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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第2部

    白猫夢・帝憶抄 6

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    麒麟を巡る話、第79話。
    怒りの戦場。

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    6.
     フィリップの村でガス爆発事故が起こった、その翌日の夜――。
    「整備を急げ! 明日には前線へ、物資を運び出さねばならんのだ!」
    「了解です!」
     フィリップが暴行を受けたこの基地では、再び起こると目されている戦争に向け、準備が進められていた。
     彼らの頭には鉱村での爆発のことなど、既に欠片も残っていない。

     だから――この襲撃が一体何の理由で行われたか、誰も分からなかった。
    「……ん?」
     どこかから悲鳴が聞こえ、作業の手が止まる。
    「今のは?」
     誰ともなく問いかけられたが、そこへ「答え」の方からやって来た。
    「そんなに戦争したいのか、あんたら」
    「え?」
     バキバキと音を立て、鉄製の扉が引きちぎられる。
    「なっ……!?」
    「そんなに戦争したいのかって聞いてるんだ! どうなんだ、答えろッ!」
     入ってきた兎獣人の少年――フィリップを見て、兵士たちは武器を取り、バタバタと彼の周りに散開する。
    「何者だ!?」
    「ロージュマーブルの刺客か!?」
    「それともプラティノアールの……?」
     口々に兵士たちが素性を尋ねてくるが、フィリップが「そうだ」と答えられるものは、一つとして無かった。
    「僕を覚えていないのか? 僕たちを、覚えていないと言うのか?」
     フィリップの問いに対しても、彼らは呆れた反応を見せた。
    「なに……?」
    「誰だ?」
    「会ったことが?」
     きょとんとする彼らの中には、フィリップを殴りつけた者もいる。
     それでも覚えがない様子の彼らを見て、いよいよフィリップは怒り出した。
    「そんなに戦争がしたいんだな。自国の僕たちが生きるか死ぬかの目に遭ってるってのに、あんたらはそんなことも気にせず、隣の国と戦うことばかりに活き活きしてるのか。
     じゃあ、やってやるよ……! 僕一人と、お前らとでだッ!」
     そう叫び、フィリップは徒手空拳のまま、兵士の一人に駆け寄る。
    「む……!」
     兵士は腰に佩いていた短剣を抜きかけたが、その前にフィリップの拳が彼の顎を捉える。
    「はが……っ」
     一撃で顎と首の骨が粉砕され、兵士の歯が4分の3近く、床や壁に飛び散る。そして兵士自身も殴られた衝撃でくるくると二回転し、床へと倒れ込む。
     その首はさらに180度曲がり、彼は自分の背中を見つめる形となって息絶えた。
    「な、なんて馬鹿力だ!?」
    「くそッ! これならどうだッ!」
     他の兵士が小銃をフィリップに向け、引き金を引く。
     ところがその瞬間――。
    「ごばっ……」
     いつの間にかぐにゃりと曲げられていた銃身に弾が詰まり、腔発(こうはつ)する。腰に抱え込む形で構えていたため、散乱した小銃の部品が彼の腹を貫通し、拳大の大穴を開けた。
    「……ば、馬鹿な」
     10秒も経たないうちに2人が惨殺され、兵士たちは戦慄した。
    「どうした!? やらないのか!? これがあんたらの望みだったんだろ……!?」
    「ひっ……」

     フィリップの村が突如として消滅したように、その基地もフィリップが乗り込んでから1時間余りで、呆気なく壊滅した。



    「……」
     あちこちで火の手が上がり、燃え落ちる基地を背にして、フィリップは立ち尽くしていた。
    「気は済んだか」
     と、あのフードの男がいつの間にか、彼の傍らに立っていた。
    「……済んだよ。……いや、やっぱりまだ、モヤモヤしてるかも。いや、してる。
     だってこんなことをしても、父さんも母さんも妹たちも、友達も帰って来ないんだもの。怒りを無茶苦茶にぶちまけただけだよ、こんなの」
    「しかし迂遠(うえん)ながらも、原因の一つは潰したわけだ」
    「原因だって?」
     尋ねたフィリップに、フードの男はこう答える。
    「そもそも、お前たちが暗い穴倉の奥底で鉱石を掘っていたのは誰のためだ? 石を掘らず、地上で草や牛を相手にしていれば、此度の事故など起こるはずも無かった。違うか?」
    「……違わない、ね」
    「石を欲したのは誰だ? お前たちだったか? お前たちはあの石ころを食べていたのか?」
    「それも違う。欲したのは、王様だ。戦費を稼ぐために、僕たちに何十年も採掘することを強いていたんだ。
     ……そうか、そう言うことか。分かったよ。王様が戦争やりたいって言わなけりゃ、僕たちは鉱夫なんてやってなかったんだな」
     フィリップは振り返り、燃える基地に足を向けた。
    「どこへ行く?」
    「まだ燃えてない装備があるかも知れない。それを、取りに行く」
    「それを使って、何をする?」
    「王様がそんなに戦争したいんなら、僕が相手になってやる。
     そして――王様を倒す。僕がその上に立つんだ」
     フードの男はそれを聞くと、こう返した。
    「よろしい。ではお前はこれより、御子たる証となる名を名乗るのだ。
     お前の名は、これよりフィッボだ」

     これがフィリップ少年とフードの男、アロイス・クサーラ卿との出会いだった。
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    参謀のおかげで力を得て、そして今、参謀のせいで苦しめられているわけで。

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    参謀に力もらってたのかv-29
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