「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・飾帝抄 4
麒麟を巡る話、第68話。
亡命計画の下準備。
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4.
モダス帝からの依頼を引き受けた秋也とアルトは、ロガン卿と共に亡命の計画を立てることとなった。
「まず、どうやって出国させるかですな」
「うむ。その点については、私に案がある。
トッド君、君の着ているジャケットやキャスケット帽は、西方における一般的な若者の服装と言える。それに似たものを陛下に、お召しになってもらおうと考えているのだ」
「変装させて、一般人に紛れさせて出国させよう、ってコトですか」
「そうだ。それにシュウヤ君とトッド君、君たちは元々、この国の人間ではない。用事が済んでそそくさと出国したとしても、それには何ら不審なところは無いわけだ。
だからそれに紛れれば、より容易に出国できるかと考えている」
「となると、陛下の身柄は俺とシュウヤとで預かる。閣下とはここでお別れ、と言うことになりますね」
「そうなる。勿論、報酬は前金で支払うつもりだ」
「そりゃどうも。
では、陛下はいつ来られるんで?」
「それも手筈を整えている。明後日、陛下は側近を伴い鹿狩りに出られる。私も勿論、そこに随行する。
山際の森近くで催されるため、獲物を追って森に分け入ることも良くある。そこで……」
「俺とシュウヤとが森に潜み、そこにやって来る陛下と落ち合って、そこから連れ出すと言うわけですな」
計画がまとまり、秋也たちはその準備に向かった。
アルトの手際は、実に鮮やかなものだった。
自分が今着ているものと似たような服を揃え、髪の色をごまかすためのかつらを作り、さらにその合間に、狩場の下見まで済ませてしまった。
秋也はこの間、アルトの荷物持ちしかやることが無かった。
「アルト、あんた本当に、何でもできるんだな」
「簡単さぁ。やろうと思えば大体、何だってできるもんさ。
『できない』って言ってる奴の多くは、できないんじゃなくて『しない』ってだけだ。何だかんだ理由を付けてな」
「そんなもんかな」
「そんなもんさ。とは言え、俺にもできないことはある」
それを聞いて、秋也は意外に思った。
「って言うと?」
「俺の場合、広く浅くだからな。どんな技術でも、本職として長年やってる奴にゃ敵わない。
例えばシュウヤ、お前さんと俺とが戦ったとして、俺は多分、すぐ負けちまうだろうな。杖術と剣術にも多少の心得はあるけれっども、結局は我流だし。真面目に修行してきたお前さんのそれとじゃ、どうしたって見劣りするのさ。
……はは、だから俺は『何でも屋』なのさ。どの道でも、一流になれなかったんだから」
「そっか。……いや、だとしてもさ、『何でも屋』としては一流じゃないか? ずっと、しくじったコトないんだろ?」
「それも逆に言えば」
アルトは己を嘲るように、こう返した。
「二流の腕で成功する程度の仕事しか受けてないってことさ。俺は結局、半端者だよ」
「……」
秋也の頭には、返す言葉が浮かばない。
と、その様子を見たアルトが顔をくしゃ、と歪ませて大笑いした。
「うひゃひゃ……、謙遜だよ、謙遜。マジになるなって」
「あ、お、おう」
と、そんな風に話をしていたところに――。
「あ、あのぅ」
部屋の外から、少女の声がかけられた。
「ん? ……あ、ども」
「おっと、少しばかり騒々しかったようで」
「い、いえ。大丈夫です。……えっと、お邪魔します」
入ってきたのはロガン卿の一人娘の短耳、ノヴァだった。
「父から、その、お二人を持て成すようにと、託ったので、……えっと、お昼ごはんを」
「おりょ? そりゃ、ありがたい」
アルトはテーブルに広げていた服や地図を片付け、ノヴァが持ってきた料理を、これも手際よく並べ始めた。
「ありがとう、お嬢さん」
「い、いえ。そ、それじゃわたしは……」
立ち去ろうとするノヴァに、アルトは声をかける。
「良ければ可愛いご令嬢とご一緒に席を囲みたいのですが、御相席いただいてもよろしいでしょうか?」
「ひぇえ!?」
ノヴァは顔を真っ赤にし、後ずさる。
「……あ、いや。ご迷惑であれば、無理には」
「い、いえいえ! か、構いません! 持って来ます!」
ノヴァはバタバタと慌てた足取りで、自分の分を取りに向かった。
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亡命計画の下準備。
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モダス帝からの依頼を引き受けた秋也とアルトは、ロガン卿と共に亡命の計画を立てることとなった。
「まず、どうやって出国させるかですな」
「うむ。その点については、私に案がある。
トッド君、君の着ているジャケットやキャスケット帽は、西方における一般的な若者の服装と言える。それに似たものを陛下に、お召しになってもらおうと考えているのだ」
「変装させて、一般人に紛れさせて出国させよう、ってコトですか」
「そうだ。それにシュウヤ君とトッド君、君たちは元々、この国の人間ではない。用事が済んでそそくさと出国したとしても、それには何ら不審なところは無いわけだ。
だからそれに紛れれば、より容易に出国できるかと考えている」
「となると、陛下の身柄は俺とシュウヤとで預かる。閣下とはここでお別れ、と言うことになりますね」
「そうなる。勿論、報酬は前金で支払うつもりだ」
「そりゃどうも。
では、陛下はいつ来られるんで?」
「それも手筈を整えている。明後日、陛下は側近を伴い鹿狩りに出られる。私も勿論、そこに随行する。
山際の森近くで催されるため、獲物を追って森に分け入ることも良くある。そこで……」
「俺とシュウヤとが森に潜み、そこにやって来る陛下と落ち合って、そこから連れ出すと言うわけですな」
計画がまとまり、秋也たちはその準備に向かった。
アルトの手際は、実に鮮やかなものだった。
自分が今着ているものと似たような服を揃え、髪の色をごまかすためのかつらを作り、さらにその合間に、狩場の下見まで済ませてしまった。
秋也はこの間、アルトの荷物持ちしかやることが無かった。
「アルト、あんた本当に、何でもできるんだな」
「簡単さぁ。やろうと思えば大体、何だってできるもんさ。
『できない』って言ってる奴の多くは、できないんじゃなくて『しない』ってだけだ。何だかんだ理由を付けてな」
「そんなもんかな」
「そんなもんさ。とは言え、俺にもできないことはある」
それを聞いて、秋也は意外に思った。
「って言うと?」
「俺の場合、広く浅くだからな。どんな技術でも、本職として長年やってる奴にゃ敵わない。
例えばシュウヤ、お前さんと俺とが戦ったとして、俺は多分、すぐ負けちまうだろうな。杖術と剣術にも多少の心得はあるけれっども、結局は我流だし。真面目に修行してきたお前さんのそれとじゃ、どうしたって見劣りするのさ。
……はは、だから俺は『何でも屋』なのさ。どの道でも、一流になれなかったんだから」
「そっか。……いや、だとしてもさ、『何でも屋』としては一流じゃないか? ずっと、しくじったコトないんだろ?」
「それも逆に言えば」
アルトは己を嘲るように、こう返した。
「二流の腕で成功する程度の仕事しか受けてないってことさ。俺は結局、半端者だよ」
「……」
秋也の頭には、返す言葉が浮かばない。
と、その様子を見たアルトが顔をくしゃ、と歪ませて大笑いした。
「うひゃひゃ……、謙遜だよ、謙遜。マジになるなって」
「あ、お、おう」
と、そんな風に話をしていたところに――。
「あ、あのぅ」
部屋の外から、少女の声がかけられた。
「ん? ……あ、ども」
「おっと、少しばかり騒々しかったようで」
「い、いえ。大丈夫です。……えっと、お邪魔します」
入ってきたのはロガン卿の一人娘の短耳、ノヴァだった。
「父から、その、お二人を持て成すようにと、託ったので、……えっと、お昼ごはんを」
「おりょ? そりゃ、ありがたい」
アルトはテーブルに広げていた服や地図を片付け、ノヴァが持ってきた料理を、これも手際よく並べ始めた。
「ありがとう、お嬢さん」
「い、いえ。そ、それじゃわたしは……」
立ち去ろうとするノヴァに、アルトは声をかける。
「良ければ可愛いご令嬢とご一緒に席を囲みたいのですが、御相席いただいてもよろしいでしょうか?」
「ひぇえ!?」
ノヴァは顔を真っ赤にし、後ずさる。
「……あ、いや。ご迷惑であれば、無理には」
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ノヴァはバタバタと慌てた足取りで、自分の分を取りに向かった。
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