「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・帝憶抄 5
麒麟を巡る話、第78話。
鉄の悪魔、六度目の降臨。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
フィリップは傷だらけのまま、基地の外に放り出された。
正確に言えば、粗忽な兵士たちが気絶した彼を死んだものと勘違いし、ゴミと一緒に山へ捨てたのである。
「ひゅー、ひゅ、っー……」
放り出されてから数時間後、どうにか息を吹き返したものの、そのまま放置されれば死ぬのは明らかだった。
しかしフィリップには、既に指一本動かすだけの気力も、体力も残っていない。
(こんな……、こんな死に方……!)
奇跡的に戻った意識が、刻一刻と薄まっていく。
(僕の人生って……、一体……、なん……だったん……だ……)
腫れ上がった目から、血と一緒に涙が流れてくる。
フィリップは今度こそ、死を覚悟した。
その時だった。
「お前はここで死ぬべき器ではない」
瀕死の彼に、話しかける者がいる。
「ひゅーっ……」
言葉を返そうとしたが、どうやら肺かのどに穴が開いているらしい。声はただの風音となって、口から出てきた。
それでも、そのフードを深く被った男は、フィリップの意思を察したようだった。
「私は御子に仕える命を受けた者。そう、お前こそが次代の御子となるべき器なのだ」
彼が何を言っているのかはさっぱり分からなかったが、それでもフィリップは、口からひゅーひゅーと弱々しい声を出し、助けを乞う。
「お前に力を与えよう。この世を動かし、意のままに操れるだけの力を」
フードの男が、フィリップの額に掌を押し付けた。
「……!」
鳥の鳴き声で、フィリップは目を覚ました。
「あ……れ?」
昨夜の出来事が、脳裏に蘇ってくる。
「ここは……、天国?」
「そうではない。現世だ」
傍らに立っていたあのフードの男が、フィリップの独り言に答えた。
「うわっ!? ……あ、と、あなたは、昨夜の?」
「そうだ」
「あなたが、僕を助けてくれたの?」
「正確には違う。お前自身の力を増幅し、その結果、お前はお前自身の力で、己の傷を治したのだ」
「……? どう言うこと?」
男の言うことが分からず、フィリップは首を傾げる。
「立てるか?」
フィリップの問いに対し、男はそう返した。
「え? ……うん、普通に立てるよ」
「兵士らにあれだけ暴行を受けた体でも、か?」
「あれ? そう言えば……」
フィリップは自分の体を確かめてみる。服はボロボロになっているが、体にはあざ一つ付いていない。
「人間には自然治癒力と言う力が備わっている。多少の怪我でも、放っておけば数日で治ってしまうのは、その力によるものだ。だが普通の人間であれば肉が裂け、骨が折れるようなダメージまで治癒できる力は持っていない。
お前はその限界を、大きく凌駕しているのだ」
「僕が? まさか! だって僕は、ただの鉱夫見習いだよ?」
否定するフィリップに対し、男は突然、フィリップの腕を取った。
「な、なに?」
「良く見てみるがいい、己の腕を」
「え……?」
言われるがまま、フィリップは自分の腕を観察する。
「……あれ?」
鉱山で働いていたし、元々それなりに筋肉は付いていた。
しかし今、男に掴まれているその腕は、昨日とはまるで筋肉の量、そして付き方が違って見える。
「これって……?」
「もう一度言う。お前の力は飛躍的に増幅されているのだ。昨日までのお前とは、まったくの別人と思え」
「って言われても」
ぼんやりとした返事をしたフィリップの手を放し、男は近くの木を指差した。
「殴ってみろ。全力でだ。それですべてが分かる」
「えー……、痛そうなんだけど」
文句を言いながらも、フィリップは拳を固め、木の前に立ってみる。
自分でも信じられないほど腕にみなぎっていた力を、試してみたくなったからだ。
「じゃあ、……えいっ!」
フィリップは言われた通りに、木の幹を殴りつける。
次の瞬間――ベキベキと木の裂ける音とともに、フィリップの拳が木の反対側に突き抜けていた。
「なっ、……えええっ!?」
「分かっただろう。お前は既に、昨日までのお前ではないのだ。
お前は御子――乱れしこの世を真に治める使命を負った、この世にただ一人の存在なのだ」
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鉄の悪魔、六度目の降臨。
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5.
フィリップは傷だらけのまま、基地の外に放り出された。
正確に言えば、粗忽な兵士たちが気絶した彼を死んだものと勘違いし、ゴミと一緒に山へ捨てたのである。
「ひゅー、ひゅ、っー……」
放り出されてから数時間後、どうにか息を吹き返したものの、そのまま放置されれば死ぬのは明らかだった。
しかしフィリップには、既に指一本動かすだけの気力も、体力も残っていない。
(こんな……、こんな死に方……!)
奇跡的に戻った意識が、刻一刻と薄まっていく。
(僕の人生って……、一体……、なん……だったん……だ……)
腫れ上がった目から、血と一緒に涙が流れてくる。
フィリップは今度こそ、死を覚悟した。
その時だった。
「お前はここで死ぬべき器ではない」
瀕死の彼に、話しかける者がいる。
「ひゅーっ……」
言葉を返そうとしたが、どうやら肺かのどに穴が開いているらしい。声はただの風音となって、口から出てきた。
それでも、そのフードを深く被った男は、フィリップの意思を察したようだった。
「私は御子に仕える命を受けた者。そう、お前こそが次代の御子となるべき器なのだ」
彼が何を言っているのかはさっぱり分からなかったが、それでもフィリップは、口からひゅーひゅーと弱々しい声を出し、助けを乞う。
「お前に力を与えよう。この世を動かし、意のままに操れるだけの力を」
フードの男が、フィリップの額に掌を押し付けた。
「……!」
鳥の鳴き声で、フィリップは目を覚ました。
「あ……れ?」
昨夜の出来事が、脳裏に蘇ってくる。
「ここは……、天国?」
「そうではない。現世だ」
傍らに立っていたあのフードの男が、フィリップの独り言に答えた。
「うわっ!? ……あ、と、あなたは、昨夜の?」
「そうだ」
「あなたが、僕を助けてくれたの?」
「正確には違う。お前自身の力を増幅し、その結果、お前はお前自身の力で、己の傷を治したのだ」
「……? どう言うこと?」
男の言うことが分からず、フィリップは首を傾げる。
「立てるか?」
フィリップの問いに対し、男はそう返した。
「え? ……うん、普通に立てるよ」
「兵士らにあれだけ暴行を受けた体でも、か?」
「あれ? そう言えば……」
フィリップは自分の体を確かめてみる。服はボロボロになっているが、体にはあざ一つ付いていない。
「人間には自然治癒力と言う力が備わっている。多少の怪我でも、放っておけば数日で治ってしまうのは、その力によるものだ。だが普通の人間であれば肉が裂け、骨が折れるようなダメージまで治癒できる力は持っていない。
お前はその限界を、大きく凌駕しているのだ」
「僕が? まさか! だって僕は、ただの鉱夫見習いだよ?」
否定するフィリップに対し、男は突然、フィリップの腕を取った。
「な、なに?」
「良く見てみるがいい、己の腕を」
「え……?」
言われるがまま、フィリップは自分の腕を観察する。
「……あれ?」
鉱山で働いていたし、元々それなりに筋肉は付いていた。
しかし今、男に掴まれているその腕は、昨日とはまるで筋肉の量、そして付き方が違って見える。
「これって……?」
「もう一度言う。お前の力は飛躍的に増幅されているのだ。昨日までのお前とは、まったくの別人と思え」
「って言われても」
ぼんやりとした返事をしたフィリップの手を放し、男は近くの木を指差した。
「殴ってみろ。全力でだ。それですべてが分かる」
「えー……、痛そうなんだけど」
文句を言いながらも、フィリップは拳を固め、木の前に立ってみる。
自分でも信じられないほど腕にみなぎっていた力を、試してみたくなったからだ。
「じゃあ、……えいっ!」
フィリップは言われた通りに、木の幹を殴りつける。
次の瞬間――ベキベキと木の裂ける音とともに、フィリップの拳が木の反対側に突き抜けていた。
「なっ、……えええっ!?」
「分かっただろう。お前は既に、昨日までのお前ではないのだ。
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NoTitle
うらやましいような、しかしこの後の展開を考えればうらやましくないような。