黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・離国抄 4

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    麒麟を巡る話、第73話。
    長い長い一日。

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    4.
     ロガン卿ら三人は大急ぎで街を抜け、郊外まで進んだ。
    「この先に、軍の詰所がある。馬車を借りれるか、聞いて来よう」
    「危険では……? 既に、軍全体に閣下を拿捕せよとの通達が出ておりますし」
     そう尋ねたサンデルに、ロガン卿は首を横に振る。
    「私が相手であれば、融通も利くだろう。ここで待っていてくれ」
     そう言ってロガン卿は娘を背から下ろし、詰所に歩いて行った。
    「……あ、あのぅ」
     と、ノヴァが恐る恐る、サンデルに顔を向ける。
    「何でしょうか」
    「ど、どうして、マーニュさんは、その、あんな危険な目に遭ってまで、父を助けてくれたのですか? その、父を捕まえろと言う、通達が出ていると言っていたのに」
    「言うまでもないことです。吾輩をはじめとして、この国の兵士のほとんど大半と言っていいくらいの人間が、閣下には恩義がある。
     閣下の尽力が無ければ、吾輩ら兵士の3分の1は、あの憎きクサーラ卿の無謀・無策によって、とっくに土の中にいたでしょうからな」
    「そ、そうですか」
     話しているうちに、ロガン卿が馬車に乗って戻って来た。
    「借りることができた。さあ、乗ってくれ」

     馬車を駆り、逃亡から1時間後には、三人は街の灯がうっすらと見えるくらいの距離まで離れることができた。
    「……済まなかった」
     と、ロガン卿が唐突に口を開く。
    「計画通りであれば、事態が急変するまでに、少なくとも1週間かそこらは猶予があったはずであり、我々に危害が加えられることは無かったはずだったのだが。
     まさかクサーラ卿に、擬装を見破られるとは」
    「済んだことです。お気になさらぬよう。
     ……と、もしやすると陛下たちも同じ道を進んでいるやも知れませんな」
    「そうだな。首尾よく拾えれば良いのだが」
     と、そう話していた矢先に、ノヴァが「あ」と声を上げた。
    「どうした?」
    「あっ、いえ、あの、多分見間違い……」
    「何と見間違えたのかな、ノヴァ?」
     ロガン卿が優しい口調でそう尋ねると、ノヴァは顔を赤らめながら、ぼそ、とつぶやく。
    「あの、アルトさん、に、その、似た方がいた、ように、えっと、でも」
    「アルト? ……トッド君か?」
     ノヴァが小さくうなずくのも確認せず、ロガン卿は馬車を止めて飛び降りる。
    「そこにいるのは、もしや……?」
     街道をわずかに外れ、毛布を胸の辺りにかけて、木の根元に寝転がっていた兎獣人に声をかける。
    「おや、その声は」
     兎獣人は顔を挙げ、ロガン卿に応答する。
    「やはり閣下でございましたか。察するに、早くも露見したと言うところでしょうか」
    「流石の慧眼であるな。その通りだ」
     アルトはひょいと立ち上がり、キャスケット帽を被って街道へと歩み寄る。
    「となると、ここでグズグズはしていられないようですな。
     陛下とシュウヤを起こしてきます。二人とも安全のため、奥で休んでもらっていたもので」
    「助かる」
     アルトは森の奥に入り、少しして秋也とモダス帝を伴って戻ってきた。
     モダス帝は目をこすりながら、ロガン卿に声をかける。
    「やあ、シャルル。しばらくぶりだな」
    「朝に別れたばかりでしょう」
     苦い顔を向けたロガン卿に、モダス帝はクスクスと笑って見せた。
    「そうだった。しかし君にとっては、もう何日も経った気分ではないか?」
    「仰る通りですな。まったく大変な一日でしたよ」
    「それは悪かった。君をなるべく危険には晒すまいとしたのだが、裏目になったようだ。
     こうなったら素直に頼むしかない。シャルル、一緒に来てくれるか?」
    「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします。ただ、2人ばかり増えてしまいましたが」
    「旅のお供は多い方が楽しいもんですぜ」
     と、アルトが口を挟む。
    「よろしくお願いいたします、ロガン卿、そしてノヴァお嬢様」
     優雅に頭を下げたアルトに、ロガン卿は怪訝な目を向ける。
    「トッド君?」
    「なんでしょう?」
    「まさか……、手は付けておらんだろうな?」
    「まさかまさか。そうでしょう?」
     そう言っておいて、アルトはノヴァに笑顔を向ける。ところがそれを見たノヴァは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
     初心過ぎる反応を返されたアルトは、慌ててロガン卿に弁解する。
    「……いやいや、本当に手を付けてなどおりません。ただ少しばかり、シュウヤを交えて話をしたくらいで。
     そうでしょう、ね、お嬢様?」
    「えっ、あっ、は、はい」
     ぶんぶんと頭を振る娘と冷や汗を浮かべるアルトとを交互に見比べ、ロガン卿ははあ、とため息を漏らした。
    「……信じることにしよう。だがトッド君、私は君を陛下の護衛として雇ったのだと言うことは、忘れないでもらいたい」
    「勿論ですとも。さ、さ、早く馬車に乗りましょう」
     アルトはそそくさと馬車に乗り、手綱を握って見せる。
    「シュウヤ、またお前さんに手伝ってもらいたいんだが、構わないか?」
    「ああ、いいよ」
     三々五々、馬車に乗り込む面々を、その一歩後ろで眺めつつ、秋也も馬車に向かう。
    「……まったく、行きも帰りもとんだ旅になりそうだな」
     秋也が小さくつぶやいたその言葉は、誰にも聞かれなかった。

    白猫夢・離国抄 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    出してない。……はず。
    出してたらアルトは仄めかして言うくらいのことはすると思います。

    NoTitle 

    はやり手を出していたのかv-12
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