゲリラ戦やテロリスト戦争(造語)では、それが顕著なんだよなあ。

    やだなあ戦争って。特に総力戦。
    • #1210 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.08/03 23:47 
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