「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第2部
白猫夢・跳境抄 1
麒麟を巡る話、第82話。
城の混乱、街の混乱。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
フィッボが城を抜けて既に半月が経過し、カプラス城内はいよいよ、混乱を極めていた。
「まだ決裁のサインがいただけてないのですが……」
「対プラティノアール前線基地より、敵方の斥候が多数確認されているとの報告が……」
「民衆より、次回配給を早めてほしいとの嘆願書が……」
本来なら皇帝、もしくはその側近が対応すべき事案が日に日に溜まっていく一方で、その処理はまったく進んでいない。
何故なら活動のすべてを、フィッボ捜索に費やしているからだ。
「そんなことはどうでもいい! 放っておけ! 大事なのはフィッボを見つけ、玉座に連れ戻すことだ!」
「いや、しかしですね、このままでは我が国の運営に……」
そしてアロイスに意見しようとする者がいれば――。
「放っておけと言っているのが分からんのか、この木偶めが!」
「げぼ……っ」
容赦なく、アロイスに殺される。
「……ひどいものだ」
「ああ。まったくだ」
その混乱を傍で眺める者たちは、密かに亡命を企てるようになった。
「陛下も逃げたのだから、我々が逃げても咎められはせん、……な?」
「そうだな。それは然り、と言える」
「これ以上ここに留まれば、いつあんな風になっても……」
彼らは今この瞬間にまた一人、頭を吹き飛ばされるのを見て、震えたため息を漏らした。
一方、秋也たちの旅は順調に進んでいた。
「とうとう国境前に来たな」
「ですな。にしても余程、大臣やら将軍やらの連中は混乱をきたしていると見える」
アルトの言葉に、秋也が反応する。
「追ってこないからか?」
「それもあるが、もういっこ目に付くのは、この辺りの雰囲気さ。
こないだ俺たちがここを通りかかった時には非戦闘民、いわゆる一般人が普通に生活してるのは結構目にしてたけれっども、今は全然いやしない。
その代わり、家やら店やらはメチャクチャになってる。盗みなり家探しなりされた感じだ。ってことは、街の奴らはとっくの昔にどっか遠く、敵に襲われないようなところに逃げたってことになる。
メチャクチャにしたのはこっち側の兵士か、それか侵入してきた向こうの兵士かも知れないが、どうしてそんなことをするのか、あるいはできたのか?
こっち側がやった場合であれば物資の補給が無いのか、持ってる物資では間に合わないほど攻撃を受けてるから独断専行で徴発したか、そのどっちかだ。
向こう側であれば当然略奪目的だろうが、そんなことがこれだけの範囲でできるとなれば、よほどこっち側の警備がザルになってるってことになる。
どっちにしてもこれだけ荒れてるってことは、既に末端への対応ができないほど混乱をきたしてるってことになるわけだ。俺たちが初めてここを通った、つまり陛下が城内にいらっしゃり、統治が曲がりなりにもできてた時には、ここは普通の街だったんだからな」
「なるほどな……」
街の惨状を目にし、フィッボは沈痛な表情を浮かべている。
「どうあがいても、私は人民を不幸にしていると言うことか」
「そうなりますな」
にべもなくそう返したアルトに、秋也は苦い表情で返す。
「そんな言い方すんなよ……。フィッボさんが気にしてないと思ってんのか?」
「一々御大の肩を持つようだけどな、シュウヤ。御大が何をどう思っていようと、事実は一つなんだぜ?
何万人もの人間が犠牲になったその上に、偉そうにふんぞり返ってたって言うその事実は、何をどう言い繕ったって変わらないんだからな」
「……」
アルトの辛辣極まりない言葉に、誰も何も言わない。
「皆様方、俺のことを心底嫌な奴だと思ってるでしょうけれっども、事実は事実なんですぜ?
俺としちゃ、今でも御大に何らかのけじめを付けてほしいと思ってるんですがね」
「……だから、ソレを今からしに行くんだろうが。お前こそ、何度同じコトをフィッボさんに言わせれば気が済むんだ?」
「何度でもさ。それこそ、地獄の果てまでも追いかけて、延々そのお耳に唱えてやりたいくらいにな。これっくらいじゃ全然、御大の秀麗なるその頭にゃ、ちっとも入ってないみたいだし」
この言葉に、秋也の頭の中は煮えくり返った。
@au_ringさんをフォロー
城の混乱、街の混乱。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
フィッボが城を抜けて既に半月が経過し、カプラス城内はいよいよ、混乱を極めていた。
「まだ決裁のサインがいただけてないのですが……」
「対プラティノアール前線基地より、敵方の斥候が多数確認されているとの報告が……」
「民衆より、次回配給を早めてほしいとの嘆願書が……」
本来なら皇帝、もしくはその側近が対応すべき事案が日に日に溜まっていく一方で、その処理はまったく進んでいない。
何故なら活動のすべてを、フィッボ捜索に費やしているからだ。
「そんなことはどうでもいい! 放っておけ! 大事なのはフィッボを見つけ、玉座に連れ戻すことだ!」
「いや、しかしですね、このままでは我が国の運営に……」
そしてアロイスに意見しようとする者がいれば――。
「放っておけと言っているのが分からんのか、この木偶めが!」
「げぼ……っ」
容赦なく、アロイスに殺される。
「……ひどいものだ」
「ああ。まったくだ」
その混乱を傍で眺める者たちは、密かに亡命を企てるようになった。
「陛下も逃げたのだから、我々が逃げても咎められはせん、……な?」
「そうだな。それは然り、と言える」
「これ以上ここに留まれば、いつあんな風になっても……」
彼らは今この瞬間にまた一人、頭を吹き飛ばされるのを見て、震えたため息を漏らした。
一方、秋也たちの旅は順調に進んでいた。
「とうとう国境前に来たな」
「ですな。にしても余程、大臣やら将軍やらの連中は混乱をきたしていると見える」
アルトの言葉に、秋也が反応する。
「追ってこないからか?」
「それもあるが、もういっこ目に付くのは、この辺りの雰囲気さ。
こないだ俺たちがここを通りかかった時には非戦闘民、いわゆる一般人が普通に生活してるのは結構目にしてたけれっども、今は全然いやしない。
その代わり、家やら店やらはメチャクチャになってる。盗みなり家探しなりされた感じだ。ってことは、街の奴らはとっくの昔にどっか遠く、敵に襲われないようなところに逃げたってことになる。
メチャクチャにしたのはこっち側の兵士か、それか侵入してきた向こうの兵士かも知れないが、どうしてそんなことをするのか、あるいはできたのか?
こっち側がやった場合であれば物資の補給が無いのか、持ってる物資では間に合わないほど攻撃を受けてるから独断専行で徴発したか、そのどっちかだ。
向こう側であれば当然略奪目的だろうが、そんなことがこれだけの範囲でできるとなれば、よほどこっち側の警備がザルになってるってことになる。
どっちにしてもこれだけ荒れてるってことは、既に末端への対応ができないほど混乱をきたしてるってことになるわけだ。俺たちが初めてここを通った、つまり陛下が城内にいらっしゃり、統治が曲がりなりにもできてた時には、ここは普通の街だったんだからな」
「なるほどな……」
街の惨状を目にし、フィッボは沈痛な表情を浮かべている。
「どうあがいても、私は人民を不幸にしていると言うことか」
「そうなりますな」
にべもなくそう返したアルトに、秋也は苦い表情で返す。
「そんな言い方すんなよ……。フィッボさんが気にしてないと思ってんのか?」
「一々御大の肩を持つようだけどな、シュウヤ。御大が何をどう思っていようと、事実は一つなんだぜ?
何万人もの人間が犠牲になったその上に、偉そうにふんぞり返ってたって言うその事実は、何をどう言い繕ったって変わらないんだからな」
「……」
アルトの辛辣極まりない言葉に、誰も何も言わない。
「皆様方、俺のことを心底嫌な奴だと思ってるでしょうけれっども、事実は事実なんですぜ?
俺としちゃ、今でも御大に何らかのけじめを付けてほしいと思ってるんですがね」
「……だから、ソレを今からしに行くんだろうが。お前こそ、何度同じコトをフィッボさんに言わせれば気が済むんだ?」
「何度でもさ。それこそ、地獄の果てまでも追いかけて、延々そのお耳に唱えてやりたいくらいにな。これっくらいじゃ全然、御大の秀麗なるその頭にゃ、ちっとも入ってないみたいだし」
この言葉に、秋也の頭の中は煮えくり返った。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
NoTitle
詳しくは次話ですが、この辺りからアルトの本性が見えてきます。