黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・荷運抄 7

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    麒麟を巡る話、第63話。
    フードの参謀。

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    7.
     中途半端なところで話を切られたため、秋也には何が何だか、良く分からないことばかりだったが――。
    「遠路、大儀であった」
     その本人に会ったところで、秋也はこの国の実情を何となくながらも把握した。
     見事に指令を達成して見せたロガン卿らと秋也、そしてアルトは帝国軍参謀、アロイス・クサーラ卿から直々に呼び出され、一応の褒賞を受けた。
     と言っても――。
    「此度の任務を達成したこと、誠に喜ばしいことと、陛下も仰られている。
     よってシャルル・ロガン少将、貴君には50万キュー、その補佐を行ったサンデル・マーニュ大尉には10万キュー、それから……、補佐をしたそこの二名、そして随行した兵士たちにはそれぞれ、5千キューを授ける」
     分厚いフードを深々と被っているため表情こそ見えないが、アロイスの態度と棒読みに近い、抑揚のない労いの言葉は明らかに、ロガン卿らを疎ましく思っているようだった。
    「参謀閣下」
     と、ロガン卿が口を開く。
    「失礼ながら申し上げます。ここの両名、並びに兵士たち全員が此度の任務において、少なからず重要な働きを見せました。敵の襲撃を立て続けに受け、さらにはそれをすべて撃退して見せたのですぞ。
     それだけの成果をたった5千で評価するとは、これを兵士らが聞けば士気を大きく下げることと思われますが……」
    「そうか」
     するとアロイスは、盆に載せていた金貨をすべて、床にこぼして見せた。
    「……っ」
    「では褒賞は無かったこととする。払わなければ、評判も立つまい」
    「ぐぐ、ぐっ……!」
     この態度に、サンデルは顔を真っ赤にする。
     一方、ロガン卿は非難をやめない。
    「参謀閣下。あなたは虫が付くから、枯れるからと言う理由で、見事な桜をわざわざ切り倒す方のようですな」
    「うん?」
    「兵士を、いや、人を管理するのが異様に下手くそだと言うことです。なるほど、帝国拡大に20年もかかるわけだ。いやいや、大した仕事っぷりには頭が下がりますな」
    「……」
     ロガン卿は踵を返し、アロイスに背を向ける。
    「ご忠告致そう、参謀閣下。この私めを本営から遠ざけようとすればするほど民意は、そして兵士の心は、あなたから離れていくでしょうな。
     何しろ私は皇帝陛下の懐刀であり、軍本営でもそれなりの重鎮ですからな」
    「……」
     ロガン卿は何も言い返さないアロイスに目もくれず、秋也らに声をかけた。
    「行くぞ。褒賞については、改めて私から出そう。5千などと言うはした金ではなく」
    「ありがとうございます、ロガン閣下。頼りになるお方でいらっしゃる」
     アルトはチラ、とアロイスを一瞥してから、そう答えた。



    「しっかし……、実際にクサーラ卿を目にしましたけれっども」
     アルトはビールをぐい、と呷り、アロイスに対する感想を述べた。
    「何て言うか、本気で心ってもんが無さ気な感じでしたねぇ。そのくせ、閣下に敵意丸出しでしたし。ありゃ、嫌われて然るべきお方だ」
    「左様、左様」
     アロイスの前から立ち去った後、ロガン卿は秋也たちを自分の屋敷に招待し、今回の作戦成功を祝う宴席を催してくれた。
     その途上で兵士らから聞かされ、また、市民たちの態度で知ったことだが、シャルル・ロガン少将と言う人物は、帝国内でも相当に地位が高く、かつ、人民から慕われる将軍であるようだった。
     ロガン卿の私邸で開かれたこの会一つ取っても、それが良く分かる。宴席に出された酒や料理は近所の店から厚意で持ち寄られたものであるし、その会場となった庭もまた、相当な広さを誇っている。
     さらには軍人とは到底見えない、単なる市民らも数多く参加しており、秋也はロガン卿の人気に驚くばかりだった。
    「ロガン卿、本当に慕われてるんスねぇ」
    「そりゃ、帝国領から敵陣を突っ切って物資を運ぶなんて超危険な任務、やりたがる兵士がわんさかいるわけですな」
    「ソレ、気になってたんですが……」
     と、秋也はリンゴジュース――自分がさほど強くない性質と分かっているので、酒は飲んでいない――を片手に、こんな質問をぶつけた。
    「どうしてコレほど人気と地位のあるロガン卿が、あんな危険な任務に? その、例えば……、ですけど、サンデルさんに頼むとかは……」
    「うむ。敵兵に狙われる危険がなく、平坦な道のりであり、また、あの屑参謀が絡んでいなければ、私は確かに、サンデルに任せていたであろう。
     だが残念ながら、それらの条件がすべて揃っていたのでな。特にあの参謀の冷血たるや、真冬の鉄の如しだ。
     状況如何によっては極めて非人道的手段を講じねばならなくなるような此度の任務、彼奴の好きにさせてはどれほどの被害を生むか分からなんだし、とても人任せにはできなかったのだ」
    「なるほど、さすが閣下。仁の塊のようなお方だ」
     感心するアルトの背後で、顔を真っ赤にしたサンデルが泣いている。
    「うう、ひっく、何と……、何と心優しきお方であることか!
     ひっく、……不肖、このサンデル・マーニュ、ぐすっ、地の果てだろうと天の彼方であろうとお供いたしますぞ、ひっく、……ヒック」
     その顔の赤さが感情の昂ぶりから来たものなのか、それとも酒のせいなのかは、良く分からなかった。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    元々の忠義心はありますが、べろんべろんですからね。
    感情の抑えがまったく利かなかったようです。

    NoTitle 

    酒だなv-391
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