黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・帝憶抄 1

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    麒麟を巡る話、第74話。
    混乱する城内。

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    1.
     モダス帝の失踪と、それに帝国の重鎮であるロガン卿が関与していた事実を受け、カプラス城内は大騒ぎになっていた。
    「まさかロガン卿が、こんな大それたことを企てるとは……」
    「陛下は果たしてご無事なのだろうか」
     側近らが集まり今後の対応、即ち誰がこの国を、皇帝に代行して引っ張っていくかを論じる場が立てられたが、誰も彼もがそれを口に出そうとしない。
    「……」
     会議の中心に座りながらまだ何も発言しない参謀アロイスが、その役割を担うであろうことは十中八九明らかだったからである。
    「……」
    「あの、クサーラ卿」
     会議が進展しないので、ようやく一人が声をかける。
    「なんだッ!?」
    「あっ、いや、……何でもござぃません」
     が、まるで吠えるように返事を返され、二の句が継げなくなる。
    「……卿!」
     と、意を決したらしい他の者が、負けじと強い口調で尋ねる。
    「なんだと聞いている!」
    「このままでは埒が明きません! どうか卿、あなたが陛下の代行を務める形で、当面の統治を行っていただけませんか?」
    「……」
     が、アロイスは答えない。
    「あの……?」
    「クサーラ卿?」
    「如何でしょうか?」
     側近らが何度か尋ね返すと、彼は唐突に立ち上がり、依然きつい口調のまま尋ね返してきた。
    「お前たちはフィッボがもう既にいないものとして、今後の統治を考えているのか?」
    「え? いや、ですからいない間は、と……」
    「フィッボはすぐ戻る! いいや、連れ戻すのだ! あのなんら道理の分かっていない無知蒙昧の逆臣、シャルル・ロガンの手からな!
     こんな会議などのんびりやっている場合ではない! いいか、すぐにフィッボ奪還の部隊を結成するのだ! 一日、一時間でも早く、フィッボをこの国の玉座に戻すのだ!」
    「い、いや、ですから。勿論奪還するにしても、その間は空位なわけですから」
     会議を進めようとした側近に、突然アロイスは歩み寄る。
    「分からんのかッ!」
    「え、あの、きょ」
     次の瞬間――その側近が、椅子ごと姿を消す。
    「!?」
    「ひっ……!」
     一瞬間を置いて、ぐちゃ、と何かが壁に叩きつけられる水っぽい音が、室内に鈍く響く。
    「何度も言わせるな……! 早急に、連れ戻すのだ!」
     そう叫び、アロイスは場を後にする。
    「うう……」
    「なんと、恐ろしい……」
     壁に頭からぶつけられ、下半身だけになった同僚の、血まみれの姿を見た側近らは、一様に顔を青ざめさせた。

     フィッボ・モダス帝の失踪したその日から、カプラス城内の雰囲気は悪しきものに変わった。
     アロイスの狂気じみた捜索が始まるとともに、いつ何時彼の機嫌を損ね、人の姿から血の詰まった肉塊へと変えられるかと言う物理的・直接的恐怖が、城内を覆っていた。
     そんな状況では、まともな政治運営すらできるわけがない。城内の、そして帝国の情勢は、さらに悪化の一途をたどった。



     一方、こちらはそんな事情など全く知る由もない秋也たち一行。
    「……ってなわけで、今も3世は生きているとのたまう教授らが絶えることはない、と言うわけでございます」
     馬車の中では、追われていることなど微塵も感じさせない陽気な口調で、アルトが面白おかしく話を聞かせている。
    「へぇ……。何と言うか、その……、不思議な、感じのお話ですね」
    「なるほど、大富豪の失踪と隠し財産のうわさ、であるか。確かにロマンめいたものを感じずにはいられんな」
     素直に感動した様子のロガン父娘に対し、御者台に座る秋也とサンデルは、懐疑的な意見を返す。
    「吾輩には眉唾としか思えんがなぁ」
    「まあ、オレもどっちかって言えば同意見っスねぇ。陛下はどうお考えでしょう?」
     秋也がそう水を向け、モダス帝はくすくすと笑って返す。
    「そうだな、私も現実主義者だから、そう信じられる話ではない。しかし実際、君は『ミッドランドの悪魔』に出会ったのだろう?」
    「え? ええ、まあ」
    「私の記憶が確かならば、ミッドランドはニコル3世が造成した街のはずだ。そしてその悪魔も、元々3世の別荘だった屋敷の地下に封印されていたのだろう?
     ならば他の、3世が造った街のどこかに、悪魔ではないにしろ、何かしらが封印されていてもおかしくはない。
     夢のある考えをするなら、それも有りだろう?」
    「なるほど、一理あるっスね」
    「ふむぅ……、確かに」
     二人が感心したところで、モダス帝が肩をすくめて見せる。
    「ああ、そうだ。言おう、言おうと思ってうっかりしていたが。
     旅の間だけで構わんから、どうか私のことは敬称ではなく、気楽にフィッボと呼んでもらえないだろうか?」
    「え、いや……」
    「繰り返し言うようだが、私は元々、在野の平民なのだ。そんな男が『帝』だの『陛下』だの祭り上げられるのは、正直落ち着かない。
     それに旅の間、そんな勿体つけた呼び方をしているのが周りに聞こえたら、問題の種になりかねん。極力、同僚・同輩として接してくれ」
     そこでアルトがくるりと顔を向け、こう答えてきた。
    「了解であります。ではこの旅の間は、単純にフィッボ君と」
    「ああ、そうしてくれ」
     モダス帝――フィッボは嬉しそうにうなずいた。
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    NoTitle 

    残念ながら、まだ出ません。
    彼は満を持して登場してもらう予定です。

    NoTitle 

    こんどこそ大火v-394

    NoTitle 

    そのコメントを使わせていただきました(*´∀`)

     

    また懐かしい名前が……って、一年たってないのか(^_^)

    そのおりこんなコメントしたことを覚えてます(^_^)
    • #1292 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.08/19 22:36 
    •  ▲EntryTop 
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