「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・帝憶抄 3
麒麟を巡る話、第76話。
野宿の夜。
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3.
いくら急ぎの旅とは言え、夜になっては馬車を満足に走らせることはできない。道の見通しが悪く、路面状況も非常に分かり辛いし、何より馬が怖がるためである。
かと言って、宿を取って休むことも勿論できない。一般的な西方風の服装をしたアルトとフィッボ、ノヴァはともかく、いかにも軍人風のロガン卿とサンデルに加え、異国の剣士である秋也と言う奇妙な面子では、いくらなんでも目に付き過ぎるからだ。
消去法的に一行は、野宿と言う休息方法を採ることになった。
「すう……、すう……」
「ぐう、ぐう……」
「んごご……、んがっ……」
幸いにして、馬車は大人6人がゆったり足を伸ばして寝転べることができるくらいには広い。秋也を一人、寝ずの番に立て、残りは馬車の中で寝息を立てている。
「ふあ、……ああ」
秋也は欠伸を噛み殺しながら、焚火替わりの「火術灯」――これも言わずと知れた、トポリーノ野外雑貨の人気商品である――をぼんやり眺めていた。
(こうして落ち着いて考えてみると、とんでもないコトになってるんだよなぁ。一国の主を連れて、その国に追われる身になってるって……。
成り行きでここまで、コトが大きくなるなんて)
秋也は改めて、白猫に対する訝しい思いを抱いた。
(白猫……、アイツは一体何なんだろう。どうしてもオレには、何か良からぬコトのために、アイツにいいようにされてるような気しかしないんだよな。
そりゃ確かに未来は見えるんだろうさ。誰も予想してないような、こんな事態にオレをひょいと巻き込ませられるんだから。だからアイツの力は確かだ。ソレは、納得できる。
納得できないのは、その意図だ。どうしてオレなんだ? なんでオレをこんなコトに巻き込ませたんだ? ソレが分からない。
アイツは一体オレを、どうしたいんだろうか)
そんなことを考えているうち、目の前に置いていた「火術灯」の光がぼや……、と薄くなる。
「あれっ? ……おっかしいな」
灯が弱くなった原因を調べようと、秋也は手袋をはめ、それを手に取る。
「んー……? 燃料はまだ入ってるよな? 空気穴も塞がってないし。となると……」
ぱか、と灯りの蓋を開け、中の様子を確かめる。
「うーん……」
しかし特におかしいと思うような点もなく、秋也はうなるしかない。
と、秋也の背後からひょい、と手が伸びる。
「ああ、なるほど」
「フィッボさん?」
秋也の背後に、いつの間にかフィッボが立っていた。
(あれ……、いつ起きたんだろ?)
秋也も――免許皆伝に成り立てとは言え――ひとかどの剣士であるし、気配の読み方もそれなりに知っている。
ところがこの兎獣人の気配を、秋也は少しも察知することができなかった。
「ほら、ここ。魔法陣の基板が入ってるが、割れてしまっている。寿命だな」
「え、……じゃあもう壊れちゃったってコトっスか」
「ああ。元々が軍の備品だから、荒い使い方をしていたのだろうね。……いや、でも」
フィッボは基板を取り出し、目を凝らして調べる。
「直せるんですか?」
「応急処置くらいならできなくもなさそうだ。ちょっと、馬車の中の灯りを取ってくる」
そう言うとフィッボは、ポンと飛び跳ねた。
「……っ!」
俊敏な秋也やアルトでも、はしごを使わなければ登れない程度には大きな馬車である。
ところがフィッボは、音もなくその大きな馬車の中に飛び込み、そして静かに地面へ降り立ち、秋也のところへ戻ってきた。
「随分……、身軽なんですね」
「ああ。私は少しばかり、他人より身体能力が高いから。
早めに直してしまおう。これが無いと、皆が凍えてしまうからな」
そう言ってフィッボは秋也の横に腰を下ろし、灯りを修理し始めた。
「最前線にいた時は、こうやって何度も基板を修繕したものさ。戦い始めた頃は、補給もままならない状況が度々あったからね」
「そっか……、昔はフィッボさん、戦ってたんですよね」
「ああ。今はもう、武器を手に取るのも嫌になってしまったが」
「どうしてです? 何かあった、とか?」
そう聞いた時、秋也は内心、しまったと思った。フィッボの顔が、ひどく曇ってしまったからだ。
「あ、えと……、その、……言いたくなければ、今の、無しで」
「いや、話しておこう。君に依頼した内容にも、関わってくることだし」
フィッボはそう返し、基板をいじりながら、昔の話をしてくれた。
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野宿の夜。
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いくら急ぎの旅とは言え、夜になっては馬車を満足に走らせることはできない。道の見通しが悪く、路面状況も非常に分かり辛いし、何より馬が怖がるためである。
かと言って、宿を取って休むことも勿論できない。一般的な西方風の服装をしたアルトとフィッボ、ノヴァはともかく、いかにも軍人風のロガン卿とサンデルに加え、異国の剣士である秋也と言う奇妙な面子では、いくらなんでも目に付き過ぎるからだ。
消去法的に一行は、野宿と言う休息方法を採ることになった。
「すう……、すう……」
「ぐう、ぐう……」
「んごご……、んがっ……」
幸いにして、馬車は大人6人がゆったり足を伸ばして寝転べることができるくらいには広い。秋也を一人、寝ずの番に立て、残りは馬車の中で寝息を立てている。
「ふあ、……ああ」
秋也は欠伸を噛み殺しながら、焚火替わりの「火術灯」――これも言わずと知れた、トポリーノ野外雑貨の人気商品である――をぼんやり眺めていた。
(こうして落ち着いて考えてみると、とんでもないコトになってるんだよなぁ。一国の主を連れて、その国に追われる身になってるって……。
成り行きでここまで、コトが大きくなるなんて)
秋也は改めて、白猫に対する訝しい思いを抱いた。
(白猫……、アイツは一体何なんだろう。どうしてもオレには、何か良からぬコトのために、アイツにいいようにされてるような気しかしないんだよな。
そりゃ確かに未来は見えるんだろうさ。誰も予想してないような、こんな事態にオレをひょいと巻き込ませられるんだから。だからアイツの力は確かだ。ソレは、納得できる。
納得できないのは、その意図だ。どうしてオレなんだ? なんでオレをこんなコトに巻き込ませたんだ? ソレが分からない。
アイツは一体オレを、どうしたいんだろうか)
そんなことを考えているうち、目の前に置いていた「火術灯」の光がぼや……、と薄くなる。
「あれっ? ……おっかしいな」
灯が弱くなった原因を調べようと、秋也は手袋をはめ、それを手に取る。
「んー……? 燃料はまだ入ってるよな? 空気穴も塞がってないし。となると……」
ぱか、と灯りの蓋を開け、中の様子を確かめる。
「うーん……」
しかし特におかしいと思うような点もなく、秋也はうなるしかない。
と、秋也の背後からひょい、と手が伸びる。
「ああ、なるほど」
「フィッボさん?」
秋也の背後に、いつの間にかフィッボが立っていた。
(あれ……、いつ起きたんだろ?)
秋也も――免許皆伝に成り立てとは言え――ひとかどの剣士であるし、気配の読み方もそれなりに知っている。
ところがこの兎獣人の気配を、秋也は少しも察知することができなかった。
「ほら、ここ。魔法陣の基板が入ってるが、割れてしまっている。寿命だな」
「え、……じゃあもう壊れちゃったってコトっスか」
「ああ。元々が軍の備品だから、荒い使い方をしていたのだろうね。……いや、でも」
フィッボは基板を取り出し、目を凝らして調べる。
「直せるんですか?」
「応急処置くらいならできなくもなさそうだ。ちょっと、馬車の中の灯りを取ってくる」
そう言うとフィッボは、ポンと飛び跳ねた。
「……っ!」
俊敏な秋也やアルトでも、はしごを使わなければ登れない程度には大きな馬車である。
ところがフィッボは、音もなくその大きな馬車の中に飛び込み、そして静かに地面へ降り立ち、秋也のところへ戻ってきた。
「随分……、身軽なんですね」
「ああ。私は少しばかり、他人より身体能力が高いから。
早めに直してしまおう。これが無いと、皆が凍えてしまうからな」
そう言ってフィッボは秋也の横に腰を下ろし、灯りを修理し始めた。
「最前線にいた時は、こうやって何度も基板を修繕したものさ。戦い始めた頃は、補給もままならない状況が度々あったからね」
「そっか……、昔はフィッボさん、戦ってたんですよね」
「ああ。今はもう、武器を手に取るのも嫌になってしまったが」
「どうしてです? 何かあった、とか?」
そう聞いた時、秋也は内心、しまったと思った。フィッボの顔が、ひどく曇ってしまったからだ。
「あ、えと……、その、……言いたくなければ、今の、無しで」
「いや、話しておこう。君に依頼した内容にも、関わってくることだし」
フィッボはそう返し、基板をいじりながら、昔の話をしてくれた。
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