黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・飾帝抄 2

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    麒麟を巡る話、第66話。
    帝国の政治対立。

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    2.
     ほかほかと湯気の立つホットミルクを手にしながら、モダス帝は話を切り出した。
    「ロガンから聞いたと思うが、今この国、いや、この城内は極めて不安定な状態にある。理由はたった一つ、我々の中で内輪もめをしているからだ。
     長年私を支えてきてくれた参謀、アロイス・クサーラが、頑として停戦に納得せず、勝つまで続けると主張し続けているのだ」
    「しかし陛下、その件について、俺には納得致しかねる点がいくつかあるんですがね」
    「何をかな」
     尋ねたモダス帝に対し、アルトはまったく畏れる気配もなく、率直に聞く。
    「若輩者ですけれっども、陛下のご活躍についてはかねがね、聞き及んでおりますもので。
     たった200人余りのモダス中隊を率い、蹶起からわずか3年でグリサルジャン王国を陥落させたのを皮切りに、あちこちの戦で連戦連勝。
     古代より争いの絶えなかったこの西方南部三国のうち二国を統一することに成功しちまった、まさに人間業とは思えぬ大躍進、偉業の数々を打ち立てたお人だ。
     それが何故、この10年の間ずっと、くすぶっていらっしゃるんで? 陛下ほどのお力があれば、かのハーミット卿の手練手管など、仕掛けられる前に打ち砕けたたはず。
     その10年、いや、それ以上昔にロージュマーブルを陥としたと言うのに、なぜそのまま、プラティノアール侵攻まで進めなかったのか?
     俺が一番気になってるのは、そこなんでさ」
     この問いに、モダス帝は苦い顔を向ける。
    「……今は皇帝と名乗ってはいるが、私は元々、一介の、学も術も持たぬ一村民だった。それに、数多くの戦を通して幾度となく血に濡れてきた身だ。
     その身の上でこんな綺麗ごとを口にするなど、道理を知らぬ愚か者だと、誹りを免れないだろうが――私はこれ以上、血を見たくない。私の地位を固めるために人が死ぬのは、それが敵であろうと味方であろうと、最早私にとってはこれ以上ない苦痛、責苦なのだ。
     だから私は10年前、矛を収め、剣を捨てようとした。『三国すべてを掌握する必要はないはずだ。二国を治めるだけで十分であるし、この現状で良しとしよう』、……と、これ以上の戦争を起こさぬことを提案したのだ。
     しかしその提案は、アロイスに却下された。その後アロイスは、独断で兵を動かしてプラティノアールへ侵攻し、無理矢理に開戦へと持ち込んだ」
     モダス帝はぐい、と一息にホットミルクを飲み干し、話を続けた。
    「しかし、それこそがアロイスの犯した、帝国にとって最大の失敗だったのだ……!
     ハーミット卿はそれを口実に西方諸国の同情を集め、瞬く間に様々な協定・条約を結んだ。そのすべてが帝国の貿易網を破壊するものであり、結果、帝国の財産はこの10年の経済封鎖により、いよいよもって尽き始めた。
     だが、それでも――私は平和を訴え続けてきたし、アロイスもまた、独断専行によって戦争を継続させてきた。恥ずべきことだが、今や軍の半分以上は私の統率から事実上、外れている。『腑抜けになった皇帝をこれ以上、奉ってなどいられない』と言うことなのだろう」
    「失礼ながら陛下」
     と、アルトが話をさえぎる。
    「それは質問にお答えいただいたのではなく、組織内のごたごたを説明されているだけのように思えます。俺とこのシュウヤは、政治学の講釈や実例を聞きに来たわけではありません」
    「む……」
    「はっきりお尋ね申し上げましょう。
     陛下――そう、元は平民の出にせよ、今はこの帝国で最もお偉い、『皇帝陛下』ともあろうお方が、何故、その勝手ばかりする参謀を更迭してしまわれないのか?
     それが一番手っ取り早いじゃありませんか? こんなことは、ちょっと政治をかじった若造にすら思い付く話でしょう?」
    「……」
     この質問に、モダス帝は黙り込む。
    「それとも……、あのクサーラ卿を更迭してはまずい理由がおありで?」
    「……」
     モダス帝はマグカップを静かに盆の上に置き、それからぼそっと、こう尋ね返した。
    「君たちは、悪魔、と言うものを信じるか?」
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    NoTitle 

    大火とはまた別の悪魔ですねぇ。

    NoTitle 

    お?大火か?v-37
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