黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・帝憶抄 4

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    麒麟を巡る話、第77話。
    鉱山事故と杜撰な対応。

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    4.
     双月暦523年、西方南部三国の一つ、グリサルジャン王国の最北端の、今は無きとある村。
     いや――その村はその日、消滅したのだ。



    「はぁっ、はぁ……、げほっ、げほっ」
     元々はほんのりと紫を帯びた赤い髪は、所々が白く脱色してしまっている。数時間前まで彼の自慢だった濃い銀色の兎耳と尻尾にも、白い斑点がぽつぽつと浮かんでいる。
    「だ、誰か……、助けて……」
     彼はがくんと膝を着き、その場に倒れこんだ。
     結局はそれが彼、フィリップの命を救うことになった。何故なら村を滅ぼし、彼の髪や耳尾を脱色させた原因であるそのガスは、空気より軽いものだったからだ。

     フィリップと彼の父親、父親の友人、そして彼自身の友人の多くは、村の北にある鉱山で働く鉱夫だった。
     俗に「西方三国」と呼ばれる三ヶ国の北には、東西に延びる形で希少金属の鉱脈があり、彼らはその採掘を生業としていた。
     しかし鉱山採掘には、様々な危険が伴う。掘り進んだ穴が落盤し、生き埋めになる危険。溶岩帯や間欠泉を掘り当て、焼け死ぬ危険。突如現れたクレバスに落ちる危険。そして――ガスが発生する危険もある。
     その日、鉱夫たちが掘り当ててしまったものは、その中でも極めて悪性の高いガスだった。毒性の強さに加え、極めて可燃性の高いガスであったため、掘り当てた瞬間に起こった火花でガスは一挙に爆発。彼以外の鉱夫は全員この爆発と、それによって起こった落盤によって死亡した。
     フィリップはこの時偶然にも、石を運び出す作業の最中であったため、爆風に吹き飛ばされるだけで済んだが、悪夢はそれで終わりではなかった。それまで村の下に溜まっていたものの、安定した状態にあったガスが、鉱山での爆発によって次々に連鎖反応を起こし、爆発と噴出を繰り返したのだ。

    「……っ」
     彼が目を覚ました時には、地表に噴き出したガスははるか上空へ散り、中毒の危険は去っていた。
     しかし依然、地中のガスは燃え続けており――。
    「……嘘だ、こんなの……! 夢に……、夢に決まってるっ……」
     村があった場所は大きく陥没し、轟々と火柱を上げる地獄絵図と化していた。



     数時間後、フィリップを含め生き残った村の人間十数名は、騒ぎを聞き付けた王国軍によって救出・保護された。
     そこでフィリップは、肉親や友人が亡くなったこと、村が壊滅状態になったことを聞かされたが、さらに彼を打ちのめしたのが――。
    「なんですって……!?」
    「だから、言った通りだ。明日には全員、基地から退去してもらう」
    「そんな無茶な! まだ顔が真っ青な子もいるし、僕みたいに、大ケガしてる人だって……」
    「口答えするな! これも御国のためだ」
     なんと国王から軍を通じて、保護した翌日には村へ戻って採掘を再開するようにとの指示が下されたのだ。
     爆発により坑道は完全に塞がっているし、村も依然として火柱が上がったままである。採掘どころか、まともに生活すらできない状況であることを、彼は通知してきた将校に訴えたが――。
    「ああ、分かった分かった! もういい、とにかく帰れ!
     我々は近々また、ロージュマーブルと戦争せねばならんのだ! こんな下らんことにいつまでも関わらせるな!」
    「は……!?」
     自分たちの、生死に関わる問題を「下らん」と言い切られ、温厚なフィリップも流石に激昂した。
    「く、下らないですって……! あなたたち程じゃないにしろ、僕たちだって死ぬ危険があったこの事故を、下らないと、そう言うんですか!?」
    「口答えするのか、貴様ッ!」
     その後に何があったかフィリップは覚えていなかったが、どうやら将校に殴る、蹴るの暴行を散々受け、気絶したらしい。

     もう一度目を覚ました時、フィリップは牢に放り込まれていた。
    「うっ、……く」
     痛む体を無理やりに起こし、彼は鉄格子によろよろとしがみついた。
    「僕は……、僕は許さないぞ……! 人の暮らしより、国民の安全より、自分勝手にドンパチやる方が好きなのか、お前らーッ!」
     その叫びに、すぐ兵士たちが駆けつける。
     フィリップはもう一度、体中が紫色になるまで殴りつけられた。



     これがフィリップ・モダス――後のフィッボ・モダス帝が立身しようと決意した、その契機である。
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