「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・飾帝抄 5
麒麟を巡る話、第69話。
箱入り娘の口説き方。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
後にロガン卿から聞いた話だが、ノヴァは大分、人見知りする性格とのことだった。
実際、秋也たちと共に食事を取ることになった、この時の彼女は、食事を始めてからずっとうつむいていた。
「あの……?」
ずっと顔を合わせない彼女に不安を感じ、秋也が声をかけた。
「ひゃ、……はい! な、な、何でしょうかっ」
「何か、……その、気に障ったのかな」
「えっ?」
ようやく顔を挙げた彼女に、秋也はこう尋ねる。
「オレたちの方、全然見てくれないなと思って。何かしたかな、って」
「い、いえ、そんなこと。あの、えっと、……あまり、わたし、その、家の人以外と、話をしないのです。その、あまり家からも、出ませんし」
「そりゃ、勿体無いことだ」
と、アルトが口を開く。
「こんな可憐な方が、多感な時期に、まるで籠の中のカナリアの如く、家の中でじっとされているとは。まさか、お父上から外に出るなと言い付けられているとか?」
「いえ、そんなことは、全然……。ただわたしが、人付き合いをしない、と言うか、その、慣れない、だけで」
「ほうほう」
するとアルトは、ひょいとノヴァの側に寄り、甘い笑顔を作って見せる。
「重ね重ね勿体無いことだ。折角、青春を謳歌する自由のある今、己の心をぐいぐいと広げることのできる、二度と訪れぬこの時期に、黙々と家で過ごしてその機会を逃すなど!
そう、昔の偉人も仰っているでしょう、『人の出会いは不可思議で心躍るもの』と。人と人が出会い、心通わせること。それはどれほど奇跡に満ち、そして美しいことであるか!」
歯の浮くような台詞を並べ立て出したアルトに、秋也は唖然とする。
(こいつ……、そうだろうなとは薄々思ってたけど、軟派だなぁ)
「え、あ、……そう、ですね、はい」
対するノヴァも、まったくこの方面の経験が無いのだろう。何ら訝しく思うことなく、それどころか顔を紅潮させ、感動しているように見える。
その間にもアルトは、美辞麗句を並べ立ててノヴァを口説く。
「どうでしょう、お嬢さん。物は試しです。一度我々と一緒に、外へ遊びに出てみる、と言うのは如何でしょうか? きっと素敵な思い出になるはずです」
「え、でも、……ええと」
多少逡巡した様子を見せたものの、アルトの言葉に相当、刺激を受けたらしい。
「……では、少し、だけ」
その言葉を引き出させたアルトに、秋也はただただ感心するばかりだった。
(こいつ、詐欺師もできるんじゃねーか?)
秋也とアルトはノヴァを伴って、もう一度外出した。
しかしその途中から、秋也はそれとなく、アルトが彼女と二人きりになりたいと思っていることを察し、適当に口実を作って離れた。
(……いいのかなぁ。まあ、そりゃ、誰も『ロガン卿の娘を口説くな』なんて言っちゃいないけどさ。
でも明日、オレたちは陛下を連れて逃げるんだぞ? そんな時に、後ろ髪引かれるようなコト、していいのかって思うんだけどなぁ……)
そんなことをぼんやり考えながら、秋也はロガン卿の屋敷に戻った。
秋也が戻ってから2時間ほど遅れて、アルトたちも戻ってきた。
「……」
ノヴァを見てみると、彼女は顔を真っ赤にし、ぼんやりとだが、しかし喜んでいるような表情を浮かべている。相当、アルトとのデートに感動したようだった。
半ば浮いているかのような足取りで彼女が離れたところで、秋也は小声でアルトに詰問した。
「おい、アルト」
「ん?」
「いいのかよ、こんな時に」
「こんな時だからだよ」
アルトはさして乱れてもいない襟を、勿体ぶった仕草で直して見せながら、くるりと背を向けてその場から立ち去ろうとする。
その間際――。
「……本当に……には感謝しなきゃな……」
「え?」
アルトが何かをつぶやいたのが聞こえ、秋也は聞き返す。
「何か言ったか?」
「……何でもない」
アルトは秋也に背を向けたまま手を振って、廊下の奥へと消えた。
白猫夢・飾帝抄 終
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箱入り娘の口説き方。
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後にロガン卿から聞いた話だが、ノヴァは大分、人見知りする性格とのことだった。
実際、秋也たちと共に食事を取ることになった、この時の彼女は、食事を始めてからずっとうつむいていた。
「あの……?」
ずっと顔を合わせない彼女に不安を感じ、秋也が声をかけた。
「ひゃ、……はい! な、な、何でしょうかっ」
「何か、……その、気に障ったのかな」
「えっ?」
ようやく顔を挙げた彼女に、秋也はこう尋ねる。
「オレたちの方、全然見てくれないなと思って。何かしたかな、って」
「い、いえ、そんなこと。あの、えっと、……あまり、わたし、その、家の人以外と、話をしないのです。その、あまり家からも、出ませんし」
「そりゃ、勿体無いことだ」
と、アルトが口を開く。
「こんな可憐な方が、多感な時期に、まるで籠の中のカナリアの如く、家の中でじっとされているとは。まさか、お父上から外に出るなと言い付けられているとか?」
「いえ、そんなことは、全然……。ただわたしが、人付き合いをしない、と言うか、その、慣れない、だけで」
「ほうほう」
するとアルトは、ひょいとノヴァの側に寄り、甘い笑顔を作って見せる。
「重ね重ね勿体無いことだ。折角、青春を謳歌する自由のある今、己の心をぐいぐいと広げることのできる、二度と訪れぬこの時期に、黙々と家で過ごしてその機会を逃すなど!
そう、昔の偉人も仰っているでしょう、『人の出会いは不可思議で心躍るもの』と。人と人が出会い、心通わせること。それはどれほど奇跡に満ち、そして美しいことであるか!」
歯の浮くような台詞を並べ立て出したアルトに、秋也は唖然とする。
(こいつ……、そうだろうなとは薄々思ってたけど、軟派だなぁ)
「え、あ、……そう、ですね、はい」
対するノヴァも、まったくこの方面の経験が無いのだろう。何ら訝しく思うことなく、それどころか顔を紅潮させ、感動しているように見える。
その間にもアルトは、美辞麗句を並べ立ててノヴァを口説く。
「どうでしょう、お嬢さん。物は試しです。一度我々と一緒に、外へ遊びに出てみる、と言うのは如何でしょうか? きっと素敵な思い出になるはずです」
「え、でも、……ええと」
多少逡巡した様子を見せたものの、アルトの言葉に相当、刺激を受けたらしい。
「……では、少し、だけ」
その言葉を引き出させたアルトに、秋也はただただ感心するばかりだった。
(こいつ、詐欺師もできるんじゃねーか?)
秋也とアルトはノヴァを伴って、もう一度外出した。
しかしその途中から、秋也はそれとなく、アルトが彼女と二人きりになりたいと思っていることを察し、適当に口実を作って離れた。
(……いいのかなぁ。まあ、そりゃ、誰も『ロガン卿の娘を口説くな』なんて言っちゃいないけどさ。
でも明日、オレたちは陛下を連れて逃げるんだぞ? そんな時に、後ろ髪引かれるようなコト、していいのかって思うんだけどなぁ……)
そんなことをぼんやり考えながら、秋也はロガン卿の屋敷に戻った。
秋也が戻ってから2時間ほど遅れて、アルトたちも戻ってきた。
「……」
ノヴァを見てみると、彼女は顔を真っ赤にし、ぼんやりとだが、しかし喜んでいるような表情を浮かべている。相当、アルトとのデートに感動したようだった。
半ば浮いているかのような足取りで彼女が離れたところで、秋也は小声でアルトに詰問した。
「おい、アルト」
「ん?」
「いいのかよ、こんな時に」
「こんな時だからだよ」
アルトはさして乱れてもいない襟を、勿体ぶった仕草で直して見せながら、くるりと背を向けてその場から立ち去ろうとする。
その間際――。
「……本当に……には感謝しなきゃな……」
「え?」
アルトが何かをつぶやいたのが聞こえ、秋也は聞き返す。
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NoTitle
まさか、……ですね。