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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・飾帝抄 3

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    麒麟を巡る話、第67話。
    悪魔は今も。

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    3.
    「え、悪魔……?」
     この問いに、秋也は面食らう。アルトも同様らしく、怪訝な顔を見せている。
    「悪魔ですって?」
    「そう。いくら殺しても死なない。跡形もなく死骸を消し飛ばしても、いつの間にか背後に立っている。そんな、悪魔だ。
     その存在を、信じるか?」
    「それは、……物語や、演劇なんかの話で?」
    「現実において、だ」
    「いや、……お尋ねいただいてこんな返答は不躾かとは思いますが、……常識とは思えません。もしそんなのを真面目に信じている者があれば、嘲笑うところでさ」
    「だろうな」
     アルトの返答に、モダス帝は寂しげな笑みを見せた。
     が、秋也の返答はまったく逆だった。
    「いる……、でしょうね。オレの知り合いにもそう名乗ってる、金毛九尾の魔術師が一人いますし、そうとしか思えない剣士を相手に戦ったコトもあります。
     いてもおかしくないと、オレは思います」
    「……そうか」
     秋也の答えに、モダス帝は今度は、ほっとした顔になる。
    「詳しく聞いてみたいところだが、……信じてくれるならば、先を話すことにしよう。
     単刀直入に言おう。アロイス・クサーラは悪魔だ。それこそ何度殺そうとも蘇り、粉微塵にしようとも復活する、思い出すだけでも身の毛がよだつ、世にもおぞましき存在だ」
    「仰る意味が分かりかねます。それは比喩ですか? それとも本当に、実行されたお話で?」
    「後者だ。私は実際に6度もアロイスを暗殺しようと企て、そしてそのすべてが失敗に終わったのだ。
     確かに私のこの手で、奴を谷底へ突き落とし、頭を斧ではね、廃坑にありったけの火薬を詰め、そこに閉じ込めて爆破し、……とにかく、ただの人間ならばまず間違いなく死ぬはずの方法で、奴を6度も葬った。
     だが結果は、諸君の知っての通りだ。その都度、奴は何事も無かったかのように復活してきた。そして6回目の暗殺が失敗に終わったその時、私の心は折れてしまった。最早あいつを殺すことはできないと、心に深々と刻まれてしまったのだ。
     それから10年――私は最早、西方南部を牛耳る器ではない、お飾りの皇帝となってしまったのだ」
    「なるほど。にわかには信じられませんが、その話が本当であれば、確かにこれはどうしようもない存在だ。
     ……となると我々に頼みたいこととは、どうやら7度目の暗殺などでは無いようですな」
    「ああ。それは君たちを無駄死にさせるようなものだ。そんなことは、到底頼めない。
     かと言って、従軍して戦争を勝利に導け、とも言えない。それは結局、アロイスの思うつぼだ。仮に勝利し西方南部を統一しようものなら、奴は今度は、西方全土を征服する計画を嬉々として練るだろうからな」
    「ふむ。結局、問題の根っこはクサーラ卿にあるわけだ。しかし卿本人をどうこうするのは、我々にゃ不可能。そしてこれ以上、卿の言いなりになるのも嫌だ、と。
     となると……、残る策は陛下、あなたが隣国に亡命し、卿を一人残して悪者にしてしまおう、と言うところですか」
    「……明察だ。そう、その通りだ。既に私の身は、ただのお飾りでしかない。政治運営の主幹は、アロイスが握っている。私がいなくとも、帝国にとっては何の問題も無いのだ。
     勿論、身勝手な話であることは重々承知している。だがこれ以上、『私のために』などと口実を付けられて戦争を起こされ、その結果数多くの死者を出すのは――改めて言うが――耐え難い苦痛なのだ」
    「なるほど。御自分で仰った通り、身勝手ですな」
     アルトは侮蔑的な目を、モダス帝に向ける。
    「実情はどうあれ、この国の代表者、第一の人間として今までふんぞり返ってきたあなたが、亡命を選ぶんですか。あなたを慕ってきた人々を置いてけぼりにして。
     そりゃ、とんだ無責任じゃあないですかねぇ?」
    「……百も承知だ」
    「だったら、もっといい方法があるじゃないですか。あなたが一人、責任を取って死ねばいい。わざわざお隣さんのとこに押しかけて、迷惑をかけることは無いでしょう?」
    「トッド君!」
     ロガン卿が声を荒げるが、モダス帝はそれを制する。
    「そう考えるのはもっともだ。至極、当然の話だろう。だが考え方によっては、死ぬ方が身勝手ではないのか?」
    「って言うと?」
    「私が死ねば、それ以降はもう私には、何の手出しもできない。すべてがアロイスの掌中に収まることとなる。そうなればどれほど、おぞましき結果となるか!」
    「ですから、そりゃ亡命しても一緒で……」
    「だが亡命しプラティノアールの力を借りれば、今よりももっと、アロイスを討てる可能性は高まるのではないか? 私はそう思っているのだ」
    「……ふむ」
     一瞬の間を置き、アルトは頭を下げた。
    「なるほどなるほど、亡命案が首尾よく行けば、あの聡明なハーミット卿から知恵を借りることもできるわけだ。ご自分一人で挑むよりは、まだ可能性が模索できる。
     いやいや、その考えには至りませんで。これは御見それいたしました」
    「無論、アロイスを討伐した暁には皇帝として復権し、元通りに私が帝国を治め、己の責務を全うすることを約束しよう。
     あくまでこれは、アロイス討伐のための亡命なのだ。死んでしまっては、この策を実行することができない」
    「ええ、ええ、十分に承知致しております、陛下」
     アルトはもう一度、頭を下げて見せた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    もう一人の悪魔に関しては、「蒼天剣」で言えば4部から、「火紅狐」で言えば3部から出てます。
    名前に共通項があるので、ある程度は見つけやすいかも知れません。

    NoTitle 

    大火以外にもいたんだv-393

    NoTitle 

    お察しの通り、過去二作に登場したあの「悪魔」です。
    またしても世界を支配するため、乱暴なことをしてます。

     

    また過去の作品で大暴れした、例のあの人(?)ですか? だとしたら、こりない人ですねえ……。
    • #1236 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.08/10 22:14 
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