「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・離国抄 2
麒麟を巡る話、第71話。
皇帝逃しの偽装。
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2.
狩りの開始から4時間が経ち、側近たちのほとんどが出発地点へと戻ってきた。
「ほう、これは中々大きな……」
「いやいや、貴君の獲物も相当ですぞ」
「皆、今回は大勝と言えるな」
口々に猟果を褒め合っているところに、アロイスの重々しい声が飛んでくる。
「フィッボはまだ戻らないのか?」
「……え?」
それを受け、側近たちはきょろきょろと、辺りを見回す。
「いません、……な?」
「ロガン卿も見当たらない」
「まだ戻っていない、……にしては遅い」
「まさか……」
側近たちの顔から、喜びの笑みが消える。
「探せ」
そしてアロイスも、焦りのにじんだ声を投げつける。
「探すのだ! 何かあってからでは遅いぞ!」
側近とアロイスは慌てて、モダス帝が向かっていった森へと駆け込んだ。
そしてすぐに、ロガン卿の方は見つかった。
しかし彼は木の根元に倒れ、気を失っていると言う、尋常ならざる状態で発見された。
「ロガン卿、しっかりしろ!」
「そ、その顔は!?」
ロガン卿は頭から血を流しており、左こめかみには黒々としたあざが付いている。
「う、ぬ……」
助け起こされ、口に気付けのアルコールを含ませられたところで、ようやく目を覚ます。
「いたた……、どう、した?」
「それはこちらの台詞だ!」
「一体何があったのだ!? 陛下はどこに!?」
ロガン卿はぼんやりとした顔を向け、ぼそぼそとこう返した。
「そう言えば……、熊が現れて……」
「熊?」
「この時期に? ……いや、冬眠にはまだ大分早いか」
ロガン卿の言った通り、彼が頭部に受けた傷は、確かに熊の爪痕にも見える。
「私は陛下を守ろうと……、だが……、殴られて……」
「何と言うことだ……」
「さ、探すのだ! 陛下の身に何かあっては!」
側近たちは慌てて、周囲に散る。
だが――夜までかけても、モダス帝を見付けることはできなかった。
城に戻り、手当てを受け終えたロガン卿は、そそくさと自分の屋敷に戻った。
「お、お、お父様!? そ、その顔は……!」
迎えるなり顔を蒼ざめさせた娘、ノヴァに、ロガン卿はにこっと笑いかけた。
「心配するな、大丈夫だ。……まだ痛むが。
それよりも、……まあ、敷地内とは言え、外でできる話ではない。中で話そう」
「え? あ、はい」
屋敷の中に入り、がっちりと玄関を施錠したところで、ロガン卿は小声でこう話した。
「お前にだけ、事の顛末を伝えよう。お前ならみだりに、他人に話したりはしないだろうからな」
「な、何を、ですか?」
「表向き……、には。陛下は本日の狩りの途中、熊に襲われ行方不明と言うことになっている。明日も、そして恐らくは明後日以降も大々的に山林へ兵を放ち、捜索が行われるだろう」
「へ、陛下が……!? ああ、なんと言うこと……!」
ノヴァは口を押さえ、顔をさらに蒼くする。
と、ロガン卿は自分の胸の前でぱた、と手を振った。
「表向きには、だ。兵士も陛下の側近らも、真相は知らん」
「……と言いますと?」
「真相は私と陛下、そして昨日まで家にいたあの二人だけが知っている」
「アルトさんと、シュウヤさんがですか?」
「そうだ。二人は陛下を伴い、既に帝国を出ているはずだ」
「……え? えっ? えええっ!?」
きょとんとしていたノヴァの顔が、再度蒼ざめる。
「ま、ま、まさか? そ、そんな、嘘でしょう?」
「いや、本当の話だ。陛下はプラティノアールに亡命したのだ」
「そんな……」
くら、とノヴァの頭が後ろへ落ちかける。
それを支えつつ、ロガン卿は話を続けた。
「熊に襲われたと擬装するため、トッド君にわざと殴りつけられ、シュウヤ君の刀で傷を作ってもらった。この頭の包帯は、それだ。
そして陛下は変装し、トッド君らと共に国境へ向かったはずだ。昼前に起こったことであるし、今はもう、カプラスランドから遠く離れているだろう」
「……あ! で、では、わたしが昨日見た、服や地図は」
「恐らく変装用の服と、プラティノアール王国首都、シルバーレイクまでの道のりを記した地図だろう」
話を聞き終え、ノヴァの顔色はほとんど、白に近くなっている。
「そんな……、陛下はこの国を、み、見捨てたと……」
「そうではない。あの逆臣にして悪魔たるクサーラ卿を討つための、苦渋の決断なのだ」
「どう言うことですか?」
ノヴァが尋ね返した、その時だった。
玄関からバン、と言う破裂音が轟いた。
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狩りの開始から4時間が経ち、側近たちのほとんどが出発地点へと戻ってきた。
「ほう、これは中々大きな……」
「いやいや、貴君の獲物も相当ですぞ」
「皆、今回は大勝と言えるな」
口々に猟果を褒め合っているところに、アロイスの重々しい声が飛んでくる。
「フィッボはまだ戻らないのか?」
「……え?」
それを受け、側近たちはきょろきょろと、辺りを見回す。
「いません、……な?」
「ロガン卿も見当たらない」
「まだ戻っていない、……にしては遅い」
「まさか……」
側近たちの顔から、喜びの笑みが消える。
「探せ」
そしてアロイスも、焦りのにじんだ声を投げつける。
「探すのだ! 何かあってからでは遅いぞ!」
側近とアロイスは慌てて、モダス帝が向かっていった森へと駆け込んだ。
そしてすぐに、ロガン卿の方は見つかった。
しかし彼は木の根元に倒れ、気を失っていると言う、尋常ならざる状態で発見された。
「ロガン卿、しっかりしろ!」
「そ、その顔は!?」
ロガン卿は頭から血を流しており、左こめかみには黒々としたあざが付いている。
「う、ぬ……」
助け起こされ、口に気付けのアルコールを含ませられたところで、ようやく目を覚ます。
「いたた……、どう、した?」
「それはこちらの台詞だ!」
「一体何があったのだ!? 陛下はどこに!?」
ロガン卿はぼんやりとした顔を向け、ぼそぼそとこう返した。
「そう言えば……、熊が現れて……」
「熊?」
「この時期に? ……いや、冬眠にはまだ大分早いか」
ロガン卿の言った通り、彼が頭部に受けた傷は、確かに熊の爪痕にも見える。
「私は陛下を守ろうと……、だが……、殴られて……」
「何と言うことだ……」
「さ、探すのだ! 陛下の身に何かあっては!」
側近たちは慌てて、周囲に散る。
だが――夜までかけても、モダス帝を見付けることはできなかった。
城に戻り、手当てを受け終えたロガン卿は、そそくさと自分の屋敷に戻った。
「お、お、お父様!? そ、その顔は……!」
迎えるなり顔を蒼ざめさせた娘、ノヴァに、ロガン卿はにこっと笑いかけた。
「心配するな、大丈夫だ。……まだ痛むが。
それよりも、……まあ、敷地内とは言え、外でできる話ではない。中で話そう」
「え? あ、はい」
屋敷の中に入り、がっちりと玄関を施錠したところで、ロガン卿は小声でこう話した。
「お前にだけ、事の顛末を伝えよう。お前ならみだりに、他人に話したりはしないだろうからな」
「な、何を、ですか?」
「表向き……、には。陛下は本日の狩りの途中、熊に襲われ行方不明と言うことになっている。明日も、そして恐らくは明後日以降も大々的に山林へ兵を放ち、捜索が行われるだろう」
「へ、陛下が……!? ああ、なんと言うこと……!」
ノヴァは口を押さえ、顔をさらに蒼くする。
と、ロガン卿は自分の胸の前でぱた、と手を振った。
「表向きには、だ。兵士も陛下の側近らも、真相は知らん」
「……と言いますと?」
「真相は私と陛下、そして昨日まで家にいたあの二人だけが知っている」
「アルトさんと、シュウヤさんがですか?」
「そうだ。二人は陛下を伴い、既に帝国を出ているはずだ」
「……え? えっ? えええっ!?」
きょとんとしていたノヴァの顔が、再度蒼ざめる。
「ま、ま、まさか? そ、そんな、嘘でしょう?」
「いや、本当の話だ。陛下はプラティノアールに亡命したのだ」
「そんな……」
くら、とノヴァの頭が後ろへ落ちかける。
それを支えつつ、ロガン卿は話を続けた。
「熊に襲われたと擬装するため、トッド君にわざと殴りつけられ、シュウヤ君の刀で傷を作ってもらった。この頭の包帯は、それだ。
そして陛下は変装し、トッド君らと共に国境へ向かったはずだ。昼前に起こったことであるし、今はもう、カプラスランドから遠く離れているだろう」
「……あ! で、では、わたしが昨日見た、服や地図は」
「恐らく変装用の服と、プラティノアール王国首都、シルバーレイクまでの道のりを記した地図だろう」
話を聞き終え、ノヴァの顔色はほとんど、白に近くなっている。
「そんな……、陛下はこの国を、み、見捨てたと……」
「そうではない。あの逆臣にして悪魔たるクサーラ卿を討つための、苦渋の決断なのだ」
「どう言うことですか?」
ノヴァが尋ね返した、その時だった。
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