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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狂狐録 1

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    晴奈の話、第119話。
    いよいよ天原討伐の時、来る。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
     湿っぽい部屋の中で、天原はとても楽しそうな声をあげている。
    「ほーら、見てくださいよ篠原くん」
    「……」
     天原は檻の中に納められているものを指差し、ニヤニヤしながら語る。
    「櫟のころから数えて50体目と言う、この節目を記念するかのような出来栄えです」
    「なるほど」
     天原とは対照的に、篠原は終始無愛想に応える。
    「この爪! この毛並み! そしてこの、通常の生物ではありえない六本脚に、ぱっくりと口の裂けた獰猛な顔っ! まさに、まさに怪物と言うにふさわしい! そう思いませんか篠原くん!」
    「そうですな」
     気の無い返事に、天原の声があからさまに落ち込む。
    「……篠原くぅん。もうちょっと愛想よくしてくださいよ。自分の主人を喜ばせる気、無いんですか?」
    「そんなつもりは毛頭ございません」
    「ならいいですけどね、別に。ほら、次行きますよ」
     天原は露骨に不機嫌そうな表情になり、次の檻に向かった。

     櫟を妖怪に変えて以降、天原の倫理観は歪んだ。元々から魔術の研究に打ち込んでいた天原だが、流石に「人体実験」まではしたことがなかった。
     しかし弟を実験台にしたことで、そのタガが外れたらしい。当主になった直後から、「人をほしがる」ようになった。天原は篠原一派に「人狩り」を命じ、天玄の各所から密かに人を集めて、夜ごと怪物作りに励んだ。それでも「数が足りない」とごね始めたため、篠原たちは裏の世界に手を回して、中央大陸全土にその市場を持つ人身売買組織と取引するようになった。
     この10年間で天原が実験台に使った人間の数は、三桁に届く。現在の天原は、すっかり狂学者と化してしまっていた。
     なお、後に妖狐と化した櫟が脱走した際も、天玄での目撃者を消すために、この組織に手を借りている。目撃者及びその家族は――一名を除いて――全員表の世界から、また、この世から姿を消した。



    「ハァ、ハァ……」
    「セイナ! こっちだ!」
     晴奈とウィルバーは隠密たちに追われていた。流石に敵の陣内で、潜伏技術のない晴奈たちがいつまでも隠れきれるものではない。兵士たちが押し込まれた倉庫から出て間もなく、発見されてしまったのだ。
     慌てて回りこんだ廊下の先で、晴奈はある作戦を思いつく。
    「ウィルバー、一人任せたッ!」
    「お、おう?」
     晴奈はウィルバーに背を向け、くるりと向き直る。向き直ると同時に、隠密2人が飛び込んできた。
    「それッ!」「あ、……うッ!?」
     晴奈は姿勢を落とし、隠密の膝を思いっきり蹴った。ゴキ、と言う鈍い音を立て、隠密の膝が逆方向に曲がる。そのまま倒れこむ敵の胸に肘を入れ、のけぞらせた。
    「そーゆーコトか、分かったぜセイナ!」
     ウィルバーも晴奈の意図を理解し、目を白黒させているもう一名の隠密に殴りかかる。
    「はあッ!」「ぎゃッ!」
     虚を突かれた隠密はウィルバーの拳を顔面に喰らい、鼻血を噴いて倒れる。晴奈が相手していた敵もジグザグに体を折り曲げ、横になっていた。
    「よし、刀も持っている。ウィルバー、使えるか?」
     晴奈が尋ねると、ウィルバーは自慢げに胸を反らす。
    「なめんな。黒炎教団の僧兵は『武芸十般』って言ってな、刀剣、槍矛、薙刀、弓、棍、その他諸々、あらゆる武器を使いこなせるように訓練されてんだよ」
    「それは失敬」
     二人は隠密から刀を奪い、腰に差す。
    「これで、武器は確保できた。……考えれば、これは千載一遇の勝機だな」
    「あん?」
     首をかしげたウィルバーに対し、晴奈はニヤリと不敵に笑う。
    「倒さねばならぬ敵が、わざわざその懐に招きいれてくれたのだ。ここで尻尾を巻いて逃げては、剣士の名折れだ」
    「つまり、アマハラの野郎を倒すってことか?」
    「そう言うことだ。ウィルバー、お前はさっきの倉庫に戻り、仲間を助けて逃げろ。私は天原を討つ」
     晴奈の提案を聞いたウィルバーは、憮然とした顔で晴奈の鼻をつかんできた。
    「なーにカッコつけてんだ」「ふなっ? なひほふふ、ひふはー?(何をする、ウィルバー)」
     ウィルバーは晴奈の鼻をつまみながら反論する。
    「お前に美味しいトコ取られてたまるかよ。それにな、アマハラは教団にもたてついて、同志たちを実験台にしようとしてるんだぜ? オレにだって倒す理由がある。敵のお前に討ってもらうなんて、情けねーことできっかよ」
    「なふほほな、ほういふほほは。……へほははへ、ひふはー(なるほどな、そう言うことか。……手を離せ、ウィルバー)」
     晴奈はウィルバーの手を鼻からはがし、深呼吸する。
    「すーはー。……お前の気持ちは重々分かった、ウィルバー。そう言うことなら一緒に行くとしよう。
     お前と私は敵同士だ。が、ここは一つ休戦と行こう」
    「ああ、そうしよう。……今だけ、協力するぜ。今だけ、な」
    「強調しなくても分かっている。さあ、行くぞ」
     晴奈とウィルバーは約束を確認しあうように――互いにためらいつつも――握手した。
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    ~ Comment ~

     

    黒炎教団は央中と央南、二つの異文化の交流地なので、新しい文化の発信地でもあったりします。
    戦い方のレパートリーが豊富だったりするのは、そのせいかも。

     

    ウィルバーは武芸全般が得意なのですね。
    どっかの江戸時代の黒集団みたい…ってまさにそのものですね。甲賀や伊賀など色々な忍びもいますしね。結構、戦いの時代はそういった流派が生まれやすいのでしょうね。
    どうも、LnadMでした。
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